2007年 07月 12日
建築家のギミックとホールの現実 その3

4.ついに実現
筆者はこの博覧会で12回のコンサートを企画し、実施した。
筆者のそれまでの仕事は、主催者である公共ホールからの依頼に基づいてコンサートを企画することであり、その場合筆者としてはそのホール独自の機能があれば、一度はそれを徹底的に使ってみることを自らに課していた。6月29日の記事に書いたグランシップでも、実は筆者の企画したイベントでコーンに照明やレーザーをあてる演出を試みている。
自分が企画するコンサートでは、一度は背面開放を使おうと考えていたが、博覧会も終盤に差し掛かった9月30日にチャンスが巡ってきた。この日は筆者が企画したエレクトーンとボーカルのコンサートで1日2回公演。他に出し物は入っていなかった。
筆者はコンサートの途中で背面を開放する演出を考えたのだが、大手広告代理店側の舞台監督は強硬に反対した。安全に責任がもてない、と言うのだ。これには主催者である県(博覧会協会)の担当者も同調した。
設計段階では賛成していたはずの発注者(県)が反対するのも変な話だが、当然建設と運営では担当者が違うので、良くあることなのだ。
なんとか説得してやることになり、黒ホリをはずして土嚢をどけ、ロックをはずす。ところが、1回目の公演は風が強くてやむなく断念。そして2回目の公演。何かあれば全て筆者が責任を負うということで最終的に主催者や大手広告代理店側に納得してもらい、いよいよ実現へ。
エレクトーンのイントロが流れると、するすると舞台背面の扉が開き、運河の景色を背景に、シルエットになった女性歌手がチャップリンの名曲、スマイルを歌いながら入ってくる。どよめく観客。それがやがて拍手と歓声に変る。
結局189日間の会期中、背面が開けられたのはこの1回だけ。たった1回のどよめきと歓声のためだけに造られた、扉の開閉機構だった。
もし、筆者がホールを計画するのであれば、このようなギミックにはお金を使わない。ホールの基本的な機能を高めるために、他にいくらでもお金をかけるところはある。建築家が考えるような、建物に付随した演出のための機構は、ほとんど使われないのが現実だ。
ホールを建てるときは、この事例をひとつの参考にしてほしい。
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登録日:2007年 07月 12日 14:39:55
建築家のギミックとホールの現実 その2
3.完成後
劇場が完成し、博覧会の会期中は劇場の管理・運営は大手広告代理店に委ねられた。大手広告代理店は劇場の背面の開放機構をロックし、扉の隙間から吹き込む雨を防ぐため土嚢を積み、その前に黒ホリゾント幕を垂らした。そして舞台を使う団体に配布する催事マニュアルにも、背面が開くという説明は載せなかった。
つまり背面開放を完全に封印してしまったのだ。会期中はこの仕様を基本に全ての出し物が行なわれた。
大手広告代理店から見れば、1日の中で次々と違う出し物を回していかねばならないときに、舞台のホリゾントの状態をいちいち替えることは非現実的である。また背面を開けてしまうと、通常の照明では効かなくなるが、それでも使える強力な照明は用意できない。
そして何よりも、背面を開けると舞台の上が風の通り道になり、バトンや照明、出演者が風に煽られて危険だ。
管理・運営を請負い、コストと安全に責任のある彼等にとっては、建築家の意図や施主の希望がどうあれ当然の判断だった。そもそも6ヶ月189日間毎日様々な出し物が行なわれる中で、背面を開けるような企画など考えなくても、まったく差し支えはないのだ。
こうして博覧会が始まり、劇場は連日プロやアマチュアの様々なパフォーマンスで賑わったが、劇場の背面をあけることができるという機能は忘れ去られてしまった。
続く・・・
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登録日:2007年 07月 12日 11:02:16
建築家のギミックとホールの現実 その1
建築家が考えたホール運営と現実のホール運営の違いを実例で紹介する。
その事例とは、2004年4月8日から10月11日まで静岡県浜松市で開催された、しずおか国際園芸博覧会、通称「浜名湖花博」での出来事である。会場は浜名湖畔に整備された「浜名湖ガーデンパーク」で、博覧会の仮設パビリオンだけでなく、公園としての恒久施設も整備された。そのひとつが、1000席の野外劇場「水辺の劇場」であった。
1.設計段階
この劇場は屋根付きの舞台とテント屋根に覆われたベンチシートの客席を持ち、劇場の背後には運河が流れている。劇場の背面は4枚のスライディングドアで開放できるようになっている。開放すると、舞台と同じつらで運河側に屋根のない舞台が張り出している。
設計段階の打ち合わせで、設計者は筆者に対して、劇場のコンセプトは開かれた劇場、周囲の花と緑、水の環境と一体になった劇場であり、舞台背面を開放することにより「客席からも運河側からも、ステージの出し物を見ることができる」「開いた状態で運河の景色を借景とする出し物ができる」「閉じた状態で、客席側と違う出し物を実施し、運河を通る遊覧ボートや対岸の広場から見ることができる」などと説明した。施主である県はこの設計を非常に気に入っているということだった。
2.試奏会
筆者はこのホールの完成後、試奏会及び音響テストを依頼された。半野外の劇場として、音響テストでは背面の開閉による音への影響はそれほどなかった。試奏会は地元のアマチュア吹奏楽団を起用し、関係者やその家族800人ほどに観客になってもらい、観客、指揮者及び演奏者、専門家の3グループで音を評価してもらった。ここでも背面の開閉による音の影響はほとんどなかった。むしろ背後の景色が見えることによる視覚的な解放感を評価する声が多かった。
ただし、吹奏楽団の演奏方向を180度回転して、運河及び対岸に向けて演奏した時には、「BGMとしては聞けるけれども鑑賞に値するほどは聞こえない」という観客の声が大半だった。また、持込の簡易PAスピーカーを運河側に向けて司会者が話す実験では、対岸では声はほとんど聞き取れなかった。
なお、試奏会の実施時期はオープンの9ヶ月前であり、バトンや照明器具は設置されていなかった。この時判明した設計上の問題は、客席両横の上部から雨が舞台上に吹き込む、というもので、その後テント屋根形状の改善が図られた。
続く・・
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登録日:2007年 07月 12日 10:54:55
- プロフィール
- Ryuichi Himori
- (男)
- ryuichi.himori@gmail.com
- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
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