「クレイジー・ハート」。 「アウトレイジ」より薄味だが見た後はすっきり味」


クレイジー・ハート / Crazy Heart

ジェフ・ブリッジス(ジェフ・ブリジズ)版「レスラー」と言われているようだがプロレスと音楽の有り様が違うと思うのだ。カントリーで落ちぶれた人間を歌うことはふつうだろうし、それを自分の身に起こったことかのように演じて歌うのもできるだろう。これに対して本当に辛い人生を経験しなければ落ちぶれた人間のことをリアリティもって歌えないという意見もある。個人的には必ずしもその意見に賛同しないが、そうした人間の歌に説得力があるケースも多い。歌手は生き様と歌という表現が一致する必要がない。そこが「レスラー」との違いだと思う。つまりこちらは主人公と俳優のイメージを重ね合わせる必要もない、その意味では当たり前だが何人もの他人になる俳優に近い(カントリー歌手のティム・マッグロウは出演した映画で「プライド」は飲んだくれの親父を演じ、「幸せの隠れ場所」は実業家として成功した男を演じたことを連想した)。

まあその前にインディー作品から「アイアンマン」まで出ているジェフ・ブリッジスとロバート・ロドリゲスかQT/RR風味の演出に入れ込んでいた時期のトニー・スコット作品くらいしか出ていなかったミッキー・ロークという現在の立場の差がある。それに"俺にはこれしかないから、誰になんと言われようとこれをやる"というテーマであった「レスラー」とはかなり違う映画である。話はそれるが「レスラー」の主題歌を歌ったブルース・スプリングスティーンはあれだけの成功者でありながら、負け犬ソングを作れる才能は(パフォーマーとしての好き嫌いはともかくとして)すごいと思う。

これは音楽が題材となっているが音楽映画ではない。アルコール中毒の落ちぶれたカントリー歌手バッド・ブレイク(ジェフ・ブリッジス)が若い女性と知り合い、人生をやり直そうとするが一度は失敗し、再度やり直すというストーリーはじつにシンプルだ。

アルコール中毒といってもゲーゲー吐く姿がほとんど中毒というより酒に弱いだけに見えてしまう。僕自身は酒を飲まないし、モンゴロイドは酒に弱い比率が高いとされる。それでも酒ぐらい飲めると思ってしまうのはCMや映画やマンガの影響だが、弱い結果としてゲロで汚れる繁華街の道路が出来上がると聞いたことある。酒に強ければやられるのは肝臓や記憶に害が出るらしい。それらの真偽はともかく、この映画でも記憶が飛ぶ描写はあるものの、全体としてはアルコール中毒の描き方はあっさりとしている。それなのでバーでの事件も不自然に感じてしまう。それだけでなくじつは全体的にもあっさりしている。なんとなくそうだとは感じていたが、AAミーティングに行った後に時勢が飛んで更生しているときに確信した。ずっと会っていない息子も電話の会話だけで済まされるし、映画の中心となる女性記者との恋愛描写も同様だ。もちろん何度も離婚していることやその前にライブに来ていた中年女性と寝ていたことを描いてはいるが効果的ではない。

というわけで演出の失敗ばかりが続くこの映画だが、印象は悪くない。その理由は色々な形の愛に溢れているからだ。それが一番良く表れているのがコリン・ファレル演じるかつての弟子、今は人気歌手になっている。彼はバッド・ブレイクに立ち直ってもらおうとコンサートに出るように誘い、曲の依頼をして見せる師弟愛を見せる。共演時の視線もとても良い。バッドの身体を思いやり契約条項にアルコールを飲ませないようにするマネージャー。さらにはロバート・デュヴァルが地元の友人を演じていて良い。ふつうならマネージャー役をやりそうだが、プロデューサーを兼任する彼が一歩引いた役割を引き受けたことで二人の友情がより引き立っている。釣りの場面にそれがよく表れている。私生活の問題等で一線から遠ざかっていたがコリン・ファレルの復調も順調のようだ。

ジェフ・ブリッジスは熱演というのとはチョット違う、画面に登場したときに演じている役者ではなくキャラクターを感じさせるという意味では「インビクタス」のモーガン・フリーマンと並ぶ。しかもこちらは実在人物ではない。それでいて映画に描いていない部分を感じさせたと言ったような力の入りすぎた役作りでもない(まあ個人的にはジョージ・クルーニーの非実在ライアン・ビンガムの方が好き)。マギー・ギレンホール(ジレンホール)の演技も肩に力を入れないわりとふつうの演技を披露、この人が持っている性格の良さみたいなものが滲み出ていると思う(いや本当は腹黒だとしたらそれはそれで面白いのだが)。

歌はもちろんジェフ・ブリッジス本人によるもの、アカデミー賞主題歌賞を受賞したライアン・ビンガムより貫禄のある声を聞かせる。コリン・ファレルも思ったよりうまい。ただ大会場での演奏シーンにどことなく音響的違和感があったのは気のせいだろうか。

カテゴリー[ その他映画 ], コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2010年 06月 15日 17:48:47

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2010年 06月 >


1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30


プロフィール
JK
エミー・ファン!ブログ
最近のトラックバック
お気に入りリンク
検索