映画『暗殺 リトビネンコ事件』あと二日
11月20日は“国連子どもの権利条約”の誕生日~今年満18歳を迎える条約の現実は?~
【セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン】
11月20日は“国連子どもの権利条約”の誕生日
今年満18歳を迎える条約の現実は?
子どもたちのための民間の国際援助団体(NGO)である社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(理事長:上野昌也/理事・事務局長:渋谷弘延 以下SCJ)では、11月20日に締結から18年が経つ『国連子どもの権利条約』を記念して、教育に関する世界の子どもの状況を発表します。
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驚くべきドキュメンタリー「暗殺 リトビネンコ事件」。放射性物質ポロニウム210を注入されて殺されたアレクサンドル・リトビネンコについての映画である。あと二日で上映が終わってしまう。ぜひ、見てほしい。
監督のネクラーソフ氏のインタビュー記事をどうぞ。
■元KGB将校暗殺事件から一年
二〇〇六年十一月二十三日、ロンドンでひとりの男が殺された。アレクサンドル・リトビネンコというロシアの秘密警察(KGB)の元職員である。この名前を聞いてピンとこなくても、テレビ画面に映された、あの異様な映像を記憶している人は多いだろう。
手術室で医者が着るような緑がかった服(病衣とでも表現したほうがいいのだろうか)を着た男がベッドに横たわっている。すっかり髪が抜けてつるつるになり、薄い眉毛で苦しそうなまなざしだ。はだけた胸には何本もチューブが付けられている。彼の死の直前のようすだ。
元ロシアの“スパイ”であるリトビネンコが、亡命先のロンドンで、製造も入手も困難な「ポロニウム210」という放射性物質を盛られて暗殺されたのだ。スパイ映画がそのまま現実世界というスクリーンに投影されたかのような事実は世界中を震撼させ た。
暗殺の5年前からリトビネンコに密着して数百時間インタビューし、その死に至るまでの映像を納めたドキュメンタリー映画『暗殺 リトビネンコ事件』が完成し、08年正月から東京渋谷の「ユーロスペース」で公開される。アンドレイ・ネクラーソフ監督に話を聞いた。
ジャーナリストという商業柄、私はいろいろな人に出会っているが、大きな仕事をする人ほど温厚で、普通であることに衝撃を受けるのだが、ネクラーソフ監督も同じ、長身で白いジャケットに身を包み、話し方も温かみがある。私がロシアに住んでいたころによく会ったロシアのアーティスト&インテリによくいそうな人だった。
■5年にわたってリトビネンコに密着取材
『ノスタルジア』『サクリファイス』など評価の高い映画をつくったアンドレイ・タルコフスキー監督の助手をつとめるなど、ネクラーソフ監督は、もともとは劇映画の分野の人で芸術志向が強かった。その彼が、元KGB(のちにFSBという組織に改変)将校のリトビネンコに5年にわたり密着し、生々しいドキュメンタリーを制作したのはなぜなのか
―― 一年前のリトビネンコ暗殺はショックでしたが、その事件を扱ったあなたの映画の内容も強烈です。驚愕のドキュメンタリーといっていい。ここまでリトビネンコに密着した最初のきっかけは?
「もちろんリトビネンコは元諜報機関員ですから、最初は私も警戒していました。何が起きるか分からない。私の知るロシアやイギリスの知識人たちも、リトビネンコと直接接触するのは止めたほうがいいと、私に警告しました。結局、私はチェチェン・ルートをつかって彼の連絡先を探しました。
ロシアから独立をめぐるチェチェン戦争は、ロシアの秘密警察(FSBなど)の謀略によって引き起こされていると暴露したリトビネンコはイギリスへ亡命しました。そしてチェチェンからの亡命者もイギリスには多い。こうしたなかでチェチェンを支援するイギリスの女優バネッサ・レッドグレーブなどを通じて彼にコンタクトをとりました。
初めて会ったとき、諜報員とは思えない気さくな人で、少し安心しました。世間話も含めていろいろ話し、その日の夜に彼から渡された著書を一晩で読み切り、翌日疑問点をただしました。その答えを聞いて、この人は信用できると思ったのです。その次に会ったときから、彼を撮り始めました」
それ以降、リトビネンコ暗殺までの約五年間にわたり膨大な時間を、映画監督と元スパイが共有することになる。ネクラーソフの言葉を借りれば、最後は親友にまでなった。この二人から生み出された映画『暗殺 リトビネンコ』の“破壊力”のすごさを伝えるためには、リトビネンコとは、どんな人物で何を語ったか。その話の要であるチェチェン戦争とは何かを理解してもらったほうが早い。
■プーチンの政敵暗殺を命じられた
リトビネンコは、旧ソ連のKGB(国家保安委員会)に入り、ソ連崩壊後に組織が改変されて、そのままFSBではたらき中佐まで昇進した。要人を警護する部局にいたこともある。上司たちの不正を見て嫌気がさしていたところ、当時ロシア政権に反対していた財閥のベレゾフスキーを暗殺せよと命令された。
これを拒否し、一九九八年に仲間とともにモスクワで記者会見し、FSBなど秘密警察が反政府派を暗殺したり、汚職をしていることを暴露。その後、何度か逮捕と釈放を繰り返し、二〇〇〇年に家族とともにイギリスに亡命する。本当にリトビネンコが存在意義を示したのは、ここからだ。
イギリスで本を出版し、ロシア秘密警察の驚くべき謀略の数々を暴露したからである。なかでも重要なのは、「イスラムテロリストがテロを起こしているから、これを鎮圧する特殊作戦だ」とロシア政府が説明するチェチェン戦争が、実はロシアのFSBの仕業だったと断定したことだ。
一九九九年にモスクワなどロシア各地でアパートに時限爆弾がしかけられて住民約三〇〇人が死亡した。爆弾テロ犯人がチェチェン独立派だと政府は断定し、チェチェンを攻撃し今にいたっているのがチェチェン戦争だ。リトビネンコは、これが全部でっち上げだと言っているのである。
実際、これだけの凶悪爆弾テロ事件で捜査や裁判がわずか4年で終了されてしまったり、「チェチェン人の仕業だ」といっていたのに、ひとりのチェチェン人容疑者も逮捕されななかったり・・。次から次へとロシア政府の説明でつじつまの合わないことが起きている。
ほかにもテロがたくさん起きているのだが、テロ発生→チェチェン人の仕業と発表→チェチェン攻撃と少数民族攻撃が強まる→世論が政府を指示する→結局犯人も逮捕されず裁判も成り立たず、結果はもうやむや・・。こんな不可解なことが繰り返されてきたが、その理由はこの映画を見るとよくわかる。
■ロシア式モラル
――それにしても国家に忠誠を尽くしていたはずのリトビネンコは、なぜFSBが暗殺やテロを起こしていると暴露したのでしょう。
「リトビネンコは、まじめに国を守るという気概でKGB(後にFSB)で勤務してきました。ところが上司たちは彼の目の前で不正を働き、私利私欲のために武装諜報機関を利用。それを許すことができなかったのです。さらに、彼はFSBとしてチェチェンに派遣され、ロシア軍が民間人を攻撃するさまを自身の目で目撃。
一七歳のゲリラを尋問したこともあります。そのとき「友人もみんな銃を持って立ち上がっている」と少年は答ました。かつてソ連市民が、ドイツの侵攻に対して立ち上がったのと同じだと彼は感じたのです。この二つが告白するきっかけだと思います。
ーー映画を観るとロシアは、軍事政権ならぬFSB(秘密警察)政権ではないかとさえ思います。
「FSBが政権をとる方法やプロセスというより、ロシア革命が破壊の革命だったことを認識する必要があります。単にツァーリ(皇帝)がいなくなったというレベルではなく、革命以前の教会、社会システム、階級、イデオロギーその他を全部否定したラジカルな革命でした。そのため全く当たらし政治をつくろうとした。しかし、ソ連共産党は、政党というより一種のカーストのようになっていきました。
■国家イデオロギーがなくなり犯罪だけが残った
革命以後のソ連・ロシア社会は、一見強力な国家のように見えますが、実は国は権力を持っていない。(国家機関が機能しているのではなく)一握りに人間たちが政治を握っている。かつてソ連には共産主義イデオロギーと犯罪がありました。いまは国家イデオロギーが消滅し、ただ犯罪だけが残ってしまったのです。つまり、カネと武器などの物質的なものを握った一握りの個人がやりたいようにやっている。
たとえば日本だったら、一般社会があり各界の権力エリート層があり、天皇制もある。しかしロシアでは(一見、国家機関や体制に見えながら)実は一握りの個人による支配です。しかも、ポストソビエト時代はイデオロギーが消滅しているために、精神的アナーキズムになっている。自由を享受しながら同時にルールを守ることがロシア人にはどうしても実感としてわからないのです。
日常生活で分かりやすい例があります。街で警官がスピード違反の車を止めてるとき罰金を取りますが、彼らのポケット入るだけで、決して国庫には入りません。国のためにという意識がまるでないのです。リトビネンコは、国のために任務を遂行する少数派であり、このような腐敗に我慢できず、他の警察や諜報機関員のように”みかじめ料”や賄賂を取ることもなく、給料だけで生活していました」
交通違反取り締まりの例は分かりやすい。実は私は十年以上チェチェン戦争を取材しているのだが、現地ではロシア将校にカネを払い、軍服と小銃を用意させてロシア軍人になりしました私をロシア将校が立ち入り禁止区域まで送ってくれました。国家のために働く軍人ならばありえない話だ。日本では警察や軍が、「国家のために」とまじめに反体制派を「一生懸命」弾圧している。公安警察しかり、市民を監視している自衛隊情報保全隊しかり。だが、ロシアでは、私利私欲のために軍や警察が暴走している。
■テロはロシア政権のヤラセ
――ところで、連続アパート爆弾テロ事件(死者三〇〇人)がチェチェン独立派の仕業だといってロシア当局は戦争を始めました。それに対してリトビネンコは、テロはFSBの自作自演であり、戦争そのものがFSBの謀略戦争だと主張していましたが。
「前作『不審』でその問題を取り上げましたが、FSBの謀略であるという証拠のひとつは、(連続アパート爆弾テロの直後に)リャザン市で起きた未遂の爆弾テロ事件です。アパートの住民が爆発物を発見して騒ぎになり、FSB職員も逮捕されました。しかしFSB長官は『訓練のために仕掛けたものだ』と発表しました。そんなことはあり得ません。
こうしたことをリトビネンコなどが指摘しても、政権側でなくニュートラルな人々も告発した彼を批判していました。爆弾事件の真相を追究しようと各機関を取材しても資料も出さずインタビューもキャンセル、さまざまな形で真実追究を邪魔します。それ自体、民主主義に対する犯罪です。
ーー当然FSBなどが映画製作をじゃましたのでは? あなたの自宅もめちゃくちゃに破壊されましたね。
「ええ、荒らされたのはフィンランドにある別荘。ロシアとの国境から二〇キロしかないので(笑い)。
■jネクラーソフ監督のスパイ体験
いちばん最初に秘密警察に圧力をかけられたのは、演劇大学一年のときにさかのぼります。当時、英語に興味があって、私はアメリカ人やイギリス人と付き合っていました。すると秘密警察に呼び出されて、彼らの情報を報告するように要求されました。私が拒否すると、すぐに退学処分になりました。
このような場合多くの人は『はい』と答えます。このテストに合格すればその後のキャリアは保障される。いまも“テスト”は続いています。
「私がこの映画『暗殺・リトビネンコ事件』を製作する決断をしたのは、国家犯罪がまったく罰せられなければ、国民が自分の家に住んでいるという安心感をもてないから。何よりも、リトビネンコが毒殺されたとき、その対象は私だったかもしれないと思ったことです」
実際、ネクラーソフがその対象にならないとは誰も保障できないだろう。FSBが強大な権限をもち、ソ連崩壊後に記者だけで二百人以上が殺されている。映画ではリトビネンコの主張を全面的にインタビュイーで取り上げているし、様ざまな記録映像や監督自身の体験、FSB職員の話、殺された著名ジャーナリストの話などふんだんに盛り込まれている。
これを書いている私自身、チェチェン戦争報道でロシア秘密警察の恐ろしさを垣間見ている。少しでも多くの人にこの『暗殺 リトビネンコ事件』を観てもらいたい。鳥肌が立つのは、内容の重みだけでなく、映像が不気味に美しいからだ。
アンドレイ・ネクラーソフ 1958年サンクトペテルブルク生まれ。映画監督。言語学と哲学を修めた後、巨匠タルコフスキー監督の助手として働く。04年モスクワ爆弾テロの疑惑を追った『不審』で様々な映画賞を受賞。元KGBリトビネンコ氏の暗殺を扱った『暗殺・リトビネンコ事件』が今年のカンヌ国際映画祭で上映されて大反響をよぶ。同作品は08年正月に東京の「ユーロスペース」で上映予定。キャンペーンのため来日した。
東京渋谷の「ユーロスペース」http://www.eurospace.co.jp/screening.html
(公式サイトhttp://litvinenko-case.com/)
『プーチン政権の闇』高文研 林克明著http://www.koubunken.co.jp/0400/0390.html
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登録日:2008年 01月 23日 23:40:05
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