2006年 12月 18日

「私が見たシリア」と「あなたが思うシリア」

画像

~シリア、イラク国境近くの遺跡へ行く途中のカフェ~
9.11のあった年の5月のこと・・・この頃は、そうは言っても平穏な雰囲気だった・・・

■シリア関連のニューズ画像のスライドショー■
「ファースト・レディの顔~シリア・アラブ共和国~」
リンク先の画面の写真をクリックするとスライド・ショーが見られるよ♪


中東地域というのは、イメージ先行で実体があまり知られていません。イスラム?紛争地域?それくらいは誰でも分かる。でも、例えばよく耳にする『イスラム原理主義』という単語が、アメリカ人がキリスト教の用語から付けた『俗称』であり、そんな組織も単語もイスラム圏には存在しない、ということを知っている人となると圧倒的に少なくなるでしょう。

そんな中東の中でもマイナーといえるシリア・アラブ共和国とヨルダン・ハシミテ王国をあえて選んで、2回にわたって見ていきたいと思います。どちらの国も、日本で言うと奈良や京都にたとえられるような、世界でも最古の部類に属する洗練された文化を持っているという点に注目です。

■シリア・アラブ共和国って?

シリア・アラブ共和国という名前は、日本人にとってまったく馴染みもなく、そもそもアフリカなのか南米なのかも想像がつかないくらいでしょう。実は、中東。しかも、何かと物騒な話題のイスラエル、イラク、レバノン、ヨルダンと隣接している国なんです。

そもそも身近にシリアのものなんてない!って思うでしょう?
たとえば、最近ならバス・グッズなどの売り場に行くと、四角いオリーブ石けんを売っていますね。よく見ると、シリア第二の都市アレッポ産なんです。

・食べ物
他にも、日本人の心をくすぐりそうなものは沢山あります。食事は地中海系で、かなり美味しい!ギリシャで食べるような、ブドウの葉でクスクスを包んだものとか、ナスをグリルしてペースト状にし、ゴマと混ぜたババガヌーシュは香ばしくて私のお気に入りです。シシカバブは当然ながら、串焼き感覚で日本人の味覚にもバッチリ合います。スウィーツは、ピスタチオを使った小さいパイのようなものがおススメです。

・観光
実は石油が出ないシリアにとっては、観光収入は大事!
そして、イタリアやギリシャと比べても、遜色のないスゴイ観光地スポットがたくさんあるので、後ほど2大巨頭のダマスカスとパルミラについて詳しく紹介しましょう。

・お土産
女性にとっては、石鹸もそうですが、シリアの国花は黒バラで、バラのジャム(本当に美味しい!)やローズ・ウォーターなども心をくすぐるアイテムです。そもそも、ブルガリアのダマスク・ローズが有名ですが、それもシリアの首都ダマスカスが語源なんです。また金が安いので、アクセサリー好きが買い物するにもうれしい場所ですね。

■シリアの政治情勢

そんな気楽な話ばかりして、実際、政治的に緊張が走っている場所だろう、と思うでしょう?モチロン、日本よりは政治的緊張にさらされているといえます。内政面では、2000年に就任したアサド大統領(父親の死去にともない、政権委譲)の独裁政権ということになっていますが、どうやら権力の委譲は完全ではないようで・・・国際派だった父親の時代に日陰の身だった保守派が台頭しているようです。たとえば、今の駐在日本大使は前大蔵大臣・・・どうやら国際派の人たちが苦しい立場にあるのが現状の模様。大統領自身はロンドン大学の医学部出身、夫人もロンドン生まれ。

世界的に見ると、やはり国際派が台頭してくれるほうが、安心ではありますね、当然ながら外国との関係を大事にしようとしますから。それに対して、保旧派は対外的にはタカ派であり、昨今のシリアの危険な雰囲気はそのために醸し出されているともいえます。最近任命されたシャラ副大統領が父親の時代の国際派なので、少し変わるかもしれないと言われています。

テロリストたちはいないのか?!と心配される向きもあるでしょう。イラクと国境を接しているのだから、入国してきてテロを働いたりしないのか?!と思うかもしれません。幸か不幸か、このような独裁政権のもとでは、危険分子は早い段階で摘みとられます。ですから、ある意味、テロリストは彼らに対しても穏健な態度の比較的「政治的に平和」な国・・西ヨーロッパやアメリカ・・での活動のほうが活発だったりする皮肉な面があります。

■「危ないんじゃないの?」

9.11のテロ直前、指導教官とぐるっと一周、そして来年はじめには分布調査にちょこっと参加させていただく予定。怖くないの?危険じゃないの?外務省の海外安全ホームページによると(2006年12月11日現在)イラクとの国境付近「渡航の延期をお勧めします」、上記以外の地域「十分注意してください」。

十分注意が必要なようです・・・。

う~ん、でも、どこもかしこもテロの危険に満ちていて、住民が常に生命の危険にさらされて過ごしているのか、というと・・・疑問です。

■「伝えられる危険」と「現実の危険」との間の歪み

日本にいると、どうしても理解できないのが、他国の危険の度合い。私はアメリカのテキサス州オースティンに7年半住んでいました。街の35号線の東半分は渡航延期を勧める必要があるほど、年中24時間危険(いつ撃たれるか分からないほど)なので普通まともな人は近づきませんが、北西部は日本の田舎町くらい安全。しかし、本やニュースで「オースティンが危険」などと伝えられたことがあるでしょうか?

これは必ずしもシリアが完全に安全という意味ではありませんが、ニュースなどで想像するようなのとも違うんです。これは、私が一緒に仕事をしている人が、来週シリアに行くので、状況報告を追ってアップデートしたいと思います。実際のところ、国境付近以外は、問題なく安全です。(財布丸出しで路上で寝ていても平気、という意味でもありません)

■首都ダマスクス(旧市街地は世界遺産指定)

現在シリアと呼ばれる地域そのものは、先史時代からの遺跡も豊富で、バビロニア王国(紀元前2000年紀)を作った人々ももとはシリア地域出身と言われています。

首都ダマスクスは、ヨーロッパでこれほどの文化遺産を持った場所を探せば、ローマしか見あたらないほどに、歴史のミルフィーユのような場所。
ウィキペディアの「ダマスカス」より

私の中でシリアとは、危険と言われていた時期でも「中世そのままの、おとぎ話の世界」。夜になれば、町中のモスクのミナレットが緑に光って、エメラルドだらけの万華鏡を見ているみたい。そこに歌うようなお経が聞こえてきて・・・もう、アラビアンナイトの世界!

・ウマイヤ朝(661年―750年 日本の奈良時代くらい)
イスラム最初の王朝「ウマイヤ朝」の首都であり、世界最古のモスク、モザイクに彩られたウマイヤ・モスクがあります。そこは歴史的遺物ではなくて、今でも敬虔なモスリムが通い、祈り、交流する場所なんです。絨毯をしきつめた、広々としたゆったりした空間に入ると、モスリムでなくても落ち着いた気分になれました。ここには、洗礼者ヨハネの首塚もあります。

ウマイヤ・モスクを中心にスーク(市場)があり、石畳の細い通りの両脇にはスパイスを売る店の香り、ロバに荷物をひかせる少年、有名なアイスクリーム屋さんの前では行列も!「お腹を壊すかもしれない」とシリア人に止められましたが・・・。とにかく、すべてがまるで中世の躍動感を伝えるようで、エキゾティックでドキドキさせてくれます。

・アイユーブ朝(1169年-1250年 日本の鎌倉時代くらい)
ダマスカスは、十字軍撃退の英雄サラディンのアイユーブ朝の首都でもありました。サラディンの廟は今での多くの人が観光に訪れています。
ウィキペディア「古代都市ダマスカス」より

ダマスカスは、ほかの中東の都市と比べても比較的西洋化が進んでいないので、いい意味で昔の町並みがきれいに残されています。歴史的な町並みの中に、欧米のファスト・フード店などが姿を見せるような無粋なことは起きていません。

デモが起きたり、政治的に過激な情景ばかりがメディアに出ていますが、同時にこの街はこんな中世そのままの顔も保っているのが面白いところです。私はダマスカスにはアメリカ人たちと一緒に行ったのですが、全員「こんなにキレイな場所とは想像もしていなかった」と驚いていました。さすがに私も、今ならアメリカ人と一緒に行く勇気はありませんが・・・

■服装について

・スカーフ
イスラム圏では女性は絶対にスカーフで頭を隠さないといけない?と思うかもしれませんが、シリアの場合は外国人は平気です。また、イスラム教徒の女性でも非イスラム教徒ばかりの場所では、スカーフをしていないこともよくあります。ちなみに、駐日シリア大使夫人はしていませんでした。いわゆる上流階級の人たちは西洋化されていて、自国の外ではほとんどスカーフをしないようです。シリアを含む多くのイスラム圏の国で、外国人や非イスラム教徒はスカーフをしていません。もちろん、したかったらしてもいいんですよ。でも、スカーフをしている理由だの、していない理由などを聞いたりするのは、宗教上の理由などもあるので、避けたほうがいいでしょう。

男性のするカフィーヤというスカーフですが、夏の暑い時期、砂漠ではアレがとても役立ちます。ちなみに、赤と白のチェックはシリア人やヨルダン人などが使用するので、テレビで見かけたら「あの地域だな」とアタリをつけてください。

・女性と男性の服装
シリア人の道行く人は、男性は普通に西洋風。いわゆるカフィーヤをしている人は基本的には見かけません。女性もスカーフをかるく巻いている以外は、普通に西洋っぽい。実は、何より驚いたのが、男性が友達同士で腕を組んで歩いている姿。びっくりしました。あちらでは自然なようです・・・

観光で訪れる女性は、ミニスカートなどは絶対に避けた方がいいでしょう。「うわぁ、やっぱり中東って難しい」って思うかもしれませんが、そんなの、昭和初期の日本人だってミニスカートなんて履かなかったんですから、中東の人の感覚がヘンなわけでもないでしょう。今だって、葬式とかにヘソ出しする人は非常識だと思われる感覚に近い、本来はたしなみの延長じゃないかと思われます。あと、満員電車に乗るときはミニスカートは危険、というのも似ているかもしれません。

・モスクでは
モスクに入る際には、男性でも短パンはNGです。何も女性にだけ、保守的な服装を強いるわけでもないんですよ。「じゃぁ、モスクに入れないや」というご心配は無用!観光客には身体を覆う薄いコートを貸してくれるんです。

■シルクロードの薔薇、オアシス都市パルミラ(世界遺産)

一応紹介したいのが、最大の観光地でもあり、シリアの目玉でもあるパルミラ。
世界遺産にも登録されています。ローマ時代の遺跡で、女王ゼノビアが君臨していた小国です。
こんな場所がシリアには沢山あるんです・・・万が一、シリアが戦争に巻き込まれたりしたら、どれだけの人類の遺産が危険にさらされるだろう、と考えると夜も眠れません。

■シリア人気質

気質は・・・中東といってもいろいろあって、堅い印象のイラク人に比べると地中海気質?時間はわりとゆっくり、日本人からするとちょっとノンビリすぎるようにも思われるほど・・・これは、トルコ人やペルシャ人ともまた違った独特の価値感。

石畳の小道を歩いていると、日向ぼっこ中のおじいさんにお茶でも飲んでいくか?と言われて甘い美味しいミントティをご馳走になったこともあります。なんだか、ほのぼのしていました。

また意外にも、シリア人は陽気でダンスが上手♪しかも、ラテンっぽく腰をセクシーにくねらせる系のダンスが上手なんです。パルミラで現地の男性2人に誘われてダンスに行きましたが、あんまりにも上手でびっくりしました。

そういうのも、あまり知られてませんよね?

過激な場面ばかりの向こうにいる、穏健な普通の人々の平穏な日常、想像するのも難しく、知ることもないものです。そんな無関心や知識不足が、やりきれない暴力の連鎖に、間接的に影響を与えているのではないか?と思えてならない日々です。

私が書いていることが全てではないでしょう。そして同じようにニュースが全てでもありません。物事や事実がプリズムのような立体だとしたら、それをいろんな角度から見ることで、より「ありのまま」を知る手掛かりになることと思います。その、視点のひとつになればと願い、これらの国に対して、ほんの少しでも、偏見が減り身近に感じられるようになるといいと思っています。


■シリア関連のニューズ画像のスライドショー■
「ファースト・レディの顔~シリア・アラブ共和国~」

追って、私がシリアで撮ってきた写真もアップしますね!!
お楽しみに。

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登録日:2006年 12月 18日 01:08:06

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プロフィール
秋田麻早子
秋田麻早子
■プロフィール:
Art Historian たぶん美術史学者、ときどき考古学。
アメリカの僻地の大学・大学院では西洋美術史を専攻。
でも論文を書いたのはアケメネス朝ペルシャ。
・・・美術史という素材の調理方法の可能性を模索しすぎで
エントロピーの法則な日々。

美術史・考古学を軸に、幅広く文化史的なモノゴトとか
特に、アートや学問の世界の面白いとこをご紹介しちゃいましょう。

MA in Art History 2002, University of Texas at Austin
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