ほんとのニートがやってくる!?
ニート(NEET)とは、ご存知のように、Not in Education,Employment or Training の略で、もともとはイギリスで16歳から18歳の年齢で教育も受けていず、職業にもついていなくて、職業訓練も受けていない人々を指す。
日本ではあまり指摘されていないが、なぜこの年齢かはイギリスの学制の問題である。
つまり、イギリスでは11歳から15歳の中等教育までが義務教育である(おおよそ日本の高校一年生までと考えればよい)。
義務教育を終えると、2年間の進学準備学校(昔の日本の大学予科のようなもの)へ行ってから大学や専門学校に進学するか、職業訓練を受けるか、すぐ就職するか、ということになる(厳密に言えば他にも修業年限の異なる私学などがあるが)。
つまり、ニートとは日本で言えば中学を卒業したあと、進学せず、就職もせず、職業訓練も受けていないぷらぷらしている人たちがたくさんいる、ということだ。
もし日本で、大量の中卒がぷらぷらしていたら大問題だろう。それと同じことだ。
イギリスでニートが多いのは、階級社会であり、移民社会だから、ということがよく言われる。確かにそれもあるが、筆者は、日本と同じように、産業構造の変化、産業の高度化、グローバル化の影響が大きいと考えている。
早い話、日本と同じように、中卒単純労働の職がないのだ。
そこへ持ってきて、親代々の下層階級で金がないから進学もできないし、職業訓練で遊ばせるゆとりもない。
だから政府がなんとかしなければならないのだ。イギリスではニート対策は失業対策だというのはこのような理由による。
日本では、ニートは就労意欲のない人とみなされている。その見方も問題だが、それではイギリスのような「ほんとのニート」問題はほんとに心配いらないのだろうか・・・
・・・・・・
筆者は中学1年から中学3年のはじめまで(1962~1964)、イギリスで過ごした。英語ができないということで、最初に入学したのは地元の公立のセコンダリーモダンスクールである。当時イギリスの公立校は、コンペラヘンシブスクールはまだなくて、セコンダリーモダン(中卒で就職する)かグラマースクール(進学する)のどちらかで、11歳のときの試験で振り分けられていた。
どうせ中卒で就職するしかない下層階級の子弟は、ほとんどがセコンダリーモダンに入った。その教育レベルは低く、筆者が編入した11歳(小学6年生相当)のクラスでは、数学は4桁の足し算引き算をやっていた。
その後すぐに年齢相応の12歳のクラスに上がったが、レベルは似たようなものだったし、生徒の意欲は低かった。
当時イギリスは労働争議が頻発し、「イギリス病」が蔓延していたが、筆者は子供心に、この教育ではイギリスの産業は没落するだろう、と思ったのを覚えている。
当時から、イギリスの義務教育=公立学校は空洞化していたのだ。
筆者は1年で全寮制の私立学校に転校した。数学は日本の2年遅れくらいだったが、授業にはフランス語やラテン語があり、国語(英語)もシェークスピアの戯曲の朗読劇やディベートの訓練など、それまでの学校とは雲泥の差があった。
現在のイギリスの教育は、当時からはかなり変わっている。しかし階級社会を背景に、変わっていないところも多いことを原因のひとつとして、ニート問題が発生している。
日本に即して考えて見ると、まず、現在の高校全入時代では、日本の高卒をイギリスの義務教育終了と考えればいいだろう。
そして、高校の学校間格差を考えると、低位の普通高校の教育は空洞化していないだろうか。それでも、大量の工場労働者が求められている時代は良かった。今は産業の高度化で、工場労働者でも正社員へのハードルは資質面でも人数の面でも極めて高い。
それでも、コメントで尾関さんが指摘しているように、今はサービス産業がフリーターを大量雇用しているために、「ほんとのニート」問題は顕在化していない。
しかし、フリーターの将来問題は別に考えるとしても、サービス産業の雇用吸収力がいつまで続くかは保証の限りではない(このことは別に論じるが、それほど安定的ではない)。
しかも、格差社会の到来は、高等教育への進学率の頭打ちを招くだろう。
日本で高卒の「ほんもののニート」が登場する可能性は、低いとは言えないのだ。
そう考えると、本田由紀先生が提唱されている「高校段階での専門教育」は、来るべき「ほんもののニート」対策として重要な意義があるかもしれない。
かつてのイギリスのように、格差社会が階級社会になり、若い人たちが、「どうせ下層階級の俺たちなんか、何やったって一緒だ」と思うようになったら、日本は没落する。
若い人たちに、夢と、それを実現するシステムを与えることは、私たちの義務ではないだろうか。
カテゴリー[ キャリア教育・生涯教育 ], コメント[5], トラックバック[0]
登録日:2006年 08月 28日 23:07:53
コメント
私はニート作りの一端を担ったIT産業にいたわけですが、当時は
「単純な事務仕事は機械にやらせる。結果として、
仕事量は3分の1に減り、労働時間の短縮と余暇の充実が得られる」
が目標でした。けれど現実には3分の1の人間が同じ労働時間で、
3分の2の人間が無職になる状態が生まれたわけです。
余暇を使って新しいものを作れる人が過剰な仕事を背負い、
余暇があっても何もできない人が仕事を追われる。
当初の夢とは違った世界になってしまいました。
一人に3倍働かせるよりも、3人を短時間雇うほうが
有利な税制などが本来は必要なのでしょうけれど、
こういった所得の分配は高所得、所有的地位にある人ほど
嫌がるような気がします。
にゃんた @ 2006年 08月 29日 03:16:56
にゃんたさん、おっしゃる通りですね。ワークシェアリングのような考え方は「社会主義的」だからということで嫌われるでしょうね。じゃどうしたらいいのか。
あと、3分の1のほうも長時間労働やサービス残業でこのままでは壊れてしまいます。このことはいずれエントリーで書きます。
himori @ 2006年 08月 29日 09:03:35
足立区のとある小学校では、給食費の滞納率が7割まで来たと聞いたことがあります。低所得者向けの団地地帯がまさにスラム化しているのですね。
専門学校の経営難、いわゆる定員割れが問題になっていますが、あれは大学全入制の煽りであると同時に、経済格差と教育格差は相関しますから、「金がいないから専門学校に行かせられない」家庭の増加が一因だとも言われています。
ですので、私も本田先生の言うような「高校段階での専門教育」には意義を感じていますが、彼女の提唱を「経済状況に関わらず、全ての若者が専門学校レベルの教育を受けられる社会作り」と意訳させていただければ、「専門学校の公立化」、あるいは「公立専門学校の設置」というのが今後のニート支援の切り札になるのではないかと考えています。
イギリスには、公立の専門学校のような機関はあるのでしょうか?
yamamoto @ 2006年 08月 29日 10:47:55
yamamotoさん、私も専門家ではないので詳しくは知りませんが、専門学校的な教育をしている公立の中等学校はあるようです。ただ、本田先生の構想に近いのは、16歳で中等教育終了後の、職業訓練校だと思います。
himori @ 2006年 08月 29日 21:48:39
> 専門学校的な教育をしている公立の中等学校はあるようです。
イギリスにですか。それは初耳ですね。調べてみます。ありがとうございます。
yamamoto @ 2006年 08月 29日 23:13:49
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- ryuichi.himori@gmail.com
- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
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