2010年 07月 28日

「インセプション」。 「借りぐらしのアリエッティ」より骨格がしっかりとしている


インセプション / Inception

僕は「ダークナイト」をそれほど高く評価していないので、予告編を見たときには嫌な予感がした。ビルがせり出してくる「マトリックス」的な映像を見て"これは悪酔いするくらいの映像になるのか"と思ったのだが実際に見るとそうはならなかった。「ダークナイト」を見れば分かることだが、クリストファー・ノーランは奇抜な映像表現はうまくない。でもその分過激な映像にはならないという利点がある。

映画全体としても他人の夢に入り込むという複雑になりそうな題材をそうはしていない。「エルム街の悪夢」のように現実だと思っていたものが夢だった、またはその逆という展開にはならず。自分の夢だと思っていたら他人の夢だったというのもあるがそれよりも夢から覚めたと思ったらまだ夢の中だったという重層構造を使っている。重層的といっても各層間時差の問題を別にすれば複雑ではない。つまり縦糸は使うが横糸は使っていないので道筋としては分かりやすい。ただし前半から夢の奥にはさらに深い領域があると分かってしまうので、終盤にそれを持ち出してもスリルがなくなっているのはなんとも残念。

これを見て思い出したのは「ハングオーバー」、コメディ版「メメント」と聞いていたが時間軸ずらしや余計な回想を使わない点に好感が持てたのだが、「メメント」監督作品の手触りもそれに近い。前にタランティーノ映画に対してたまには直球を投げてみろと言ったが、クリストファー・ノーランは今回直球を投げてきた。

はじめに言ったように映像面では派手なようでいて相変わらずピントはずれている。極力CGを廃したらしいが、それがなにか効果を生んでいるわけでもない。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットががんばる無重力廊下からの一連の流れは時間をかけているわりには淡白なので間延びしている。さらに雪山の攻防、ここが長いのは問題なのだが、なによりオープニングを見ればクライマックスでないことが分かってしまうので、盛り上がるポイントではあるが見ているほうは"ここはさっさと飛ばしてくれ"と思ってしまう。

それに対しては役者陣への演技の付け方はこなれている。登場人物が多いだけに深みがない部分もあるがポイントは押さえている。レオナルド・ディカプリオは「シャッター・アイランド」に続き妻の幻影に悩む男を演じる。ここではディカプリオにギャーギャー言わせないのが良い。登場場面でエディット・ピアフが流れて笑わせてくれるマリオン・コティヤールは薄幸女とともに彼女が得意とするイタい女役なので問題ない。企業の背景が語られないなど渡辺謙がこの役である必然性は感じられないが、出番が少なかった「バットマン・ビギンズ」の償いとしては十分だ。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットは出演時間こそ多いがキャラクターの色付けが弱く、印象度は低い。エレン・ペイジも同様なのだが、彼女が女子大生を演じても違和感があるのがどこかおかしい。キリアン・マーフィーの使い方は勿体ないと思うのだが、マイケル・ケインの出番の少ないベテランの使い方が不自然だった「ダークナイト」よりずっと良い。

好き嫌いを問われたら困るタイプの映画だが、色々語りたくなるという意味においては良い映画だ。ただ、他人の夢をいじくる前に真面目に働けよお前らと言いたくなる。

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登録日:2010年 07月 28日 01:23:04

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