2007年 07月 22日

ジャパン・クールの源流をさぐる:その3

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画像は大友克洋作「AKIRA」

ブレードランナーが公開されて5ヵ月後、ジャパン・クールの旗手と言われる漫画家で映像作家の大友克洋によるコミック「AKIRA」の連載が始まった。両方を同時代にリアルタイムで見た筆者には、「AKIRA」はブレードランナーの影響が色濃く感じられた。

その後シド・ミードは80年代の東京で様々な仕事をし、日本のクリエーターに更に影響を与えることになる。六本木にあり、シャンデリアの落下という不幸な事故を起こしたディスコ「トゥーリア」のデザインもシド・ミードだった。
ジャパン・クールとの直接の関係では、機動戦士ガンダムシリーズのひとつ、ターンAガンダムのキャラクターデザインも有名である。

このように、ジャパン・クールは、日本の社会とテクノロジーの影響を受けた欧米のSF・映像作家の普遍性のある作品に影響を受けた日本人のクリエーターによって生み出されたのである。それは、そのような日本社会にどっぷり浸かりながら欧米の作家の影響を受ける優位性である。

欧米の作家に見出された日本の驚異とは、単にテクノロジーと伝統的社会の並存だけではない。テクノロジーが生活の隅々にまで行き渡っていることが驚異だったのだ。
ハイテクがまず軍事に応用される欧米と異なり、日本ではハイテクはすぐに民生用に使われ、大量生産でコストが下がってさらに普及する。
しゃべる自動販売機など日本人にとって当たり前のものが、驚異なのだ。例えばパチンコは高度なハイテク機器である(弊社の音源半導体も使われている)。そこに欧米人は未来社会の姿を見る。

だから、ジャパン・クールのクールとは決してスマートで洗練されたものではない。いかがわしさ、猥雑さを含むアジア的混沌と、日常生活に浸透する高度なテクノロジーが、欧米の文化にないクールなのだ。

例えば、もし秋葉原の再開発がこぎれいなオフィスビルが生まれただけだったら、海外から見向きもされなくなっていただろう。そこに生まれたメイド喫茶こそが、秋葉原の救世主なのだ。

このような欧米の価値観を土台として生まれてくる日本人の作品が重要だ。だから本日の日本経済新聞「今を読み解く」欄の記事「自由が生んだジャパン・クール」と「停滞の突破口は交流」はとても重要な指摘だ。

もし、政府が文化政策としてジャパン・クールを振興したい、あるいはファンドビジネスがジャパン・クールに投資して利益を得たいのなら、この記事の指摘にある「表現や規範の自由」が重要なコンセプトである。リュック・ベッソン監督のSF映画「フィフス・エレメント」(1995年)に登場する、ちょうちんをぶらさげ自在に空中を飛び回るうどん屋の屋台のような自由さが、私たちの社会に必要だ。

この日経の記事では「日本の作り手の独創性は停滞期に入った」と指摘されているが、そのような自由で融通無碍な社会が持続すれば、欧米の作家を再び刺激し、そこから生まれた作品が日本人クリエーターに影響を与えて、元祖ジャパン・クールを再び生み出すだろう。

そのような社会は、誰かの言う「美しい国」の対極をなすものであると筆者には思われる。
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登録日:2007年 07月 22日 21:56:41

ジャパン・クールの源流をさぐる:その2

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画像は映画「ブレードランナー」

ジャパン・クールの源流は欧米のSF作家の日本観にもとづくSF小説の中にある。
このことを示しているいくつかの作品を紹介しよう。

1.フィリップ・K・ディック「高い城の男」(1962年)

映画トータル・リコール、マイノリティー・レポートなどの原作者として知られるディックの最高傑作のひとつと言われる作品。第二次世界大戦に枢軸国が勝利し、アメリカの東半分をドイツ、西半分を日本が占領し、統治している世界で、日本統治下のサンフランシスコを舞台に様々な謎が展開する。礼儀正しく、哲学的で神秘的な日本人が描かれる。

彼が考える日本人の神秘性・精神性は作品を通して日本人のクリエーターに影響を与え、ジャパン・クールの源流のひとつになっていると思われる。

2.イアン・ワトソン「銀座の恋の物語」(1973-74年)

前述のワトソンの作品。西暦2000年(この作品にとって26年後の近未来)の日本、ホステスが、高性能コンピュータ「暗示性魔法・和合機械」によって、客が望む通りの人格になって接客する銀座のクラブ「女王蜂」を舞台にした、切ないラブ・ストーリー。

高度なテクノロジーがホステスの接客という娯楽に惜しげもなく使われる、という物語を生み出したワトスンの日本観が、他のSF作家の日本観に影響を与えたと思われる。また、テクノロジーによる精神へ直接的な介入や改造は、ディックとも共通する要素であり、これもジャパン・クールの源流のひとつになっていると思われる。

3.ウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」(1982年)、「ニューロマンサー」(1984年)

サイバースペース(電脳空間)という造語を発明した「サーバーパンクSF」の旗手ギブスン。人間が脳に電極を接続してコンピュータを介してサイバースペース(今で言うバーチャルリアリティーの世界)に直接プラグインするアイディアは、ここに始まっている。

サイバーパンクの世界観は、犯罪の渦巻く退廃した社会と高度なテクノロジーだが、その舞台にしばしばなったのが日本だ。ニューロマンサーの舞台は、「ハイテクと汚濁の街」チバ・シティである。映画「マトリックス」や前述の「攻殻機動隊」などギブスンに直接影響を受けたSF、映画、コミック、アニメは内外問わず数知れないが、ギブスン自身は日本のテクノロジーと社会に強い関心を抱いており、作品にはチバだけでなく日本的なものが数多く登場する。

日本社会に刺激を受けたギブスンが、その世界観で逆に日本人のクリエーターに影響を与える、というジャパン・クールの源流が見て取れる。

4.映画「ブレードランナー」(1982年)、原作フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(1968年)

リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演のこの映画こそ、SF映画の最高傑作としてカルト的人気を誇り、世界中のクリエーターに大きな影響を与えた作品である。小説、映画、コミック、アニメなどにブレードランナー以前・以後という区別があるほどだ。

2019年のロサンゼルスを舞台とするこの映画の美術を担当したアメリカ人デザイナー、シド・ミードの提示した世界観、未来像が、日本人のクリエーターにも影響を与え、ジャパン・クールの直接的な源流になったことは、この世界では広く知られている事実である。

聳え立つ高層ビルや高度な、そして奇妙なテクノロジーと、降り注ぐ酸性雨に煙る暗い世界、アジア的混沌や非西欧文明との融合などのペシミスティックな未来社会像は、その後の様々な作品における未来社会像の「グローバルスタンダード」になる。

この映画では随所に日本語が飛び交い(有名な冒頭シーン、屋台でのハリソン・フォードとスシ・マスターの会話など)、怪しげな日本人や日本的な巨大ビジョンなどのハイテク物が出てくる。そのヒントが現実の日本社会にあることは見れば明らかで、シド・ミードが日本に大きな影響を受けていることがわかる。

続く

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登録日:2007年 07月 22日 15:56:05

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プロフィール
Ryuichi Himori
(男)
団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
(なお、mixiもやってます。)
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