2007年 06月 23日

「悪魔の詩」から日本に出来るコト

「悪魔の詩」の著者の首に2000万円の報奨金

【6月22日 AFP】小説「悪魔の詩(The Satanic Verses)」の著者のサルマン・ラシュディ(Salman Rushdie)氏への英爵位授与の決定を受け、パキスタンのイスラマバード(Islamabad)の商業者協会は21日、同氏の首をはねた者に対し1000万ルピー(約2060万円)の報奨金を与えると発表した。(c)AFP

AFPBB News


最近、ちょっとおしゃべりをしたイラク人の考古学者が「ぼく、宗教なんて持ってないよ」と笑いながら言ってました。

中東=過激な宗教、のイメージと、現実はズイブン違います。日本だって宗教活動に熱心な人と、宗教に敬意を払いつつ自分はそこまでファナティックじゃない人がいるように。

このラシュディに関する事件は、20年近く前のことなので、もう記憶にない人の方が多いかもしれないけど。

サルマン・ラシュディの本は、日本人の読者にとっては、こんな過激な事件に繋がったほどに、内容は過激ではありません。読んでみたら、きっと「何がそんなに問題なの?」と思うくらいでしょう。

各国で、翻訳した人までが事件に巻き込まれましたが、すべてが必ずしも過激なイスラム教徒によるものでもなく、どさくさ紛れの”便乗”もあったようです。それも、あまり語られないことでしょう。

■イラン革命

イラン革命(1979年)というのは、それまで王制で、比較的西洋寄りの改革を当時進めていたイランが、ホメイニという強力な宗教的指導者のもと保守的なイスラム教を軸にした国作りにしよう!と大きく軌道修正したものでした。

というのは、一応の流れを簡単に説明する表現。

実際にはですね、王政時代(パフレヴィー)の近代化政策で、大土地所有制に基づいたイスラム勢力(宗教勢力ですね)と結びついた勢力(地主、マーレキという)の権限を小さくしてしまった。それに対する反動で、イスラム勢力が動いたんですね。

地主のマーレキ(オムデマーレキ、ホルデ・マーレキ)と実際に耕作をするライーヤト達の間にたつキャドホダーという地位の人たちがいて、国王派はここと結びついた。

このイラン・イスラム革命は、欧米の目から見ると、時代を逆行するような革命ですが・・・果たしてイランの人にとって、そのまま欧米化するのが必ずしも良かったかどうかさえも、それはまだ判断できないのじゃないかと思います。

■上澄みがかわっただけ

マルキシズム的解釈とかだと、貧しい気の毒な農民たちを救うために、イスラム勢力が出てきた・・・と思うかもしれませんが。違うんです、国王(新欧米派)VS地主層(+宗教勢力)の権力争いです。

当時イランの農村に実際に住み込んで研究をされていた大野盛雄先生も書かれていますが「宗教界が厳しい立場におかれている農民のために、何の発言もしていない」という状況でした。

要するに、支配層が交代しただけで、土地を所有しない耕作権をもつだけの農民たちにとって、もしかしたら前以上に厳しい状況になった人も・・・いたかもしれません。そして、マーレキとキャドホダーがそれぞれ反対勢力になったのですから、それまでに作られていた農民同士の横のつながりというものが、一旦分断されてしまって、かえって貧しい層がよりいっそう途方にくれる事態にすらなったといえます。

でも・・・もし仮にね、そのまま欧米化しようとしたら、もしかしたら、それはそれで、イランの土着の文化との軋轢を生んで、別の形で混乱が起きていた可能性だってあったんじゃないでしょうか。

■日本以外の国の近代化・・・

地球全体を、資本主義国がリードするという時代で、イランという国が近代化する過程の物語でしょう。でも、それは、とっても難しいみたいで、いい方法を探し続けているようにも見えます。自分たちとは相容れないことが多い欧米に対する強い反発があるだけに、ますます難しくなるようです。

東京大学のイスラム学の権威、山内教授もおっしゃっていますが、日本だけが自国の文化を犠牲にせずに資本主義を導入するのに成功した国。だといえるんじゃないでしょうか。日本らしさを捨てずに、かつ、欧米諸国に負けない経済力を、欧米の土俵で成し遂げたわけです。

中東各国は、日本のモデルケースから何か学べないだろうか?というスタンスを持ち始めているようです。もう、中東の知識人は、冷戦時代のような「被害者」意識を脱却しつつあり、諦めモードから「何か自分たち独自の近代化の方法はないだろうか?欧米ともうまくやりつつ」という方向に向かっているようです。


日本人も、楽しい楽しいの毎日だけじゃなくて「どうして、日本はうまくやれたのだろう?」とか、逆に「日本はここまで欧米におもねる必要はないんじゃないだろうか?」など、歴史という時間軸、地球上という空間軸、両面において、成功の理由を謙虚に冷静に考えて、他の地域に還元していくという形での援助・交流を模索できたらステキだと思いますね。

カテゴリー[ カルチャー ], コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2007年 06月 23日 19:20:32

カレンダー
< 2007年 06月 >





1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
秋田麻早子
秋田麻早子
■プロフィール:
Art Historian たぶん美術史学者、ときどき考古学。
アメリカの僻地の大学・大学院では西洋美術史を専攻。
でも論文を書いたのはアケメネス朝ペルシャ。
・・・美術史という素材の調理方法の可能性を模索しすぎで
エントロピーの法則な日々。

美術史・考古学を軸に、幅広く文化史的なモノゴトとか
特に、アートや学問の世界の面白いとこをご紹介しちゃいましょう。

MA in Art History 2002, University of Texas at Austin
検索