ジャパン・クールの源流をさぐる:その2

画像は映画「ブレードランナー」
ジャパン・クールの源流は欧米のSF作家の日本観にもとづくSF小説の中にある。
このことを示しているいくつかの作品を紹介しよう。
1.フィリップ・K・ディック「高い城の男」(1962年)
映画トータル・リコール、マイノリティー・レポートなどの原作者として知られるディックの最高傑作のひとつと言われる作品。第二次世界大戦に枢軸国が勝利し、アメリカの東半分をドイツ、西半分を日本が占領し、統治している世界で、日本統治下のサンフランシスコを舞台に様々な謎が展開する。礼儀正しく、哲学的で神秘的な日本人が描かれる。
彼が考える日本人の神秘性・精神性は作品を通して日本人のクリエーターに影響を与え、ジャパン・クールの源流のひとつになっていると思われる。
2.イアン・ワトソン「銀座の恋の物語」(1973-74年)
前述のワトソンの作品。西暦2000年(この作品にとって26年後の近未来)の日本、ホステスが、高性能コンピュータ「暗示性魔法・和合機械」によって、客が望む通りの人格になって接客する銀座のクラブ「女王蜂」を舞台にした、切ないラブ・ストーリー。
高度なテクノロジーがホステスの接客という娯楽に惜しげもなく使われる、という物語を生み出したワトスンの日本観が、他のSF作家の日本観に影響を与えたと思われる。また、テクノロジーによる精神へ直接的な介入や改造は、ディックとも共通する要素であり、これもジャパン・クールの源流のひとつになっていると思われる。
3.ウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」(1982年)、「ニューロマンサー」(1984年)
サイバースペース(電脳空間)という造語を発明した「サーバーパンクSF」の旗手ギブスン。人間が脳に電極を接続してコンピュータを介してサイバースペース(今で言うバーチャルリアリティーの世界)に直接プラグインするアイディアは、ここに始まっている。
サイバーパンクの世界観は、犯罪の渦巻く退廃した社会と高度なテクノロジーだが、その舞台にしばしばなったのが日本だ。ニューロマンサーの舞台は、「ハイテクと汚濁の街」チバ・シティである。映画「マトリックス」や前述の「攻殻機動隊」などギブスンに直接影響を受けたSF、映画、コミック、アニメは内外問わず数知れないが、ギブスン自身は日本のテクノロジーと社会に強い関心を抱いており、作品にはチバだけでなく日本的なものが数多く登場する。
日本社会に刺激を受けたギブスンが、その世界観で逆に日本人のクリエーターに影響を与える、というジャパン・クールの源流が見て取れる。
4.映画「ブレードランナー」(1982年)、原作フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(1968年)
リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演のこの映画こそ、SF映画の最高傑作としてカルト的人気を誇り、世界中のクリエーターに大きな影響を与えた作品である。小説、映画、コミック、アニメなどにブレードランナー以前・以後という区別があるほどだ。
2019年のロサンゼルスを舞台とするこの映画の美術を担当したアメリカ人デザイナー、シド・ミードの提示した世界観、未来像が、日本人のクリエーターにも影響を与え、ジャパン・クールの直接的な源流になったことは、この世界では広く知られている事実である。
聳え立つ高層ビルや高度な、そして奇妙なテクノロジーと、降り注ぐ酸性雨に煙る暗い世界、アジア的混沌や非西欧文明との融合などのペシミスティックな未来社会像は、その後の様々な作品における未来社会像の「グローバルスタンダード」になる。
この映画では随所に日本語が飛び交い(有名な冒頭シーン、屋台でのハリソン・フォードとスシ・マスターの会話など)、怪しげな日本人や日本的な巨大ビジョンなどのハイテク物が出てくる。そのヒントが現実の日本社会にあることは見れば明らかで、シド・ミードが日本に大きな影響を受けていることがわかる。
続く
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登録日:2007年 07月 22日 15:56:05
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