ワーキングプア対策としての教育訓練とは

(以下は自分なりの仮説です。)
2006年9月24日の日本経済新聞の「経済論壇から」は、「働く貧困層問題の本質」と題して大阪大学の大竹文雄氏がワーキングプアをテーマにした各論文を取り上げ解説している。

結論としては、東京大学の山田昌弘氏が文藝春秋10月号で主張しているように、「ワーキングプア発生が生産性格差の拡大に原因があるのだとしたら、教育訓練によって生産性を高めるしか有効な対策はない」(大竹氏)ということのようだ。

学者の分析としてはそうかも知れないが、それでは、実際に生産性を高める教育訓練とはいったいどのようなものだろうか。実務家としてはどうしても具体的な対策を考えてしまう。教育訓練の中身をどのようなアプローチで考えればいいのだろうか。
この対策は、ワーキングプアが教育訓練によって自らの生産性を高め、日本にある企業に就職することによって完結する。ということは、採用における企業のニーズから考えればいいのではないか。

だとすれば、そのキーワードは「即戦力」という言葉にある。

企業の求める「即戦力」の意味を多くの人が誤解しているのではないだろうか。
多くの企業が中途採用で求めるのは、すでに企業において充分な訓練が施され、特定の業務に直ちに取り掛かれる人材のことを言う。「中国で輸出入実務経験のある人募集」という類だ。もしこのような人材だけを「即戦力」というのなら、新卒者や教育訓練卒業者は絶対に無理だ。机上の訓練だけでは実務経験は身につかない。教育で輸出入業務を教えただけではほとんど役に立たないから、このような募集では採用されない。机上の知識があることが「即戦力」ではない。ここが誤解されているポイントのひとつだ。

それでも、企業は実務経験を問わない採用でも「即戦力」を求める。
では、実務経験のない者に企業が求める「即戦力」とは何か。それは二つある。

まず第一は、企業の戦力不足が切迫していて、資格や知識があればある程度戦力になることがわかっている分野では、実務経験がなくても「即戦力」と評価される。今ならそれはずばり、IT技術者と経理人材だ。両方とも技量を示す資格があり、教育訓練で資格を取得すればある程度即戦力とみなされる。それぞれについて詳しく見てみよう。

1.IT技術者
ITは以前インドへのオフショアアウトソーシングのことを書いたが、実は海外へのアウトソーシングは業務量のボリュームがかなり大きくないと元がとれない。もっと小さなシステム・ソフト開発は日本人がソフト会社に所属して客先企業へ派遣されて行っている。そこで人が足りないのだ。
これはあるソフト会社の募集内容だ。
・・・・・・・
流通業、製造業、金融業、通信業等の大手優良企業へ3~5名体制で参画しております。
Webシステム開発やC/Sシステム開発が中心の業務となります。
工程は要件定義~テストまでを一貫して開発を行っています。
開発言語レベルではJavaServlet、JSP、Unix-Cなどが主流です。
スキル:多少の開発経験がある方 (大学、専門学校での実習でも可)
年齢:22歳~45歳までの方
【こんな方は特に歓迎です】
◎JAVAでの開発実務経験が3ヶ月以上ある方
◎「経歴はあるけれど、自信が持てない」という方
◎「スキルUPをしたい」と考えている方
・・・・・・・・
この手の募集は多いが、これなら教育訓練でなんとかなるのではないだろうか。

2.経理人材
簿記3級程度の資格と実務的な教育訓練経験があれば、派遣社員や紹介予定派遣としての採用は確実だ。またいまは経理事務のアウトソーシング会社も多く正社員としての採用も見込める。何よりもほとんどの中小企業では人材不足が深刻で、「即戦力」として採用されるだろう。

以上のIT、経理は専門学校も多く教育のノウハウも確立しているので、ワーキングプア対策として教育訓練を民間委託する場合に困ることはない。就職率をインセンティブとして委託すればすぐに効果が現れるだろう。

ただし大事なことは、ワーキングプアから脱出するためには、自分の生産性を上げるだけでなく、生産性の高い業種の企業に就職しなければならない。少なくともそのチャンスがあるかどうかだが、少なくともこの二つの分野ではその可能性がある。
よく職業訓練として行われている福祉関係は、業界の生産性が極端に低く、ホームへルーパー資格などはワーキングプアを再生産するだけだ。農業訓練もそのたぐいだ。

だいたい「働く貧困層問題の本質」が生産性の低い業種・業界にあることが指摘されていないのがおかしい。生産性が低いから個人の労働生産性も低くなるのでなないか。

それはさておき、実務経験のない「即戦力」の二つ目の意味は、特に高卒、大卒、第二新卒など若い人にとっての「即戦力」とは何かということだが、長くなったので次回に回すことにする。

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登録日:2006年 10月 15日 03:06:56

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Ryuichi Himori
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ryuichi.himori@gmail.com
団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
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