「追憶の《セナプロ時代》その1」で一句

アロンソ トルコGPで3位入賞を果たす

【8月26日 AFP】F1第12戦・トルコGP(Turkish Grand Prix 2007)、決勝。
≫続きを読む…
(c)AFP

AFPBB News


画像

オーガバトル セナ・プロストの エゴと意地

四天王時代、2強対決。
20年前の“熱き時代”をトレースする煽り文句。
コース内外で繰り返されるいつか見た確執と煩悶。
デジャヴか、パブロフの犬か
脳裏に甦るのは、トラウマの風景。
血で血を洗う文字通りの《真剣勝負》…。

ロン・デニスも若く髪は多かったが、経験値はまだ少なかった。
何よりセナとプロストという当代随一のドライバー2人が
コース上で《喰人鬼=オウガ》と化し、死力を尽くして戦った。

だから、醜悪で陰惨だった。
故に、純度100%の燦めきがあった。

そんなセナとプロストの時代。
《1988年・激突編》を数回に分けてご紹介。
(思い込み&事実誤認ご容赦/不定期御免)

“死闘”の幕開け
アイルトン・セナには、確信があった。
自分は、誰にも負けない《パーフェクトな存在》だという確信が。
それを証明するために、いくつかカードが必要だった。

やがて「ホンダ」という「キラーカード」を手中にしたセナは、
1988年、ついに《マクラーレン・ホンダ》という
“ロイヤル・ストレート・フラッシュ”並みの手札を完成させる。
ただそこに1枚、余計なカードが混ざっていた。

「アラン・プロスト」という名の“ジョーカー”。
そのままの状態でも、セナには十分、勝算はあった。

ただ、セナという人間は、
如何なる時も“不完全”という状態を嫌い、
レーシング・ドライバーとして─「勝利」に対しては特に─
病的なほど《潔癖症》過ぎた。

セナは、ある事を決断する。

セナの決断
それはプロストから全てを「奪う」事。
誰もが認めた「旧き王者」の栄光と尊厳を破壊し、
その影すら跡形もなくテリトリーから払拭し、
自分が「新時代の王」である事を高らかに宣言する事。

それはセナにとって、当然の権利だった。
神から授けられた“己が才能”を世に知らしめる事。
それこそが自分が生まれ持った使命。
そこに一片の疑いもなかった。

プロストがその事を理解するために数ヶ月を要し、
ロン・デニスに到っては、3年後にやっと認めざるを得なかった。

用意された“試練”
開幕戦・母国ブラジルで、セナはポールポジションを獲得。
幸先の良い出だしだった。
セナは、最終予選後のインタビューでこう答えている。

「素晴らしいね。母国で、しかもマクラーレン・ホンダに
チーム移籍した最初のレースでポールを獲れるなんて。
重要なのは、ココで僕たちの車のポテンシャルの高さを見せつけられたって事。
この時点での大きな格差は将来的に《僕とチームにとっても》ハッピーな事だね。
ただまだ、僕自身がマシンについて学ばなければならない点が多いから、
明日のレースが実際のトコロどうなるか分からないけど、
多分、エキサイティングなレースにしてみせるよ。」

在る意味、これは予言に近いコメントだった。
決勝は、ほぼその言葉通りの展開となる。
ただ勝者が、彼本人でなかっただけで…。

プロストは予選中のTカー乗り換えなどもあり3番手がやっと。
予選中、終始快調だったセナとは対照的にプロストの予選は散々だった。
フリー走行でのフロント翼端板の破損によりハンドリングに不調を抱えてしまったのだ。
セナは、レース序盤の敵をまず隣のマンセルに狙いを定める。

決勝レース開始を告げるグリーンフラッグが振られ、フォーメーションラップが始まった。
トップを行くセナは、周回後半、極端にペースを落とす。
排熱効率の悪い[FW12]に乗るマンセルを牽制する作戦だった。

ところが、“策士、策に溺れる”。
1番グリッドについた数秒後、セナのマシンの方に異常が起きた。
エンジン停止。両手を振り「始動不能」をアピールするセナ。
後方では、無関係なイヴァン・カペリのマシンが煙を吐く。

一斉にイエローフラッグが振られ、スタート中断。
水温計が危険域に達していたマンセルは、ただ1人スタート。
観客から水ボトルを投げつけられても構わず、クールダウンを続ける。

実は、セナのマシンは決勝直前からすでに不調を抱えていた。
グリッドにつく直前にバッテリー交換をしていたのだ。
トラブル原因の掴めないセナは、やむなくTカーにマシンを交換する。
せっかく獲得したポールポジションも水の泡。不覚のピットスタート。
カペリを後ろに従えピット出口で待つセナ。
優勝の可能性は、ほぼ無くなったと誰もが思った。
実際、この時点でセナは、レース参加資格をすでに失っていたのだが…。

静かな序盤
2度目のフォーメーションラップが開始される。
後方にまだ準備の終わっていないマシンがいたが、再度グリーンフラッグが振られた。
チームクルーが慌ててコースサイドの芝生へ退避する中、各マシンは爆音を上げながら発進。
全車、順調に周回を終え、再びグリッドへと戻って来る。
プロストの前には、空席の1番グリッドが開いていた。
何の問題もなく(マーシャルがスタート直前、コースに寝転がろうとする人間を排除しながら)
レッド・シグナルからグリーン・シグナルへと変わり、決勝レースがスタートした。

プロストは、セナ不在の空間を活かしスタートダッシュを決める。
マンセル(ウィリアムズ)を置き去りにし、
オープニングラップをトップで戻ってくるプロスト。
予選までの不調が、まるで「ウソ」のようだ。
以後、プロストはマンセルを抜いた2位ベルガー(フェラーリ)との差を
1周ごとに着実に1秒強ずつ広げ始める。

1位プロスト、2位ベルガー、3位マンセル、4位ピケ。ターボ勢が上位を占める展開。
ただその後方では、ティエリー・プーツェンが極彩色のベネトンB188を自在に操り、
5位ミケーレ・アルボレートの乗るフェラーリをオーバーテイクしていた。
やがて来る自然吸気エンジン時代の足音。ターボ時代の終焉を感じさせた。

勢いに乗るベネトンは、前を行くピケ(ロータス)との差を詰め始める。

“破・急”の展開
そんな8周目、画面が空撮へと切り替わる。
信じられないスピードで純白と赤のマシンが前走車を追い抜いて行く。
「プロストが周回遅れをパスし……いや。セナ!セナです。なんと11番手!」
アナウンスも狼狽えるほど、セナの走りは鮮烈だった。

ほとんど映らなかった序盤から常識外れのペースで追い上げてきたセナ。
“ターボ”と“自然吸気”の差は縮まる…という前評判は、その瞬間に雲散した。
《マクラーレン・ホンダ》とその他の間に存在する「ポテンシャルの格差」。
インタビューでのコメント通り、その実力差を見せつけるように遅い車を追い抜いて行く。
セナにとって、それらはまるで「存在しない」も同然だった。

13周目には、アルボレート(フェラーリ)をパスして6位入賞圏内へ。
さらにセナは、小競り合いを続けるプーツェンとピケの2台にも急接近していく。

16周目には、まずベネトンをバックストレートで、直線スピードの差を活かしパス。
続く17周目には、因縁あるピケさえも同じ場所で、あっさりパスしてしまう。
同じホンダエンジンと思えないほど、ポテンシャルの差は歴然だった。

セナ4位。ここまでオーバーテイクしてきたマシンは19台。
表彰台がもうそこまで見えていた。

そんな18周目。マンセルがタイヤ交換のためにピットイン。
しかし、マンセルがピットを出る事はなかった。
ピット上でエンストしたジャドエンジンは、その息を永遠に止め、
マシン後部から致命的オーバーヒートを示す蒸気だけが吹き出していた。

翌周には、フェラーリのベルガーがタイヤ交換でピットへ。
セナは、ついに2位。プロストの後ろまで辿り着いた。
しかし、セナはまだピットインしていないため、この2位も暫定的なものだった。

無情のブラックフラッグ
26周目にプロストがタイヤ交換でピットイン。
この時、マクラーレンのピットクルーはらしくないミスを犯す。
左フロントタイヤの交換に手間取り5秒余分にタイムをロスしてしまう。

27周目。セナのタイヤ交換。
しかし、セナのマシンはまたここでもエンジンが止まってしまう。
セナは指でエアスターター始動の指示を送る。

しかし、ピットクルーはまたもやミスを犯す。
エアスターターのエア残量が足りずエンジンを始動できなかったのだ。
結局、セナのピットアウトは32秒後。
25秒ものタイムロスは、セナを一気に6位まで後退させてしまう。
だが、セナの闘志の火はさらに燃え上がったように思われた。
それは遠く日本で見ていた多くのF1初心者たちの気持ちが燃え上がった瞬間かもしれない。

しかし、CM明けにそんな日本の視聴者たちが目にしたのは、
セナへ向けて提示される無情のブラックフラッグだった。

「レース開始の合図であるグリーンフラッグ提示後のマシン交換禁止」規定違反による「失格」。

しかし、見ていた多くのにわかセナファンたちには、その理由も意味も分からなかった。
ただセナが、不当かつ一方的に「失格」を言い渡されたようにしか思えなかった。
ピットレポート・森脇氏の「あまりに理不尽」という言葉や
解説・今宮氏の「出すならもっと早く出すべき」という意見がさらにその不当性を強調していた。

処分がここまでズレ込んだのは、スチュワードの裁定に対してロン・デニスが抗議したため。
レース映像見ると、確かに2回目のスタートでグリーンフラッグは振られている。
レギュレーションの言葉尻だけとらえれば「違反してないじゃないか!」とも言える。
しかし、グリッド上に残ったマシンは1周多く走ったマンセルも含めて燃料の追加給油をしていない。
そこで満タンのセナがピットからスタートする…コレはフェアなレースとは言えない。

しかし、本来、レースやり直しの時点で「全車再給油を許可」すべきだったのだ。
結局、セナはレース主宰者側のミスをムリヤリ押しつけられた形で「失格」となった。

もしもセナが「失格」にならなければ
ここでまたもや究極の「タラレバ」。
「セナ失格」がなければ、果たしてセナはプロストを破り、優勝できただろうか?

私もずっと「セナはブラジルで優勝する機会を奪われた」と思っていたのだが、
実はレースをよく見直してみると「それは絶対なかった」と思わざるを得ない。

現代のようにリアルタイムで表示してくれない
1周近くタイムラグのあるタイム表示を見つめながら
プロストの恐るべきレースコントロール術をじっくり堪能した。

セナが序盤に遅い車をガンガン抜いていた11周目。
プロストとセナのタイム差は33秒600

フェラーリ、アルボレートをパスした13周目
プロストとセナのタイム差は33秒209

豪快にロータス、ピケを料理した17周目
プロストとセナのタイム差は35秒129

そして、マンセル、ベルガーのピットインでセナが暫定2位になった後

21周目 プロストとセナのタイム差は30秒379

22周目 プロストとセナのタイム差は32秒197

24周目 プロストとセナのタイム差は33秒265

この後は、プロスト-セナのピットイン。
セナの失格などもあり、タイム差表示はここまで。

しかし、セナがベルガーを攻略し、2位に上がっても、プロストとの差は、
最後まで33秒前後から縮まる事はなかっただろうと思う。

セナの失格後、プロストは2位ベルガーに対しても安全圏に達するまで
決してタイム差を縮める事を許さなかった。

まさにプロフェッサーの名に恥じない鉄壁のレース戦略。
予選での「不調」「イライラした素振り」まで全て計算でやっていて
そうやってワザとセナの油断を誘ったのではないか?…などと疑ってしまう。

ゴール後、すぐにコース脇に止めて「燃費ギリギリだった」ように見せかけるプロスト。
ベルガー、ピケ、中嶋など誰もが汗だくになり、疲れた表情を見せる中、
ただ1人、汗ひとつ流したように見えない、ゴール後も落ち着いた表情だったプロスト。

セナの野望を知ろうが知るまいが…
プロストによるセナ攻略は、それ以前からすでに進行中だったのでは?

そう思わせるほど、プロストは平然とマイペースにレースを勝って見せた。
そうやってチャンピオン候補たるレーサーの格の違いを見せつけ、
「王者」のレースとは何かを「失格者・セナ」に見せつけようとした。
開幕戦・ブラジルとは、そんなレースだったように思える。

ただセナは、まだプロストの恐ろしさに気づいておらず、
それ以前に、セナは己の中の敵にも気づいていなかった。

カテゴリー[ F1・昔ばなし ], コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2007年 09月 04日 00:44:33

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2007年 09月 >






1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30





プロフィール
斎藤モ吉
(男)
福岡の片田舎でデザイナー兼ライター営業中。F1にハマったきっかけは、仕事関係で見始めた1987年のドイツGP。プロストとピケの麗しい姿に感動。
好きなレーサーは、ジル・ヴィルヌーブとアイルトン・セナ。好きなF1マシンはフェラーリ312T4。好きなF1マンガは『赤いペガサス』。好きなF1映画は『グランプリ』。好きな言葉はジル・ヴィルヌーブの『来年がやってくるってどうして言えるんだい? 』
最近のトラックバック
お気に入りリンク
検索