2008年 05月 27日
アプトン・シンクレア 『石油!』
映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の原作(一応)アプトン・シンクレアの『石油!』を読む。とても長い小説だが事前情報通りに映画は冒頭の極一部の設定を利用しただけだった。長編小説を映画のサイズに収めるために短くするケースが多いが、これは一部を拡大したという意味では短編の映画化に似ているかもしれない。小説と映画を比較して違和感があるのは映画のポールの存在だろう。どうしても蛇足に感じられる彼の存在は原作から残った中途半端な設定と言える(以下、小説は父親・息子、映画はダニエル・HW)。
小説の主人公は父親ではなく息子、息子は父親の仕事を近くで見ながらも社会主義に傾倒して行く。それに影響を与える人物の一人が友人のポール。この二人が小説の中心人物となっている。イーライは数箇所出てくるのみだが、強い印象を残す。映画では女っ気がまったくないが、小説では色々とある。映画では映画業界はほとんど出てこないが、小説では息子が女優と付き合っている。ポール・トーマス・アンダーソンは明らかに意図的にその要素を外している。逆に映画の冒頭にあるゴールドラッシュは小説ではない
個人的には映画のストーリーは実に奇妙で、起承転結の「転」と「結」をつなぐ部分もわざと飛ばしている。その後に「結」が急展開をするわけだが、これは小説のラストにも似ている。ただし小説のほうはそれまで長いページを割いて登場人物たちの変化(衰えや成長)を描いているので、展開が急であっても起こることには納得できる。映画はそうなっていない。ダニエル一人に焦点をあてているようでいながらまったくこの人物が掘り下げられていない。その意味ではこのアダプテーションは見事に失敗している。しかし「転」と「結」の間に出来てしまった「間」について考える機会を観客には与えられる。これはこの映画の良い点である。例えばHWの独立とそれに対するダニエルの態度がそれだ。ダニエルにしては甘いと思われるこの行動の理由とは何なのか、観客に問いかけられた永遠の謎である。
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登録日:2008年 05月 27日 23:06:35
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