2007年 02月 28日
団塊の反論:誰が投資などするものか

先日の日経新聞に福井日銀総裁の講演内容が載っていた。
「1500兆円の『家計の金融資産のより有効な活用への期待が高まっている』として『人生につきものであるリスクを認識し、それにうまく対処しながら生活を経営していくことが要求される』と述べ、個人もある程度リスクを取って積極的な資産運用をする必要があるとの考え方を示した。」(2007年2月26日 日本経済新聞朝刊より抜粋)
お言葉を返すようだが、「人生につきものであるリスクを認識」しているからこそ、筆者は投資などしないのだ。そのリスクとは、
1.資金に充分ゆとりがあればその一部をハイリスク・ハイリターンの投資に回すかもしれないが、たかだか数百万、多くても数千万の金しかないのに誰が投資に回すものか。なけなしのお金は大切な老後の生活費だ。
500万を回して元本保証のない投資なら8%、元本保証のある預金なら0.2%として、その差はたかだか年間39万円。誰がやるか。ばかばかしい。
大英帝国時代のイギリスの中産階級は配当や金利だけで生活できる資産を持っていた。投資はそういう人がやればいい。こちらはそんなゆとりはない。
2.投資とはお金に働かせて稼ぐことだ。そのための知識と能力とセンスを持った個人投資家は確かにいる。筆者の知人でも企業を定年退職後にシンガポールで投資会社を設立した人がいる。
しかしその人はもともと資産があり、会社の給料とは別の余裕資金を投資に回して自分を訓練してきた人だ。儲けたり損をしたり、という振幅を経験できたから磨かれたセンスだ。
たかが5百万1千万損して真っ青になるようなこちらとは違うのだ。筆者のような素人にそんな能力はないし身につく機会もない。
3.そもそも投資のリスクとは何か。昔のイギリスの中産階級は東インド会社の船の積荷に投資した。無事に着けば大儲けだが船が沈んだり海賊に襲われればパーだ(だからロイズの保険が生まれた)。
しかし昨今のエンロンや日興コーディアルの粉飾決算とはどのようなリスクか。またアーサーアンダーセンやみすず監査法人の解体は何を意味するのか。船長が積荷をごまかしたり、荷主の代理人たる検査官がそれを見逃したりするリスクではないか。
確かに嵐もあれば海賊もいるから事業にリスクはつきものだが、福井総裁は経営者と監査法人のモラルハザードや、それを抑止も発見もできない経済・金融制度の欠陥についても個人がリスクを取れというのか。いかさまのリスクは取れるわけがない。
4.社会が成熟したビクトリア朝末期のイギリスでは、インフラの整備も進み、本国には有望な投資機会は少なくなった。中産階級は南アフリカのダイヤモンド鉱山など海外の事業に投資した。山師や詐欺師もたくさんいたが、海外といってもイギリスの植民地であり、統治も法律もイギリス人が握っていた。
現代の日本も成熟社会で低成長、国内にハイリターン投資機会は少ない。どうしてもBRICsなど海外ということになるが、なにしろ日本の植民地ではないのだから恣意的な制度変更や極端な場合外国資産の国有化など何が起こるかわからない。
だから国際政治のパワーゲームで圧倒的に弱い国の国民としては、おこがましくて海外投資などできない。「日本人の資産毀損したらまずいことになるよね」とは誰も思わない。身の程をわきまえるということだ。
ゼロサム社会の投資は、パイが増えないのだからギャンブルと一緒で賭け金を誰が取るかだが、儲かるのは胴元と決まっている。胴元を儲けさせるために透明性や公正な競争に疑問のあるいんちき賭博になけなしの金を賭ける義理はない。何が「リスクを取れ」だ。おきなお世話だ。
筆者がこれほど強く言う背景には、バブル時代の体験がある。1990年ごろ、弊社に出入りしていた某都市銀行の支店長は、かねがね自分がいかにたくさん金を貸して支店長に出世したかを自慢していた。
東京下町の支店次長時代、町の小さな書店の店主に土地を担保に10億貸し、店主は店をたたんで南平台に邸宅を買って住んでいる、というたぐいの話だ。
あるとき偶然筆者の実家が東京の高級住宅地にあることを知り、「桧森さん、10億でも20億でも貸しますから借りてくださいよ」としつこく言う。一介のサラリーマンである私にそんな大金を借りて何をせよというのか、と問うと「そんなもの株でも土地でもなんでも買ったらいいでしょう」という答え。
もし口車に乗っていたらどうなっていたかは考えるだに恐ろしいが、今でも「金融機関としてなんとモラルのないことを言うのだろうか、これは長くはないな」と思ったことをおぼえている。
当時も今も金融機関の体質は変わっていない。だから胴元は一切信用しないのだ。福井総裁は金融機関と客の情報格差の問題というが、そうではなくそこから発生するモラルハザードの問題だ。
では筆者はどうするか。デフレの時はせっせと借金を返し、インフレのときは早めにものを買う。ただそれだけのことだ。
福井総裁の講演は「家計の生活経営が切り拓く日本の新時代」というタイトルだ。講演要旨を読むと団塊の世代の退職金を狙っているのが見え見えだが、ただでさえ人生につきもののリスクをさらに抱え込む気はさらさらない。福井総裁に何か異論があれば伺いたい。
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登録日:2007年 02月 28日 14:59:37
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- Ryuichi Himori
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- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事、(社)指定管理者協会理事長などいろいろ。公共経営・行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
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