2007年 01月 18日
指定管理者制度の理論
以前ここで紹介した指定管理者制度の本の原稿も少しづつ進んでいるがなかなか完成しない。その言い訳は、書いている途中で日々新たな知見に接するからだ。
例えば、いま指定管理者制度の理論のところを書いている。
「 指定管理者制度は市場を唯一絶対の資源配分システムと考える新古典派経済学の考え方に基づいていると一般には思われているようだが、必ずしもそうではない。既に述べてきたように、指定管理者制度の背景にはニューパブリックマネージメント(NPM)の概念がある。そしてNPMの名付け親であるイギリスの行政学者クリストファー・フッドは、NPMのもととなるアイディアは、プリンシパル・エージェンシー理論などを含む制度派経済学と、マネジリアリズム(1980年代半ば以降の、情報化などを活用した企業の経営革新の動き)の「結婚」である、と言っている。」
という出だしで制度派経済学の理論とそのひとつプリンシパル・エージェンシー理論を簡単に解説し、指定管理者制度の実例を理論的に解明する、というように進んでいる。
ところが先日の審議会のあと同じ委員のTK大K助教授にこの話をしたら、指定管理者制度には取引コスト理論も大いに関係があるのではないかと指摘された。まったくそのとおりで、長くなるから触れずに済まそうと思ったがやはりそうはいかない。指定管理者制度のもとで各アクターは自分の取引コストの最小化を目指す。その結果どうなるかは書かないわけにはいかない。
さて、最近ある市の複合文化施設の指定管理者制度導入のアドバイザーをすることになり、昨日その下打ち合わせが行なわれた。業務水準書を策定するために、詳細な業務項目と、それにかかっている時間数を調査するという。業務量を把握したいからとのことだ。
ちょっと待った!
業務にかかる時間数が重要なのではない。その業務の目的と達成水準が重要なのだ。
例えば、閉館時に各部屋の点検施錠業務を行い、それに30分かかっているとしよう。でも点検施錠業務の目的は何だろう?各部屋を点検し、ごみがあれば拾い、忘れ物があれば回収し、乱れた机や椅子があればもとに戻し、電源を落として施錠する。つまり朝の開場時の状態に復帰させて施錠することが目的ではないのか?そうだとしたらその目的を達成すればよいのであって、30分という時間は問題ではない。目的が達成されれば時間は効率化できればすればよいのだ。方法は指定管理者の創意工夫にまかせる。だから点検施錠業務に30分かけなさい、という決め方は間違いなのだ。
実際に30分働いたかどうかチェックするには大変なコスト=モニタリングコストがかかる。事実上不可能だ。しかし目的を達成しているかどうかは、ときどき朝抜き打ちチェックをすればすぐできる。
これが「限定合理性」の基で「機会主義」を排し取引コストを最小化する「取引コスト理論的解決法」というものだ。
この市では、指定管理者が業務を適切に遂行しているかどうかをチェックするために、職員を常駐させる必要があるのではないか、という議論があるという。これでは何のために指定管理者にしたのかわからない。コストもかかるし、1~2人いたからといって常に見張っているわけにいかないのだから、チェックもしきれない。
そこで、指定管理者が自らPDCAサイクル(プラン・ドゥ・チェック・アクション)を回し、常に改善する、というセルフモニタリングをやらせる。そのために、まずいところをチェックしてけしからん、というのではなく、まずいところを自ら発見し改善したらほめる、というインセンティブを設計する必要がある。そして、指定管理者がセルフモニタリングでPDCAを回しているかをチェックするのが発注者の役割だ。
これが少ないコストで「モラルハザード」を防ぐ「プリンシパル・エージェンシー理論的解決法」というものだ。
このように、指定管理者制度というのは効用最大化を目指して限定合理的に行動する人間の「合理性」を設計することであって、決して「市場の見えざる手」にまかせっきりにするのでもなければ、規則でがんじがらめにするのでもない、ということは認識する必要がある。というのが筆者の考える指定管理者制度の理論だ。誰も言っていないことを書くのは大変だ。
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登録日:2007年 01月 18日 14:06:59
- プロフィール
- Ryuichi Himori
- (男)
- ryuichi.himori@gmail.com
- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
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