2010年 03月 28日

「息もできない」。 「フィリップ、きみを愛してる」のスマートさとは対照的


息もできない / Breathless

「渇き」の最後で言及していた韓国映画。大当たりではないが自分にとっては久しぶりにアタリの韓国映画となった。一応バイオレンス映画だが死や血の臭いはコトの最後の最後になってしか出てこない。それまでは主人公サンフン(ヤン・イクチョン)が借金取り立て屋というアウトローであっても暴力団とは違うということで、銃や刃物はあまり使わない。パンチに張り手、そして罵声で暴力が表現されるのがいい。この手による暴力が彼にとってのコミュニケーション手段になっている。同じようなことはサンフンと女子高生ヨニ(キム・コッピ)の関係にもいえて性的な臭いをあまり感じさせない、それだけに漢河ほほとりでたたずむ2人の姿が効果的になっているように思う。

見ながら思い出したのは初期北野武映画だった(といつつ記憶はかなり薄れているのだが)。暴力シーンが多いだけではなく、長くも短くもない暴力の積み重ねの加減や、ときおり入るギャグ・パートも含めたタイミングの良さがそう感じさせるのかもしれない。その辺は俳優兼監督ならではの感覚だろう。

ヒロインのヨニも良いのだが途中から出てくる彼女の弟役ヨンジェ(イ・ファン)が予想以上に良かった。初登場時の色が染まっていない状態、そこから道を外れてゆく様子が面白かった。主要キャラクターではないので彼に常にスポットが当たっているわけではないが、彼をチラッと見ると前とはずいぶん変わったというような感じがして良かったように思う。ヨンジェはサンフンとユニの関係に異物として作用する。

主人公と女子高生の抱える家庭の問題構造は似ているだけでなく、親の暴力が子供に受け継がれ、その暴力がトラウマを引き起こすという入れ子状態になっていている。この父親という重石は面白い。劇中で「金日正という仮想敵の存在がなくなったときに韓国は困った」のようなことを言っていたと思うが、この重石が取れたときに真の自分と向き合わなくてはならないということだ。この映画のラストでは二人の男の違い、つまり重石の取り方の違いや、取ったときに見えた自分の評価の違いが道をわけることになる。悲劇を生んだ彼の選択のほうが新しいのか古いのかよく分からない。

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登録日:2010年 03月 28日 21:52:26

「フィリップ、きみを愛してる」。 「渇き」のように前提となる設定を省略し、より軽やか


フィリップ、きみを愛してる / I Love You Phillip Morris

2009年のサンダンス映画祭はチェックしていたのでこの映画の存在は知っていた。当事カリフォルニアのProp 8が話題になっていたので同性愛題材が少なくない同映画祭のボイコットの動きもあったのだ(なにしろユタだし、周防監督の本も参考のこと)。

いきなり出てくるクレジットはユーロコープ、あのリュック・ベッソンの会社だ。たしかに今のアメリカではこの内容は無理か。それに続くオープニングは雲が出てくる「ルドandクルシ」と同様にここは神視点というか非現実的な話が始まるというサインである。それが事実に基づく話であってもだ。その証拠にいきなり病院のRのベッドの上にいるジム・キャリー、命の危機かと思うがたしかモデルの人は懲役190年かなんかじゃなかった?と思い出す。そんなはぐらかしこそこの映画の世界観なのだ。

そのようにしてキャリー演じるスティーヴンのヘンな人生を見ながら、奥さんが登場していて"この映画はたしかゲイ映画のはずだよなあ"と考えていると同性愛の場面が急に出てくる。この唐突な展開はコメディ映画ならではの魅力だ。この映画ではゲイであることのハードルは低く、禁断の愛としては表現されていない。スティーヴンと恋人(ロドリゴ・サントロ!)はフロリダで豪遊、タイトルに出てくるフィリップ(ユワン・マクレガー)は刑務所で互いに一目ぼれという分かりやすい流れになっている。

宣伝ではIQ169というのが使われていたと思うが本編では出てこなかったように思う。警官を辞めて恋人のためにあらゆる詐欺をやりつくし捕まる。そこではスティーヴンの才能よりキャリーのそれのほうが目立つ。刑務所内での密かに色々なものをやり取りする姿は「ショーシャンク」を思い出す。スリルのあるやり取りというよりはコメディ演出により、サクサクと手際良過ぎる描写が楽しめるさまは、まさにやりすぎジム・キャリー。

途中でスティーヴンが養子であることが判明し、兄弟の中で自分だけが養子なのを嘆くがモデルの人はどうだったのかは知らないが、これは今の自分は本当の自分ではないということを示しているわけで、ここからの一連の流れで警官というお堅い職業を辞めて妻にゲイだということになるのは象徴的である。この嘘をつき続けるスティーヴンの人生は恋人のためだけではなく、永遠の自分探しだとも言える。

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登録日:2010年 03月 28日 21:44:05

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