2008年 10月 19日
「東京島」・・・書評のがらではないが・・・

(谷崎潤一郎賞受賞作品「東京島」桐野夏生著 新潮社)
経済学とは、個々の人間が限られた資源のもとに自分にとっての効用を最大化しようとする営みの合成された動きを研究する学問である。経営学はその組織的技術的側面を研究する学問である。
しかし、人間は必ずしも自分にとっての効用の最大化を目指して合理的行動をするわけではない。人間の行動は時に不合理であり、不条理であり、衝動的である。そして自分にとっての効用が何かすら見失う。それは「情報の非対称性」だけで片付けることはできない。なぜなら情報が充分に与えられていても人間は時に不可解な(自分自身にとっても)行動をとるからである。
当然ながらそのような人間の行動の集合である経済活動も時として不合理であり、不条理である。効用の最大化の観点からは説明できないことが多い。だから現代の経済学は心理学や神経科学まで動員して解明し説明しようとする。しかし果たしてこのような分析的アプローチが有効なのかどうか疑問が残る。
その点、文学は人間の不合理不条理をえぐりだし、人間や人間集団の全体像を描き出す。文学は経済学経営学にとっても多くの示唆を与えてくれる。そんな読み方ができるのが桐野夏生さんの受賞作「東京島」である。授賞式で選考委員の筒井康隆氏は「この小説はいろいろな読み方ができる」と講評した。筆者にとってはこの本は経済学である。
「東京島」はこんなストーリー。40代の清子は夫の隆と共に海難事故で無人島に流れ着く。やがて日本人の若者23人、中国人11人も漂着する。日本人は島を「東京島」と名付け、島での奇妙な生活が始まる。清子は島で唯一の女性だ。そして話は急展開し・・・
ロビンソン・クルーソーも、スイスのロビンソン一家も、十五少年も、みんな無人島の限られた資源のもとで自己の効用の最大化、すなわち安全な生活の構築と島からの脱出を目指してその時点で必要と思われる行動をとった。ところが「東京島」の主人公たちはてんでんばらばら、支離滅裂である。この小説では最も合理的に行動していたはずの中国人グループも、最後の方では壊れていく。
考えてみれば、どの無人島小説よりも、「やはり人間はこうだろうな」と思わせるのが「東京島」の主人公たちである。そしてそれは現在の金融・経済危機に翻弄されて右往左往する私たちの姿と重なる。すぐれた小説家には予知能力があるようだ。
私が興味を持ったのは「東京島」で唯一の女性だった清子の価値の変動だ。さまざまな理由で島における清子の価値は上がったり下がったりする。そして最後には手の届かないところに存在することにより清子の価値は最大化する。なぜそうなったかは本書をお読みいただきたいが、変動する理由といいまるで現在の株式相場を見るようだ。大学の経営経済学部で教壇に立つ私にとって、やはりこの本は経済学である。
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登録日:2008年 10月 19日 01:54:25
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- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
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