民主主義の逸脱

民主主義の逸脱

昨晩はある市の市会議員と2時間ほど面談していて気付いたことがある。
それは日本では行政の裁量幅が大きく、民主主義をスポイルしているのだが、それを補完・助長しているのが地方議会・議員だということだ。

この議員は市民派の一人会派だ。だから議員としての活動方法は議会で「質問」することと、職員に個別に働きかけることだ。「質問」は対応する行政側の「前向きの回答」(「善処する」など)を引き出すことによって行政の行動を変えることができる。職員への個別の働きかけは、個別事情を職員に知らせることによって対応を促すことができる。この議員としては、いずれも「いわゆる口ききなどとは違う。地域の保育園の定員を増やしたり、入札の透明化の促進へ向けてきっかけを作ったり、成果が上がっている。いいことをしているのに何が問題なのか?」という。

そもそも、一議員に言われたからといって職員が変えたりすることが民主主義ではない。政治家が(議会として、あるいは二元代表制では首長が)決めたことを実行するのが行政の役割であって、行政や個々の職員が自分達が決めて自分達で実行する、というのは民主主義ではない。行政の裁量幅が大きいから、一議員に言われて職員が「もっともだ」と思って変えることができるのだが、それがそもそも問題なのだ。

「それでは全てのことに議会が議決せよということか」とこの議員は反論する。
そうではない。議会は話し合ってルールを作り、行政がそのルールの則って執行するのを監督せよ、と言っているのだ。それが議会制民主主義の原則ではないか。
ところが行政は自分で都合のいいようにルールを決め、勝手に解釈し、恣意的に裁量する。議会はそれをただ追認し、行政の裁量の中からおこぼれにあずかっているだけではないか。この議員は自分が行政を変えさせたというが、それはあくまでも行政側がここまでは言うこと聞いてもいいかな、と判断した範囲内のことにすぎないことがこの議員にはわかっていないのだ。

それでは議員個人としては何もできないではないかというかも知れないが、その通り。民主主義は良かれ悪しかれ手続きと多数決だ。やりたければ多数派になるか首長に選ばれるかしかない。そんなまどろっこしいことはできない、もっと効率よくできるはずだ、と言って社会主義をやってみたら失敗したのではないか。

今、議会に求められているのは、「良識派」の議員が増えてそれぞれが良いと思うことをばらばら行政にやらせることではない。地域及び自治体経営の取締役会あるいはドイツ企業における監査役会として機能し、経営の最高機関としてルールを定め行政を監督し、経営に責任を持つことだ。そのような機関としての議会として機能することだ。

「うちの家から学校に行くのに危険な場所を通らねばならないので、うちの子だけ学区を変えてくれ」というのは議員個人が口をきくことでも、行政が個別に裁量することでもない。ルールに則って処理されるべき問題だ。不都合があればルールを変えればよい。

その点、指定管理者制度は実にうがった制度だ。個別施設の全てについて指定管理者移行の条例と指定管理者選定を議会で議決しなければならない。今までのように議会の場でただ批判したり評論したり揚げ足とったりしていればいい、というものではない。決定者としての議会の結果責任が問われるのだ。これが民主主義におけるガバナンスの本来のあり方だ。

議員が議員の立場で地域のコーディネーターをしたり、地域の人々の相談にのったりすることを否定するつもりはない。みんなの世話役として信頼されて選ばれたのだろうから。
皆に信頼されているという立場で行政に頼らない地域課題の解決をリードすることができるし、筆者の知っている中にもそのような議員が存在する。

しかし、多数決を経ずに行政を動かすのは民主主義の逸脱だ。

行政評価、マニュフェスト、指定管理者制度、市場化テスト、市民との協働など今地方自治で進んでいる改革は、「民が担う公共」へ向かう改革だ。「官から民へ」というのは民営化のことではない。パブリックという概念を官の独占物から市民の手にとりもどす改革だ。そのとき、議会は、議員個人の主張や会派の如何にかかわらず、存在自体が改革に対する従来型の行政を補完する抵抗勢力になっていると言えるだろう。(上山信一さんが指摘している大阪市議会などはその典型だろう。)

カテゴリー[ 行政経営 ], コメント[7], トラックバック[0]
登録日:2006年 11月 08日 18:12:40

コメント

私もいわゆる市民派一人会派の議員のひとりです。

多数決が基本の民主主義で、一人会派の存在意義、少数の意見をつくるルールにどう反映させていくかについて、当選以来ずっと考え、実践してきました、

こういう私にも、当選してすぐには、既存の会派の方からプロポーズが
あったんですよ。

で、プロポーズしてきた人にストレートに「会派は同じ考えの集団と聞いていますが、どういう考えですか?」と聞いたのです。

持ってきた答えが、市の総合計画でした。(え〜〜)

●政策集団として、会派が機能していない
会派内は、1期生は、意見を言わせてもらえない
まして、女性は。。。
も情報も入ってこない。

ということで、「独身」を選びました。
決して、独身主義ではないのですが。


最初は、himoriさんが会った議員さんのように、市民から選ばれた議員の言うことなら、職員は「へへ〜い」と聞くに違いないというイメージがありました。
ただ、私は職員からの嫌がらせがひどかったので、それは無理と
いうことは、すぐに理解しました。


また、議会での質問で市側が「〜します」と答えてくれても、その場限りの答弁なので、実際にはよく理解していないので、かゆいところに手が届くような施策・政策になっていかないということがわかり、いらだってきました。

そこで。。

今日は眠くなってきたので、この続きは明日以降に書きます。

*ブログのコメントって、反射神経が必要で、後でなんて言っていくと、次の話題になってしまって。(縄跳びに入るの、苦手だったんです。)

だから、コメントありととりあえず手だけあげておきます。

めぐみ @ 2006年 11月 09日 01:36:43

>めぐみさん

コメントありがとうございます。慌てなくても、古いエントリーにコメントしていただいてもまったく構わないんですよ。

めぐみさんには議員の垢のようなものは感じませんが、この議員さんは2期8年やって本人は気付いていないようですが、議員の垢が染み付いてしまって、社会復帰がなかなか大変そうです。
最初は次回は出ないと言っていたのでうちのNPOで社会復帰のお手伝いをしようと思ったのですが・・・

めぐみさんの「そこで。」の続きをぜひ聞かせてください。他の議員さんにとってもいろいろヒントがあるような気がします。

himori @ 2006年 11月 09日 09:32:04

コメントの続きを書いたのに、アップできなかった。
あ〜、残念。

めぐみ @ 2006年 11月 16日 09:42:47

思い出しながら、再度挑戦です。

そこで、2つの方向から攻めようと考えました。

1つは、市民側からです。市民へ議会で起こっている事、議員のしていることを情報提供し、市民側からつついていってもらう方法です。

他の議員を支持する人たちもよく見てくださり、私からの情報を使って、自分の支持する議員に働きかけていました(こういう報告があることが面白い)

もう一つは、議会改革の提案するチャンスがあるときは、必ず案を示すようにすることです。いつの間にか、自分たちが提案したように、提案してくるから、これまた面白いです。そこで、私が先に言ったじゃないと言ったらおしまい。花は相手に持たせておき、成果を享受します。

これまでは「1人から始める」とやってきました。しかし、その速度がにぶいことや議会、議員のあり方を大きく変えるまでには至っていないことは認めざるを得ません。

さて、次の手をどうするか。悩んでいます。

めぐみ @ 2006年 11月 16日 09:58:02

何度読み返しても、素晴らしい名文ですね。さすが!特に、

>しかし、多数決を経ずに行政を動かすのは民主主義の逸脱だ。

全く同感です。
民主を離党した直後の私は、議会のおかしさを訴えていることで精一杯でしたが、今、議会を変えることも必要だけども、自身が議会の外で活動することで、改めて議会を見つめることはできないか?ということを考えています。自身のブログの9月上旬の部分にまとめていますが…。一口にマニフェストといっても、議員の立ち位置という言葉に置き換えると、議会では○○します!、議会外では○○します!というのもありなのかなぁ、と考えています。無所属人はつらいです(泣)。

横レスでごめんなさい。
めぐみさんへ
お気持ちよくわかります。一緒に頑張りましょうね♪

桧森さんへ
団塊の部分といい、今回の記事といい、かなり共感できる部分が多いです。
ぜひ、私のブログでこちらのブログを紹介させていただけないでしょうか?

半田 @ 2006年 11月 16日 13:06:23

>めぐみさん
めげずに続きを書いていただいてありがとうございます。
アイディアがパクられることによって影響力がじわじわ浸透していく、というのはおもしろいですね。
議会と議員のありかたについては、議会本来の機能を果たす、その方が結局議員にとっても得、ということをわかってもらうしかないと思います。

himori @ 2006年 11月 17日 12:53:57

>半田さん
文章をお褒めいただいて恐縮です。
めぐみさんのコメントにもあるように、無所属だからできることが多いのではないでしょうか。
それに、議員というのはみんなから選ばれた世話役ですから、議会外の活動が多いのは当然だと思います。みんなのルールをつくる(つまり議会)のは議員の役割のひとつに過ぎません。
地方議会で国政と同じ党派というのはあまり意味がないように思います。補完性の原理で国と地方が対等(に対峙している)ということになると、国政から繋がっている中央集権の党というのはかえってじゃまかもしれません。
ブログはぜひご紹介ください。よろしくお願いいたします。

himori @ 2006年 11月 17日 13:11:16

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Ryuichi Himori
(男)
ryuichi.himori@gmail.com
団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
(なお、mixiもやってます。)
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