「ザ・コーヴ」。 「インセプション」と似てタイムリミット・サスペンスがうまく機能していない

ザ・コーヴ / The Cove

これを見る日本人は何らかの色眼鏡で作品を見ることになる。僕の場合はアカデミー賞授賞式での電話番号が書いてあったプラカードを記憶に残っている。つまりこの作品が集金目的で作っていると言う分かりやすい構図だ。この映画を反捕鯨団体が作っているから連中に金が入るのが嫌だという人がいる。料金が1800円だとして各種取り分を取り除けば彼らの入るお金はそう多くはないはず。むしろ彼らが狙っているのは大口の寄付なのだ(公開中止運動でそれに成功したとして、それによる損失と公開中止騒動が海外に伝わることで集まる寄付金のどちらが多くなるかが問題)。

この映画の主人公と言うべきリック・オバリーは少しおかしい人だ。天才と呼ばれる人の多くはそうだが、この表現が不適切なら自分が思う正義をかたくなに信じて他人の意見をほとんど聞かないタイプの人間と言い換えてもいい。太地地元の警察(?)は思いっきりばかにしているし、町の人に殺されると思うのは勝手だが、変装するならマスクよりカツラがいいと誰かアドバイスしてほしかった。

この映画がヘンなところはリック・オバリーがイルカに対して色々と語るのにそれを裏付ける科学者の意見がほとんどないこと、クジラに関してはある程度あるだけに対照的だ。知能が高く彼が飼っていたイルカが自殺したと言うならどうして太地で窮地に陥ったイルカは自殺しないのだろう?その前にイルカの習性を利用して追い込むなんてじつに知的な漁だと思ってしまう。まあグアンタナモでは人間に対しても同じようなことをしているらしい。

水銀に関しては情報が小出しにしていると感じる。あの話から水俣病まで持ってゆくのも数字をきちんと示さないので説得力がないし、水俣病についても勉強不足だ。IWC総会における多数派工作に関しては、政治の世界とはこんなものだと思うから、これ自体が卑怯だとも思わない。

太地町民の映像は日本公開用にモザイクをかけているが、それによって彼らの表情が見えず、怒っているのか、バカにしているのか、見下しているのか分からないのは残念。給食の話以外の町民はほとんどカメラを持っていて互いに監視しているのが面白かった。どちらも相手のミス(明らかな犯罪行為)を待ち構えているのだ。肖像権の問題に関しての個人的には考え方は、勝手に撮影してもいいのは権力者・社会的地位の高い人の不穏な行動、事件や犯罪の現場にいる人なのだが、この映画を作った人たちにとって太地町民は犯罪者なのだろう。もちろん太地町民は犯罪者ではないが社会悪と思う人もいる。そして彼らを社会悪と決めるのはコモンセンスなのだ。その流れを映画制作者は作ろうとしているところにこの映画のずるさがある。

この映画に対して主張などは別としてエンターテインメントとして楽しめるという声がある。隠しカメラを仕掛ける場面などがそれにあたるのだが、これはどうだろう。隠し撮りのために各種スタッフを集めるのだが。結局イルカに関心があるのはイルカと泳いだことのあるダイバーくらいなので連帯感がない。それよりも問題なのは時間の問題なのだ。「マン・オン・ワイヤー」を見れば分かるようにサスペンスとしてハラハラできるのはタイムリミットがきちんとあるときだけだ。隠し撮りを決めてからアメリカでスタッフを集めこの映画がダメなのは太地町に来るまでにかなりの時間がかかっているはずなのだが、それを省略し過ぎるので緊張感が生まれない。急にシー・シェパード支持の女優が漁を妨害するところが入るなど意味不明な挿入もある。それならシー・シェパードと太地町の対立史を入れないとおかしい。

というわけでいいところがあまりないこの映画だが最後良ければすべて良しというタイプの映画なので、最後の入江のショットは映画制作者にとっては満足がいくものになったのだろうが、食肉にすることを前提にしているので赤い海になるのは当然なのでそれ以上は感じなかった。水族館用に取っていて残りを趣味で殺しているなら多少事情が違うのだが。

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登録日:2010年 08月 01日 23:12:12

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