企画とは・・・

写真©ヤマハ株式会社
企画とは・・・
マイミクさんのお一人の日記にこのようなタイトルの書き込みがあった。
それに関連した話をここで書いておこう。
企画を思いつくのは簡単である。思いつきを言うだけなら誰にでもできる。しかしそれを実現するには膨大な努力、金と時間とエネルギーが必要だ。
例えば、行政が音楽イベントを企画したとする。地元出身の有名歌手が来てくれることになった。そうだ、たまたま地元に今年県吹奏楽大会で銀賞をとった中学校の吹奏楽部がある。一緒に何曲かやってもらったらどうだろうか。中学生とはいえ、賞をとるだけあってとても上手だった。
実現すれば行政や地元としては美しい絵になるだろう。行政がお金を出す名目も立つ。さてこの企画どうすれば実現するのだろうか?
実は筆者には全国数ヶ所で実施した、似たような企画がある。タイトルを「バンドdeオペラ」というこの企画は、地元のアマチュア吹奏楽団と合唱団がプロの指揮者の下でプロのオペラ歌手(ソプラノ、テノール)と共演する、という画期的な(無謀な)ものだ。
この企画をある東北の県庁の文化政策担当部門に提案し、県の事業として県下の人口3万人のN市の文化会館で実施することになった。ここまでは簡単である。自分で書いた企画書の目的欄には、もっともらしく「地域の音楽文化の振興」「異なる活動をする市民・音楽団体間の交流や世代間交流による新たな文化活動の創出」など美しい言葉が踊る。
さて、諸々の根回しの結果、地元の高校の吹奏楽部と市民吹奏楽団有志による合同バンド、ママさんコーラスと寄せ集め男声合唱の出演が決まった。(オペラの曲をやろうとするとどうしても混声合唱が必要だが、田舎にはなかなか男声がいないのだ)。ここまではまだいい。
あとは曲を決めて練習すればいいだけと思うだろうが、そうはいかない。決定的なことは、楽譜がないのだ。音楽は楽譜がなければ何もできない。そして、吹奏楽でオペラの曲を声楽や合唱と一緒にやろうという楽譜はこの世に存在しない。
ところが、実はソプラノの曲は楽譜があるのだ。というか作ってあったのである。筆者が企画した他県の大規模文化施設の開館式典コンサートで、全国トップクラスの社会人吹奏楽団と学生吹奏楽団、それに県警音楽隊の合同バンドとアマチュア合唱団をバックに世界のプリマ、中丸美千繪が歌う、というこれまた無謀な企画を実施したとき、新たに編曲して起こした楽譜を持っていたのだ。だからこの企画を提案したのだが、とはいえテノールも加わった新たな曲は全て編曲者に依頼して吹奏楽団用に編曲し、スコアとパート譜をつくり、清書してプリントする。これだけでもお金とエネルギーのかかる作業だ。
さて、各団体と歌手に楽譜を配ってやっと練習が始まる。最初は東京にいる歌手と、東北のN市の高校、合唱、社会人有志がそれぞれバラバラに練習する。その間を弊社の吹奏楽担当プロデユーサーが走り回って調整する。そこで問題が発生する。高校生には譜面が難しすぎるのだ。泣き言を言う顧問の先生。文句を言う社会人。合唱も自信を無くしやめると言い出す。必死になだめて、とにかく第一回の合同練習日を迎える。東京から、海外のオーケストラの常任も経験した気鋭の指揮者が来て練習が始まる。指揮者も請けた以上必死だ。指揮者が各パートに次回までの宿題を指示して練習が終わる。
一ヵ月後に2回目の練習。東京から筆者も指揮者に同行して乗り込む。練習が始まり、顔面蒼白になる指揮者。宿題をクリアどころか一回目の練習前の水準が戻ってしまっているのだ。必死に建て直す。何回も出る指示が、「皆さん、私の棒を見てください」。また宿題を指示して戻る。雪の中を駅に向かうタクシーの中で、「桧森さん、ほんとにこれでいいの?」と問う指揮者。無言で(頼みます、と)拝む筆者。
何回か合同練習を繰り返し、いよいよ本番前日のリハーサルの日。この日初めて歌手が合流する。そしていよいよリハーサル開始。合わない。指揮者は何回も止め、指示を出す。緊張でママさんコーラスの一人が倒れてしまった。でも救急車も断り、ちょっと休んでまた舞台に復帰してくる。なんとしても歌いたい、という根性だ。
実はアマチュアの吹奏楽団にとって最も難しいのが歌の伴奏だ。きちんとテンポをきざむのには慣れていても、歌手の微妙なゆれに対応するのは難しい。まして高校生主体だ。要所要所に入った社会人の先輩が一生懸命教えている。リハーサルの終盤、出演者のやる気が充満し、どんどん良くなってくる。
迎えた本番の日。午前中のゲネプロ(通し稽古)も無事に済み、いよいよ本番。1000席のホールは満席だ。演奏は順調に進む。観客は美しいプロの歌声と、懸命に演奏する高校生や、顔なじみの社会人、ママさんたちの奮闘する姿に引き込まれている。
いよいよクライマックス。歌劇アイーダの凱旋行進の場だ。舞台両側の花道に陣取った社会人有志のトランペット隊のアイーダトランペット(弊社提供)が響き渡り、有名な凱旋行進曲が流れる。
ふと横を見ると、この企画にやや懐疑的だった県庁の課長補佐が感動して涙を流している。企画者として、してやったり、と思う瞬間である。
さて、企画は大成功だった。企画書の狙いどおりになった。その後市の音楽団体間の交流も続いていると言うし、高校吹奏楽団のレベルも大幅に向上したらしい。何よりも地元の人たちの中に音楽による感動の体験が残ったことが大きい。
しかし企画者としてはこれで終わりではない。終わって帰ってきたホテルのロビーで美しいソプラノ歌手にキッと睨まれ、「桧森さん、ちょっとお話があるの」。はい、お話の内容はわかっていますよ。「このままのやり方なら私もうやらないわよ」、と言いたいのだ。
この舞台、観客は感動したが指揮者も含めプロの音楽家にとってはとても満足の行く内容ではなかった。彼等からすれば「ボロボロ」だったのだ。表現者として、芸術家として、納得のできる出来栄えではとてもなかったことに強い不満が残る。確かに観客は感動したが、それは彼等の芸術の力だけではなく、「地元のアマチュアが一生懸命やっている」という部分が大きい。アマチュアに「奉仕」することはできたが、それだけでは納得しない、割り切れないのが本物のプロというものだ。
この企画は、プロの出演者も納得できるものに進化させないと次がない。ことほどさように本物のプロとアマチュアが共演するのは難しい。
企画とは・・・
思いつくのは簡単だ。プロと地元のアマチュアの共演は美しい。絵になる。
しかしそれを実現するとなると・・・
・・・・・・・・・・・
この企画はその後筆者の手を離れているが、改良を加えて何回か実施し、近々また行われるらしい。発案者としてはどのように進化したか楽しみだ。
なお、筆者は企画の専門家ではあるが、音楽そのものについてはまったくの素人である。念のため。
カテゴリー[ アートマネージメント ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2007年 04月 24日 18:29:32
コメント
桧森さんはいろいろやてますね。
>「地域の音楽文化の振興」「異なる活動をする市民・音楽団体間の交流や世代間交流による新たな文化活動の創出」など美しい言葉ーー
いいじゃないですか!3万人の都市で。読みながらかなり無謀な企画だなあと感じたけど、うまくまとまりましたよね。桧森さんも今となってはちょっと自慢?指揮者とオペラ歌手にプロをもってきたところがKFSでしょう。プロがなんと言おうと、出演者もその一族郎党の1200人の聴衆も大満足し、文化に金を出した行政も、その後市民に音楽が根付いているのなら満足のはず。
できれば、プロたちもこの市か地域の出身だったらみんな満足?だったのかも。大都会でステージ張っている地域無縁のプロなら、2度目以降はやっぱり躊躇でしょうね。
私は市民合唱団の一員として似たような体験をして、身体が震えるような感動を体験したのが、男性合唱を生涯の楽しみにできたきっかけでした。
また体験したいと思いますが、行財政改革が叫ばれている今、もう行政にはちょっと期待できないかなーー
macchan @ 2007年 04月 24日 20:26:24
macchanさん
いろいろというかこれが本業だったんですが。
まあクライアントにとっては企画は大成功だったと思いますが、アーティストはあくまでも完成度の高い芸でお客様を楽しませ感動させることを目指している人たちですから、たとえ地元出身だったとしても満足は行かなかったでしょう。
とはいえ、アマチュアと共演する場合、無理を承知で超一流のプロを持ってくるのがおっしゃるように成功の鍵です。彼らはプライドをかけて徹底的にやってくれますから。アマチュア相手でも真剣です。だからこそ不満も残るのでしょうが。
参加したアマチュアの人たちの感動は一生ものだたでしょうね。macchannさんもそのような感動を味わうことができたのはうらやましいですね。これからも行政にもちょっとは期待しましょう。市民のコンセンサスはあると思いますから。
himori @ 2007年 04月 24日 23:22:22
文化事業は、やれるという直感が働き、やりたいと思う、桧森さんのような企画のプロがいてこそ、無謀な企画も成功するのだと思います。
このような企画は、私も大歓迎です(笑)
野住 @ 2007年 04月 25日 21:30:16
野住さん、コメントありがとうございます。触発されて書いてみました。
そうですね、自分なりの企画の方法論がありますので近々書いてみます。
この企画は手間がかかるだけに実現するとおもしろいですけどね。
himori @ 2007年 04月 26日 22:37:46
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- ryuichi.himori@gmail.com
- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
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