2008年 03月 05日

2008年ベスト候補「4ヶ月、3週と2日」

パルム・ドールを受賞したムンギウ監督ら、母国で会見を行う

【6月1日 AFP】映画『4 Luni,3 Saptamini si 2 Zile』で第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)の最高賞「パルム・ドール(Palme d’Or)」に輝いたクリスチャン・ムンギウ(Christian Mungiu)監督らが31日、母国ルーマニアのブカレストで記者会見を行った。
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(c)AFP

AFPBB News


4ヶ月、3週と2日/4 luni, 3 saptamani si 2 zi/4 MONTHS, 3 WEEKS AND 2 DAYS

2007年映画ベスト10のときに東欧が舞台の映画が増えるだろうと書いたが、これは英米が舞台の映画を想定していたので、ルーマニアの監督が自国の歴史を描いたこの2007年のカンヌ国際映画祭パルムドールは念頭においてなかった。

これが長編二作目の40歳というクリスティアン・ムンジウの力量はかなりのものがある。ワンショットを基調とした映像、現実感にこだわった台詞や緊張感たっぷりの演出のどちらも素晴らしい。監督の頭の中できちんと完成図ができていないとこうは撮れない。最近長回しで話題になった映画というと『トゥモロー・ワールド』があったが、これを観るとあちらがテクニックのためのテクニックに見えてしまう。この映画にもそれを感じる箇所がないといえば嘘になるし(長めの会話でウトウトしたと告白しておく)、さすがに夜が暗すぎるなど気になる点はあるが大した問題ではない。

これと似ている映画というと題材も共通している『ヴェラ・ドレイク』だろう。マイク・リーは役者に自分の台詞以外の台詞を教えないことでリアリティを出すが、それによって生まれた演技の印象は個人よりはアンサンブルの素晴らしさが目立つ。こちらは登場人物が少ないこともあって個人の良さが際立っているように思う。

メインの3人の俳優はどれも魅力的だが、とくに主役のオティリアを演じるアナマリア・マリンカが素晴らい。すでにイギリスで活躍しているので、姿を見る機会も増えるだろう。オティリアとガビツァの関係は日常・非日常、主・従がころころ変わるような快感を味わえる。ローラ・ヴァシリウ演じるか弱いガビツァは観ている側をイライラとさせるが、それは彼女の演技がよく出来ている証拠だ。わがまま言い放題の姿やコトが済んだ後でのあっけらかんとした表情などは見事(これは卒業パーティー中にトイレで出産して、またパーティーに戻った女性の話を思い出した)。同じことはベベ役のヴラド・イヴァノフにも言える。こちらは文字通り最高に嫌な奴だ。彼の言動は立場的には真逆だがいかにも公務員的なホテルのスタッフと似ている。この辺りもうまい。

日本人から見て一番の謎なのはオティリアがどうしてガビツァにあんなに尽くすかだろう。監督によるとすでに倫理観を失っていた状態だそうだが、この映画ではその背景については直接描いていない。しかしそれでこの映画の価値が下がることはない。この映画は中絶の是非を問うような映画ではなく、国民があのような状況にまで追い込まれていた斜陽のルーマニアを描き、どこかおかしくなった国の中で必死に生きようとする人々を切り取った映画だからだ。それ意味ではこの映画はいわゆる社会派映画ではなければ、女性の友情をメインにした映画でもない。

それでもいくつか理由を考えてみる。
(1)オティリアはガビツァに大きな借りがある
あの恋人はかつてガビツァの恋人だった。子供の父親はオティリアの近くにいる人である。とにかく色々と世話になった。
(2)オティリアはガビツァに大きな貸しを作ろうとしている
ことわざで言えば情けは人のためならずということになる。たとえ法を犯しても正しいことをしていると信じているオティリアは、このような行為をしていればいつかは社会のためになると信じている。オティリアは自分が中絶をしなくてはいけなくなったときにはガビツァに頼ると言っているが、彼女が直接助けてくれなくても彼女にした行為が噂で広まれば誰かが助けてくれるだろう。
(3)体制への反抗
これは映画評等で一番多い意見である。映画は共産政権末期の空気を反映し活気は無く、夜は文字通りに暗いなど国力が落ちているのは明らかだ(ちなみに冒頭の輸入商品を売りさばく風景は、アメリカ映画ならドラックの売買になる)。その一方で、ホテルのスタッフとのやり取りはいかにも共産国家らしいものである。途中の恋人の家における誕生パーティーの華やかさは見栄を感じてかえって寂しさすら漂う。そしてパンフレットの監督のインタビューにあるように、バスの中でオティリアがキップを譲ってもらうと言う場面は、車掌のお役所仕事に対する小さな抵抗と言えそうだ。オティリアがガビツァに尽くすのもそんな小さな抵抗の積み重ねなのかもしれない。
個人的には(2)をベースに(3)と勝手に解釈している。

馴染みの薄い国からこんなに凄い映画が来るとは映画というメディアの面白いところで、音楽だといくつかのクッションが必要になるのでこうはいかないのではないか。家でパンフレットを眺めながらガビツァの名前がGabitaとなっていることに気付き、IMDbをチェックするとGabriela 'Gabita' Dragutとなっていた。彼女の名前は天使ガブリエルに由来する名前なのか。

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登録日:2008年 03月 05日 22:16:12

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