2010年 04月
「クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」。「のだめ 後編」とは違って意味での終わりを感じる
「クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」
普段は映画館ではあまり見ないが今年は原作者臼井儀人が亡くなったこともあり見に行かなくてはという気持ちになって行ってきた。とりあえず今作で終わりということはなさそう。事前に知っていたのは未来に行って未来のしんのすけと5歳のしんのすけに会うこと。つまり今回は藤子・F・不二雄、要するに少し不思議ことSFだ。まあ戦国時代にも行ったことがあるシリーズなのでそれ自体はたいしたことではない。
オープニングのクレイアニメが終わるとアクション仮面が登場する。ここがうまいのはこれがアバンタイトルにも未来社会にも見えること。5歳のしんのすけが行く未来とは春日部がネオトキオと呼ばれる暗黒世界。荒れ果てた世界の中で中心部だけは金ピカに輝く塔に君臨するのは家電屋出身の拝金主義者である金有増蔵。みさえとひろしは都会ではなくスラムのような所に住んでいるが住所は変わっていないようだ。そんな所に住んでいても食べるものに困っていなさそうなのは子供向けアニメだから。5歳児たちの未来はとうぜん思い通りにはいっていないものばかり、とくにマサオくんのエピソードが胸にしみる。ポーちゃんだけが最後まで引っ張るがどうなっているかはある程度予想がつく。
SFということで「ドラえもん」と比べたくなる。のび太が未来に行く場合は(自分がしずかちゃんと結婚することが彼にとっては最大関心事なので)未来の自分としずかちゃんの間に問題があり、それをのび太がなんとかしようとすることが多いと思うのだが、しんのすけと婚約者タミコはそういう関係ではないので、ドラえもん的な面白みはない。まあ最後は自分に正直であれというのがしんちゃん映画。
終盤はロボットバトルとなる、これ自体は平凡だがその前後に出てくる乗り物がなぜかパンダまで出してのジブリ関連のパロディになっているのには驚いた。そういえば金有増蔵の踊りはマイケル・ジャクソンなのでこれはいつ作り始めたのか気になった。
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登録日:2010年 04月 27日 14:27:00
「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」。 「アリス~」より押さえるべきところは押さえている
のだめカンタービレ 最終楽章 後編
前編が千秋を中心とした物語だとしたら、後編はのだめの物語。しかしながらもだめももはや天然キャラというわけにはいかず、オープニングからして雨とテルミン(!)だ。テルミンといえば恐怖映画によく使われていたわけで、これを使うことによってのだめの複雑な心境をよく表している。
千秋と距離を置くことを決めて以来不安定な状況にあるのだめ、そんなときに千秋と孫Ruiの共演を見て、自分たちがやりたかったことをやられてしまったとさらに落ち込む。ここで面白いのはたんにのだめの気持ちを描くだけでなく、(原作者を含む)作り手の複雑な心境も表していると思われる点だ。クラシックで活躍する日本人を小さいサークルから何人も出してよいものか?スポーツ漫画のことを考えればよく分かる。作家なら高校生チームのレギュラーの大半をプロにやりたい気持ちはあるだろうが、それが現実的ではないことも知っているので悩む。それを考えると単なるファン・サービスに見えるドラマ出演者の登場が、日本に残った人間とヨーロッパに行った人間をうまく対比させるのに役立っている。のだめは社会性のない天才という設定なので表舞台から引っ込んで、趣味として音楽を楽しむというやり方もありなのだ(それを示しているのが幼稚園の場面)。逆にいえばプロの演奏家としてやってゆくには何か特別なものが必要なのだ。それは何かといえば千秋以外にない。のだめの千秋と演奏したいという気持ちが萎えても、千秋の側からのだめを夢舞台に上げたいという気持ちがおこる。二人の夢は互いに愛し愛されたいと思わないと完成しない。
前編ではおんぼろオーケストラが中心だったのでヨーロッパ・ロケによるゴージャスさは後編のほうが上だが、(本当のことは知らないが)どれも同じホールで演奏しているように見えてしまうのは残念。また外国人が日本語で話してくれる超吹替えは前編から引き続いた人がほとんどなのでテルミン使い(蒼井優)以外は違和感なし。オクレール先生とシュトレーゼマンによるのだめをめぐる鞘当て合戦はもう少し丁寧に描いたほうが良かった気もした。
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登録日:2010年 04月 25日 14:18:39
「アリス・イン・ワンダーランド」。 「17歳の肖像」と落とし所は似ているかも
アリス・イン・ワンダーランド / Alice in Wonderland
予告では甲冑姿のアリス(ミア・ワシコウスカ)の姿が出ていたのでどんなはちゃめちゃなアリスになるかと思っていたら、そうでもなったティム・バートンのアリス。19歳のアリスは6歳当事のことは夢であり実体験だとは思っていない。今はもう父親は亡くなり、母親はさえない貴族に嫁げという(今のアリスの周りにいる人々は定石通りあとであちらの世界に似たようなキャラクターとして登場する)。結婚を申し込まれても踏ん切りのつかないアリスは穴を見つけ、また不思議な世界(アンダーランド)へ入り込むことになる。
そこから原作を踏襲したナンセンスな世界が繰り広げられる。この世界は暗いのに明るい、ごちゃごちゃしているのにスッキリといった、相反するものが同居している世界だ。分かりやすいのは赤と白の女王対立。赤の女王を演じるのは監督のパートナー、ヘレナ・ボナム=カーター。彼女のナイトを演じるのは今や怪優というのがふさわしいクリスピン・グローヴァー。白の女王を演じるのはアン・ハサウェイ、たしかに塗り絵をしたくなる顔で本人も楽しそうだ。双子は残念ながらCGキャラクター。ジョニー・デップが扮するのは帽子屋ことマッドハッター。ちなみに有名なジョン・テニエルのイラストに似ているのは声の出演をしているティモシー・スポール(とくに「スウィーニー・トッド」)だったりする。ジョニー・デップの作品といえばコスプレ作品と非コスプレ作品に別けることが多いが、アゴのラインを出すかどうかも注目点のひとつだ。今回は出しているので突飛なキャラクターと思うがそれほどでもない。ありもののキャラクターだけに殻を破るのが難しかったのかもしれない、賛否両論であろう最後の踊りはけっこう好きだ。声の出演では芋虫アブソレムのアラン・リックマンがさすがの存在感。もはやバートン組のクリストファー・リーはここではちょい役。全体的にはティモシー・スポールが担当した犬のベイヤードが一番良いと思う。そしてみんな大好きチェシャ猫。
話の立て方は現代らしく穴に落ちたアリスはアンダーワールドで"お前はあのアリスではない"と言われ、アイデンティティ・クライシスに陥る。その一方で本当のアリスはドラゴンを倒す運命にあると言われるのは地上で貴族に嫁げと言われるのと同じことだ。運命に従うのではなく自分の意志でドラゴンに立ち向かい、現実に戻っても同じようなことをするのだが、ここまでやっていいのかは賛否が分かれるだろう。ガール・ムービーとしての「アリス」としてはありかもしれない。逆に愛すべきはみ出し者赤の女王の最後の扱いが(クリスピン・グローヴァーとともに)中途半端か。アヴリル・ラヴィーンの曲をはじめに聞いたときには合わないと感じたが、実際に見たときにはそれが気にならなくなる映画。
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登録日:2010年 04月 20日 23:20:23
「17歳の肖像」。 「月に囚われた男」とは違い主役の吸引力に欠ける
17歳の肖像 / An Education
主演女優キャリー・マリガン、20代の彼女が10代の少女ジェニーをうまく演じたということになっているが、こちらとしては各種授賞式に登場した"えーと、あなた30代?"という今の顔しか見ていないので違和感あり。と思ってチラシを見ると幼く見えるのは極一部で残りは今の姿とあまり変わりがない。なによりも目の周りに出ている疲れた表情は酷い。
実際に映画を見るとファーストショットから老け顔だ。一番酷いのは恋人と友人とその彼女、合計4人でお泊りに行く場面。旅行のために化粧をしているときはいかにも少女ががんばって化粧をしましたという顔なのに、次の瞬間バーかなにかにいるときは疲れきった顔なのだ。量でいうと役者の実年齢相当の顔>疲れきった表情>役柄設定の顔という具合になっている。
顔の作りは童顔だとしても表情に安定感がない。それゆえにこれを表情がくるくる変わるなどと言ってはいけない。それは「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーンのような場合に言うのだ。キャリー・マリガンはすぐに目の周りに疲労感を漂わせてしまう。表情の変化は劇中の成長に伴うというものではなく、若返りの魔法薬の効果が消えつつあり、あちこちが元に戻るという漫画のような状態となっている。
責任はキャリー・マリガンにあるというよりはキャスティングをした人間にあるが、それよりも責任が重いのは主演女優をこんなにいいかげんに撮ってしまった監督にある。彼女に功績があるとしたらひとりの女優の数少ない旬を捉えたことにあるが、それ以上に旬が短い期間であったことを示してしまった罪のほうが大きい。記録メディアとはこのように残酷なものなのだ。と童顔、老け顔の話をしていて思うのは人に与える印象というのは顔の構造よりも表情だということだ。キャリー・マリガンに女子高生をやらせるより、ダニー役のドミニク・クーパーが学生役をやらせたほうがまだ違和感が少ないだろう(なにせ彼の代表作は「ヒストリーボーイズ」なのだから)。
ジェニーを誘う年上の男デイヴィッドはピーター・サースガードで、サースガードはハンサム俳優でえはなく「フライトプラン」や「愛についてのキンゼイ・レポート 」で怪しげな人物を演じてきた人、ここでも怪しさは全開。だからこそ前半の歯の浮いたような台詞とのミスマッチ感は狙っているとしか思えない。脚本はニック・ホーンビィだ。ホーンビィは英国人らしいひねくれた文章を得意としてきた人。パンフレットで知ったが脚本だけでなく製作総指揮となっている。これは彼主導のプロジェクトだったのだ。そこには"雑誌10ページほどの回想録を映画のために脚色した"とあるがおそらく高校時代のパートが10ページほどという意味ではないかと思う。一部のギャグはすべり気味だし台詞回しがそんなに面白いわけでもない。ただジェニーの気持ちはうまく描いている。しかしそれよりも感心するのはデイヴィッド寄りで話を入れずにあくまでもジェニー視点で物語る点だ。それでいてナレーションで心情説明を説明しないのはうまい。
他の登場人物では父親役のアルフレッド・モリナが好演、庶民にしては上昇志向が強いように見え嫌な感じがするが娘を嫁がせることだけに熱心な「プライドと偏見」(キャリー・マリガンとロザムンド・パイクが出演)のベネット家父親よりややましな存在だ。エマ・トンプソンはちょい役、「ウディ・アレンの夢と犯罪」に続いてサリー・ホーキンスは無駄遣い。ジェニーがなりたくない大人としての両端にいるのは堅物女教師(オリヴィア・ウィリアムズ)とデイヴィッドの友人ダニーの恋人でいかにも軽そうな女性ヘレン(ロザムンド・パイク)で、当然ジェニーは彼女たちを見下している。しかし学校をやめてデイヴィッドと付き合ったとしてもヘレンよりちょっとましなだけなのだ。「ある教育」というのが原題で、これはたんに学業だけでなく。デイヴィッドと付き合うという高い授業料を払って経験した失敗、これから学びそして立ち直るという意味を含んでいるのだが、大げさなタイトルだと思うし、「プレシャス」のほうがよほどこのタイトルにふさわしい。
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登録日:2010年 04月 18日 22:07:02
「月に囚われた男」。 「シャッター アイランド」より狭い空間の物語はアイディアで勝負
月に囚われた男 / Moon
またまた2009年サンダンス映画祭経由のダンカン・ジョーンズ初長編映画、しかも今度はSFだ。予告編から受ける印象としては「2001年宇宙の旅」「惑星ソラリス」「11人いる!」だったが、これ以上過去作を出すのはやめておこう。
月で資源採掘に携わる(韓国系企業!)たったひとりの人間サム。3年の任期が終わりに近づくころ、彼は体調が悪くなる。そして通信は故障し家族とのビデオによるやりとりも数ヶ月遅れになる。主人公が何かおかしいと気付く前に観客が気付く。
サムが基地外で事故に遭い、ベッドの上で目覚めると自分にそっくりなクローンとしか思えない人間(以下2号)が脇に立っている。おもしろいのはずっと1号の視点で描かないで、合流前は2号の視点で話が進む点だ。2号が起きるとやたらと足がふらふらしてけがをしたのとは別の要因でそうなっているように描いている。そして2号はまったく新しく生まれた(あるいは月で仕事をするために最低限の情報しか入っていない)のではなく、薄っすらと1号の記憶が残っているので事故の記憶はあるし、やがて事故現場に行って1号を発見する。
1号と2号の共同生活が始まるとクローン人間といっても二人はまったく同じではない。(少なくても彼の記憶の中にはある)故郷の街の模型を作るような物静かなタイプとピンポン対決に燃えるようなタイプがいる。そして2号は簡単なことで血をだしてしまうなどコピーの劣化を感じさせる。彼らはどこかにまだ予備クローンがいるはずだと思い基地内を捜索する。サムにはコンピューターの相棒ガーティ(声はケヴィン・スペイシー、最低限の表情しか表示されないのが逆にいい)がいる。彼の存在がミステリアスなのはいい。
この後物語は地球に帰りたいサム、機器の故障を直すために月に来る会社連中、サムの作られた記憶の問題などが絡み合いながらラストへと進む。このラストも大げさなものではない。そのことから分かるようにクローンのアイデンティティ・クライシスとという問題はあっさりとして、クローンの倫理問題についても同様だ。しかしそのひんやりとした感覚は月という穏やかな衛星を舞台にしたこの映画には合っているように思う。
オープニングから気になっていた音楽はダーレン・アロノフスキーでおなじみのクリント・マンセル、ここでもいい仕事をしている。主演は「フロスト×ニクソン」でフィル・スペクター風髪型、切れたら怖そうな役を演じていたサム・ロックウェル、クローンたちの性格の違いをうまく出している。劇中で模型が出てくるが、撮影でもミニチュアとCGを組み合わせたそうだ。その分やや画が暗い気もするがこれはこれでいい。
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登録日:2010年 04月 16日 22:02:16
「シャッター アイランド」。 「第9地区」とは違いストーリーよりは雰囲気で勝負
シャッター アイランド / Shutter Island
公開が延期されただけに内容が心配された映画、宣伝では謎解きが強調されているが、ボクは原作を読んでいたので大筋は知っていたし、映画としても前半でオチは気付く人が多いと思う。"やっぱり、そうだろう。このくらいすぐに分かったぜ!"と思ってしまうと、最後の台詞、モンスターと善人の意味に気付かないかもしれない。いや、映画を見た直後は気付かなくてもちょっと思い出して最後の台詞のことを考えればその意味を理解しようとするはずだ。
原作とは違うアプローチでやってほしかったと思っていたが、この脚本はそこまでやっていない。原作者デニス・ルヘインの持ち味といえばボストン周辺のチンピラたちのやりとりなのだが、ボストンに近いとはいえこの孤島の病院という舞台では持ち味が生きてこない。固定された空間でのハードボイルドでしかない。服は50年代、美術も50年代、時代背景も50年代で説明され少し芸がない。マーティン・スコセッシの演出もややそれに引っ張られ気味だ。こうした終始ダークな世界より表の世界にダークサイドが見え隠れするほうがいいと思う。塔は教会のメタファーか。
一方役者はいい。マーク・ラファロは「帰らない日々」の挙動不審な役も「ゾディアック」の堕落してゆく役(あれに出ていたジョン・キャロル・リンチもいる)も好きだったがここでもレオナルド・ディカプリオをうまくサポートしている。奥さん役のミシェル・ウィリアムズとディカプリオの相性も予想以上にいい。一方病院側にはベン・キングズレーにマックス・フォン・シドーと怪しげな顔を揃えて世界観を作り出す。行方不明の女性を演じるエミリー・モーティマーは今を代表する不思議ちゃんキャラクター。中盤以降に出てくるパトリシア・クラークソンはさすがの存在感。そして駄目押し的にJEHが登場。しかし彼はこの手の役から逃れられなくなるかもしれない。
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登録日:2010年 04月 13日 23:01:26
「第9地区」。「NINE」よりはっきりと出た独自性
第9地区 / District 9
これの予習のためではないが「未知との遭遇」を見たり「幼年期の終わり」を読んでいたりしていたので見終わって色々と思うところがあった。いやその前に「アバター」のことが頭をよぎった。この映画は「アバター」より脂肪分が少なくその分評価は高くなる。アメリカでは「第9地区」→「アバター」の順番で公開されたので「アバター」の脂肪分が気になる人も多かっただろう。いや「アバター」は余計な部分(CGや3D映像)が多いというより、その部分を見せたい映画なのだから話はシンプルにしている。ただ脚本家は専門家ではなくJ・キャメロン監督本人なので物語背景の描写が物足りなく話に深みがないというのは以前指摘した。実は「第9地区」もその物語背景の描写はさほどされていない。しかしそこをフェイク・ドキュメンタリー形式にして回避しているのだ。これはうまい。また「アバター」にあって「第9地区」にないのは大きい/強い女である。「第9地区」では男女関係ははふつうに夫婦関係に集約されている。「アバター」本編では描かれなかった異種間性交渉は「第9地区」で具体的には出てこないが言及はされる。
一応フェイク・ドキュメンタリーとして始まるのだが、別角度の映像が入るので全編がフェイク・ドキュメンタリーではない。オープニングで南アフリカにUFOがやって来てくるところはあっさりと紹介され、それ以後エイリアンたちが第9地区に隔離されるまでの歴史が簡単に紹介される。隔離という背景には監督の出身地南アフリカ、アパルトヘイトを意識しているわけだが、それがそのまま人間とエイリアンの関係当てはめても面白くないので、そのままというわけでもない。描写として気になったのは30年近く空に浮かんでいる母船、それだけでも凄いのだがまあいい。さらに主人公ヴィカスが軽装備で第9地区に入ること、これもそうしないと感染しないので仕方ない。
主人公ヴィカスはエイリアンの管理を任されているMNU社の社員、彼は会長だか社長の娘と結婚しているが平凡な人間だ。演じるシャルト・コプリーはティム・ロスを情けなくしたような印象を受けた。彼が第9地区から第10地区への移動計画を任される。その過程でエビと呼ばれるエイリアンの生態(卵を産むことやキャットフードが好きなことなど)が分かる。その一方で会社が秘密裏にある計画を立てていることも分かる。管理しているのが民間会社である必然性があるのかは映画からは分からないが、現実の軍産複合体を反映しているのだろう。
第9地区はスラムのメタファーであるようで、一般人とエイリアンとの接触はあまりない。とはいえ彼らは盗みや闇取引はする。その仲介者としてナイジェリア人ギャングを登場させる。彼らはギャングから猫缶を飼い、ギャングはエイリアンのDNAにしか反応しない彼らの武器を入手するだけでなく、売春(!)までしているという。ギャングは彼らのパワーをほしく、そのためには肉を食べたりもする。このギャングを中心とするスラム描写は映画「ツォツイ」を思い出した。ただ立て看板のデザインはかっこよかったりするのがこの映画のいいところだ。「ツォツイ」には車椅子生活者が出てきたが、こちらではなんとギャングのリーダー、オベサンジョーが車椅子だ。それだけに彼は力への憧れが人一倍あるの。ここで思い出すのは「アバター」の大佐だ。あれだけ力に魅せられている人間が(軍人としての意地があるとしても)アバターの力に憧れることがないのはやはりあの映画の弱点だ。
物語はエイリアン立ち退きに乗り出したヴィカスがクリストファー・ジョンソン(香港市民が英語名を持つように彼らも持つ)の家で謎の液体を浴びてしまい、彼の肉体がエイリアンに変化し始めてから(ここは「ザ・フライ」を思い出す)急展開する。片手がエイリアンになったことで彼らの武器が使えるようになると、人間兵器して会社に追われ、第9地区へ逃亡。ここでクリストファーと知り合い一緒に行動し始め、あっと驚くような展開をする。最後にはパワード・スーツまで登場、これが大暴れして楽しませてくれる。ここではスプラッター描写もあるのだが、ぐちゃっと見せないでぽーんとすっ飛ぶさまはプロデューサーであるピーター・ジャクソンのテイストに近いものがある。はじめはグロテスクに感じたエイリアンも、クリストファーと彼の息子に感情移入ができるようになるあたりは脚本もうまい。
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登録日:2010年 04月 11日 22:53:33
「NINE」。 「息もできない」と比べるとテンポも編集も悪い
「シカゴ」ロブ・マーシャル監督新作「NINE」、「8 1/2」との関係等はとりあえず置いておいて語ると、ダニエル・デイ=ルイスはあまりイタリア人監督グイドには見えないのだが、悩める小心者としては悪くないと思う。
「シカゴ」でミュージカル映画の歌うシーンを妄想として処理したロブ・マーシャル監督なので今回も同じ手法を採用しているが受ける印象は違う。「シカゴ」での歌は物語にどう取り入れるかがよく考えられていたのに対して「NINE」では歌の場面をほかの要素で単に埋めているようにしか見えないのだ。スター8人が歌うプロモーション・ビデオのようだ。これが(15人ならぬ)8人編成グループの各人が監督したビデオをまとめた作品としてなら面白いかもしれないが、映画としてはこのメンバーである必然性を感じさせないのでつまらない。
というわけで必然性というか女優たちの配役について考えてみる。はまっているのは次の3人。母親役のソフィア・ローレンには何も言うことはない。愛人役のペネロペ・クルス、全世界共通認識として浮気するならペネロペ、これだね(本人がこれでいいと思っているのかは知らないが)。浮気夫を持つ妻は薄幸女優マリオン・コティヤール。ただこの映画の浮気相手はイタイ行動をとるから彼女がやっても似合う。グイドが駆けつけてみたらペネロペじゃなくてマリオンだったという幻想的な演出(というよりは錯乱か)があっても面白かったように思う。それができるのは舞台ではなく映画だ。映画ならではの演出といえば白黒からカラーに変わるところも何箇所かあったがあまり効果的には思えなかった。
ダニエル・デイ=ルイスが喋るイタリア語訛りの英語、非英語圏の女優を多数起用などは珍味として楽しめた。本来なら監督が得意なはずのダンスシーンだがこれも良くない。一人が踊りその周りを同じ振り付けで踊り、その後ろではちょっと違う踊りをしている。このパターンが多すぎるだけでなく、この映画は2人以上の俳優が絡むミュージカル・シーンがほとんどない。結果としてメーンのはずの役者が画全体に埋もれてしまっているのだ。だからソロよりも豪華俳優総出演のラストもさほど良くないのだが他の酷いのでそこくらいしか印象にのこらない。
映画全体としては人物描写ができるところかでも行かず。7人の女優とダニエル・デイ=ルイス以外の脇役は本当にただいるだけ、これは監督の責任というより企画を立てた人の責任だろう。8人有名俳優を揃えるのではなく、核となる4人くらいの俳優を中心にして、それ以外は知名度より役にふさわしい俳優を起用すべきだった。
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登録日:2010年 04月 01日 00:00:46
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