寄付と広告宣伝費

MIXIのアートマネージメント関連のコミュニティで、「アートにお金を出すとき、企業にとっては広告宣伝費より寄付のほうがいいのではないか?」というご意見があった。

企業に対する誤解もあると思うので、ここで「なぜ寄付より広告宣伝費のほうが望ましいか」について詳しく説明しよう。

筆者はいまある音楽イベントの協賛を取るために企業を回っている。一人で約40社を訪問するのだが、先日もある大手企業にアポの電話をいれたところ、担当の部長さんが「お金を出すのはやぶさかではないが、寄付なのか?それとも広告宣伝の費用になるのか?」とおっしゃる。「プログラムに御社の広告の掲載をお願いするということなので、広告宣伝費になると思いますよ」とお話したところ安心したような声で「それなら来てください」とのこと。これが企業の本音だ。

前回書いたように、寄付は課税され、広告宣伝費は経費として認められ、課税されない。
企業の損益というものはおおまかにいうと、
  売り上げー(経費+原価)=利益
ということになる。(これを税の用語では、益金ー損金=所得、という。)

税金(法人税など)は経費や原価など(損金)ではなく利益(所得)に課税される。つまり、寄付や課税対象となる接待費などは経費や原価など(損金)ではなく概念的には利益(所得)の一部なのだ。となると企業内部の意思決定のレベルが違ってくる。
(なお、売上にかかるのが消費税である。)

広告宣伝費をどう使うかは、担当者の権限に応じてある程度は任されている。ところが寄付は大まかにいえば利益をどう処分するか、という話しなので意思決定はより上位で行なわれる。
大手企業の部長が安心したのも、広告宣伝費なら自分で決済できるが、寄付は自分のレベルでは決済できないからだ。場合によっては社長決済や取締役の稟議を必要とするかもしれない。金額は同じでも面倒がまるで違うので安心したわけだ。
いずれにしろ、経費は従業員、寄付は経営者、と覚えてもらいたい。

株主との関係で言えば、株主への配当は利益から行われるので、概念的には寄付と競合する。配当に回るべき分を寄付するには、よっぽど株主を納得させる理由が必要だ。今の株主は昔と違って物言う株主だ。だから経営者でも恣意的な判断で寄付をすることは許されなくなっている。株の大半を持つオーナーでなければ無理だろう。一方で経費の使い方は原則的には株主は経営者及び従業員に任せてよっぽどでなければ不介入だ。

企業のお金をアートに引っ張ってこようと思ったら、このような企業の原理を理解し、企業が出しやすくなる工夫をしなければならない。作品がいいとか作家がすばらしいとか社会的意義があるとか言って押しているだけではだめだ。

金額の大小に拘わらずそうだ。先日筆者はある大学のデザイン学部の卒業制作展に3万円協賛した。それは当日配布するリーフレットに載せる弊社の広告の代金として、ということでそれなら筆者も決済できる。これを3万円寄付して欲しいと言われると難しい。地域の大学への協力、という意義があっても手続きが面倒でやる気がしない。

つまり企業とは抽象概念ではなく人の集合だ。だから人に働きかけ、その人が企業の意思決定を引き出しやすいように工夫し協力することが大切なのだ。

カテゴリー[ アートマネージメント ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2007年 03月 29日 00:14:00

コメント

始めまして。だいぶ以前(2006.8.29)に格差対策にUSのドーネーションをという話を自分のblogで書いたときに、日本の寄附システムのバカばかしさを書いたのを思い出しました。「お付き合い出稿」の伝統や、地元の祭りに協賛の札が飾られるのはこれ全て、日本的な制度上の問題でしょう。よくアメリカ型社会が悪いと言いますが、私から言わせればよっぽどアメリカ型社会のほうがこの国の社会より生活しやすいですよ。話はまったくエントリーと異なりますが、団塊世代らしい意見の数々、嬉しく読みました。私は息子世代ですが、自分の親がまるでドロボーのように言われるのは我慢ならないので、ほぼ同意できます。世代のかたが、いきてきた時代をちゃんと語っているのを見てなぜかネットでは批判のほうが多く目に付くので、嬉しかったです。では、失礼いたします。

たま @ 2007年 04月 02日 21:33:26

たまさん、こんにちは。
アメリカにドーネーションあらば日本には奉加帳あり。奉加帳の先頭に(筆頭「ふでがしら」という)に有力者の名前と金額が書いてあれば、後のものは自分の格に応じて連ならざるを得ない。奉加帳を回すほうはいかに「ふでがしら」にふさわしい人を頼むかが勝負。自主性も何もありません。これを寄付と言えるのかどうか。
確かにネットでは団塊批判が多いのですが、それが当たっているところもあります。でも誤解もかなりあるので、できるだけ解いていきたいと思っています。それにおねだりできるお財布と思われてもこまりますし。
これからもよろしくお願いいたします。

himori @ 2007年 04月 03日 00:05:19

団塊世代がよく言う「俺たちは必死で働いて日本を経済大国にした。」 は大ウソ。

彼らが社会人になった1970年代 既に日本は経済大国でしたよ。

戦後の焼け野原から 日本を復興させたのは
その時にすでに社会人だった大正世代です。

戦後生まれの団塊の世代は 学生運動やってノー天気で本当に無責任な世代でした。
団塊の世代がここまで日本を堕落させたんですよ。

団塊キライ @ 2007年 08月 19日 16:22:02

団塊キライさん
こんにちは。このブログのカテゴリー「団塊世代」を通しでお読みください。大正世代についてはその通りです。ただ、団塊世代自身が「俺たちは必死に働いて日本を経済大国にした」とはあまり言っていないのではないでしょうか。もしそのような例があればご指摘いただきたいのですが、いるとすればそれは錯覚だと思います。
また、学生運動についても、25%しかなかった大学進学率のまたほんの一部だと思います。この世代も色々です。あまりステレオアタイプ的な見方はいかがかと思います。

himori @ 2007年 08月 20日 00:01:30

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プロフィール
Ryuichi Himori
(男)
ryuichi.himori@gmail.com
団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
(なお、mixiもやってます。)
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