2007年 02月 09日
スパイの行政学

007という殺しのライセンスを持つジェームス・ボンドは国家公務員である。所属はイギリスの対外情報機関SISだ。SISは外務省の傘下にある機関だが、その上部にはJIC・合同情報委員会がある。各情報組織のトップ、外務省、国防省、内務省、警察の次官級の高官で構成されるこの委員会は、あらゆる機密情報にアクセスする権限を持つが、その目的は「国家の舵取りを担う政治指導者の決断に資する」ことである。
いかに全能な007といえどもその任務は限定的であり、殺しのライセンスも任務達成の過程での免責特権にすぎない。誰でも殺せばいいというものではなく、任務を逸脱して殺せば訴追される。政治家が決めた任務を忠実に遂行することを求められるしがない公務員にすぎない。だから上に理解されなかったり切り捨てられたりという公務員の悲哀も味わう。
スパイ小説でも、ジョン・ル・カレは極めて抑制的で公務員たるスパイへのガバナンスが充分に働いていてリアリティーがあるが、ジェフリー・アーチャーやトム・クランシーの小説には時として公務員の分を超えた僭越さが見られ、民主主義の観点からは極めて不健全だ。
日本のインテリジェンス(諜報)を考えるとき、外務省のラスプーチンこと佐藤優氏の本はどれも非常に興味深い。高度な機密を扱うからこそ、そこには個人や組織の私益を追求するのではなく、政治家の決めた方針に従う官僚としての高いモラルが求められる。その意味はどんなに自分が優秀と思っても、アホな政治家の決定に従う、ということだ。
その辺を佐藤優、手嶋龍一の共著「インテリジェンス武器なき戦争」(幻冬舎新書)から引用してみよう。
「ソ連共産党中央委員会とそっくりです。絶大な権限があるんだけど、責任は負わない。官僚というのは、放っておくとそうなってしまう。責任を取らせるには、政治が手を突っ込まないかぎり無理なんです。「政官の癒着が問題だ」「政治家はろくでもないんだ」と遠ざけていると、結果的に官僚にフリーハンドを与えることになってしまう。」
「理屈の真理はいくつもあって、それぞれ同格でしょう。その中でどうやって折り合いをつけるかは、政治家の判断することです。テクノクラート(官僚)が言うべきことは、「靖国神社に行ったらメチャクチャなことになりますよ。しかしそれでも行かれるならば、その上で対中外交を組み立てなければならないですね」ということです。そして、時の総理をお支えするために、官僚としての全能力を投入する。それだけのことです。」
スパイのこのような考え方は極めて健全だ。一方で戦前の革新官僚から現在に至るまで、僭越な誤った使命感を持った官僚による民主主義的ガバナンスの逸脱が、今日の状況(官の肥大と借金漬け国家)を招いたのではないかと思うのである。あらためて言うまでもないが、民主主義国では国家の舵取りをするのは官僚ではない、ということだ。
カテゴリー[ 行政経営 ], コメント[3], トラックバック[0]
登録日:2007年 02月 09日 22:46:25
コメント欄の不調
せっかくコメントをいただいたのにアップされず、読めない状態が続いています。
管理者には対策をお願いしているのですが。Actiblogの他のブログではどうなんでしょうか。早急に修復をお願いしたいものです。
カテゴリー[ このブログのこと ], コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2007年 02月 09日 08:34:17
- プロフィール
- Ryuichi Himori
- (男)
- 詳細プロフィールはこちら
- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事、(社)指定管理者協会理事長などいろいろ。公共経営・行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
(なお、mixi Twitter facebookもやってます。)
- 最近のエントリー
- [02/07] 遠野物語を読む
- [02/01] 三丁目の冬日
- [01/29] 何が何でもNPOには測定可能な成果を
- [01/29] 今年もゼミの制作発表
- [01/24] 地方公務員の仕事
- [01/23] 区民プロデュース企画は民間企業の指定管理者
- [01/10] すごいツーショット
- [01/07] 今年初講師はNPOスキルアップ講座~組織のマネジメント
- [01/06] 新年の抱負は万物流転
- [01/01] お正月に飲むお酒
- 最近のコメント
- [01/20] お正月に飲むお酒 himori
- [01/20] 桧森家のルーツを探る その② himori
- [01/18] 桧森家のルーツを探る その② ゆきりん
- [01/05] お正月に飲むお酒 tanaka katsuhiko
- [01/05] お正月に飲むお酒 tanaka katsuhiko
- [12/08] 桧森家のルーツを探る その② himori
- [12/08] 桧森家のルーツを探る その② 弟
- [11/17] 桧森家のルーツを探る その① himori
- [11/16] 桧森家のルーツを探る その① ミオ
- [10/03] アートによる地域の活性化とは? himori
- 最近のトラックバック
- カテゴリー
- 我が思い出の英国車 [5]
- ブラック [1]
- 災害 [10]
- 本日の買い物 [9]
- 建築ハンター [5]
- 国道16号線国境説 [9]
- 好奇心 [6]
- おいしいものでうらやましがらせる [31]
- 常識の非常識 [13]
- 本日の1枚 [52]
- 多文化共生 [4]
- 中山間・島嶼地域 [10]
- 指定管理者制度 [27]
- 大学にて [57]
- ITな世の中 [8]
- アート&デザイン [7]
- お知らせ [6]
- 文化ホールについて [20]
- 身の回りのこと [107]
- 都市政策 [27]
- アートマネージメント [38]
- 政治について [66]
- グローバルな世の中 [33]
- 今日のお仕事 [62]
- 趣味 [58]
- NPOについて [24]
- 行政経営 [28]
- 企業のこと [23]
- 文化政策 [23]
- 自分の勉強 [7]
- キャリア教育・生涯教育 [43]
- 文化を考える [10]
- これを見た [22]
- 団塊世代 [43]
- 戦争と平和 [5]
- このブログのこと [19]
- 月別アーカイブ
- 2012年 02月 [2]
- 2012年 01月 [8]
- 2011年 12月 [6]
- 2011年 11月 [3]
- 2011年 10月 [3]
- 2011年 09月 [8]
- 2011年 08月 [11]
- 2011年 07月 [15]
- 2011年 06月 [9]
- 2011年 05月 [6]
- 2011年 04月 [13]
- 2011年 03月 [19]
- 2011年 02月 [9]
- 2011年 01月 [8]
- 2010年 12月 [8]
- 2010年 11月 [10]
- 2010年 10月 [7]
- 2010年 09月 [6]
- 2010年 08月 [12]
- 2010年 07月 [4]
- 2010年 06月 [7]
- 2010年 05月 [9]
- 2010年 04月 [13]
- 2010年 03月 [18]
- 2010年 02月 [26]
- 2010年 01月 [19]
- 2009年 12月 [16]
- 2009年 11月 [14]
- 2009年 10月 [15]
- 2009年 09月 [14]
- 2009年 08月 [17]
- 2009年 07月 [10]
- 2009年 06月 [14]
- 2009年 05月 [16]
- 2009年 04月 [10]
- 2009年 03月 [17]
- 2009年 02月 [17]
- 2009年 01月 [14]
- 2008年 12月 [16]
- 2008年 11月 [20]
- 2008年 10月 [14]
- 2008年 09月 [15]
- 2008年 08月 [15]
- 2008年 07月 [14]
- 2008年 06月 [14]
- 2008年 05月 [10]
- 2008年 04月 [13]
- 2008年 03月 [18]
- 2008年 02月 [19]
- 2008年 01月 [19]
- 2007年 12月 [22]
- 2007年 11月 [25]
- 2007年 10月 [18]
- 2007年 09月 [17]
- 2007年 08月 [15]
- 2007年 07月 [18]
- 2007年 06月 [14]
- 2007年 05月 [20]
- 2007年 04月 [12]
- 2007年 03月 [16]
- 2007年 02月 [16]
- 2007年 01月 [18]
- 2006年 12月 [16]
- 2006年 11月 [16]
- 2006年 10月 [16]
- 2006年 09月 [23]
- 2006年 08月 [19]
- お気に入りリンク
- 検索