シューカツの真実 その1

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(17世紀の海上交易の主力、オランダのガレオン船)

今の季節、シューカツが花盛りだ。大学生の就職活動をシューカツと表現するのは大学生当人及び父兄、大学の就職サポート部門、企業の人事部採用担当、そしてリクルートなど採用関連業者だ。それ以外の世の中とはまったく関係ないところで、あーでもない、こうでもないとぐるぐる回っているのがこの世界だ。

つまり、シューカツが世の中に影響を及ぼしているのではなく、世の中の変化がシューカツに影響を及ぼしているのだということを当事者は忘れがちになる。

企業の中で最も評価されていない部門のひとつが人事採用部門だ。彼らが採用し、送り込んでくる人材に対して「何でこんなに使えない奴を採ったんだ!」という非難が他部門から浴びせられる。

もちろんそれは人事採用部門の責任ばかりではない。しかし上記シューカツ関係者が企業の本質及びその変化を理解せず、間違った人材を養成しそれを採用している、という感は否めない(一方で人事採用部門以外の企業側が今の若い人のことを充分理解していない、というのも事実だが)。

シューカツの真実を理解するために、そもそも就職とは何か、という議論から始めよう。

1.就職とは何か

そもそも現在の日本では就職=会社への就社と理解されている。つまり学校を卒業して給与所得者という職業に就くことを意味している。職業には自営業者もあれば農業も漁業もある。専門職やフリー(個人事業者)としてやれる仕事もある。にも関わらず就職は数ある様々な職業に就くことではなく、会社などの組織に入って給与所得者になること、端的に言えば大学を出てサラリーマンになることを指している場合が多い。そのための活動がシューカツと呼ばれている。

現代ではこのこと自体を考え直さねばならない状況だが、もしこのように就職を考えるならば、シューカツの真実を知るためにはそもそも会社とは何か考えねばならない。

2.会社とは何か

世界初の株式会社は1602年に設立されたオランダ東インド会社である。その前から、会社の原型は貿易船の仕組みに見ることができる。つまり、今に至る会社の原点は、徒弟制度の手工業ではなく所有と経営が分離してリスクを分散する17世紀の貿易船であった。

当時、西洋と東洋の貿易は成功すれば莫大な利益を上げた。安く買った西洋の産品を船に積んで喜望峰を回り、インドやジャワ、日本で当地の産品(金、銀を含む)と交換し、無事にヨーロッパに持ち帰ることができれば大儲けが約束されていた。しかし航海には難破や海賊などのリスクがつきまとった。ハイリスクハイリターンの危険な事業だった。

そこで、複数の金持ちが金を出し合って船を作り、有能な船長を雇って貿易船を仕立てた。一人が船主になるのではなく、大勢が金を出し合う。一方一人の金持ちは複数の船に金を出すことによって、ひとつが沈没しても他が無事に帰ってくれば儲かる、という形でリスクを分散した。船主は自分たちで交易品を積み込むだけでなく、荷主を募って交易品を載せた。これを有能な船長の才覚に託した。才覚とは嵐や海賊の危険を乗り越えて戻ってくる才覚と、預かった交易品を当地で高く売り、当地の価値ある産品を仕入れてくる才覚である。

おわかりのように、元手を出して船を仕立てる船主や交易品を仮託する荷主が現代の会社の株主であり、雇われた有能な船長が現代の経営者だ。もちろん、船長の中には、「海賊に襲われて積荷を奪われた」などと嘘を言って積荷を横流しする輩もいる。このようなモラルハザードが起こらないように誠実な船長を雇うのも船主の力量であり、なおかつそのような気を船長に起こさせないような手厚いインセンティブやばれたら縛り首の罰則が用意されていた。

以上が現代に至る会社というものの本質である。

3.貿易船のシューカツ

さて、船を託された船長は、まず有能な乗組員を集めなければならない。経験豊富な水夫をたくさん雇う事ができれば航海の安全度は高まる。しかし船主から見れば貿易による利益から船長や水夫の給料、食料や船の備品、修繕費などの経費を引いたものが純利益であるから、水夫の人数や給料などは少ない方がいい。

そこで、操船や戦闘などを担うベテラン水夫の他に、コック見習いや火薬の運搬など熟練を必要としない仕事のために11歳~12歳くらいの見習い水夫をたくさん雇った。これなら給料はただも同然だった。

当時の階級社会において、まったく財産を持たない食い詰め者が見習い水夫になり、遭難や戦闘で命を落とさずに掌帆長(水夫の頭)にでもなって小金をためて陸に上がれば、街道沿いのパブを買って飲み屋の親父に納まることができた。これは当時現金収入の道がほとんど無かった庶民にとって望外の出世だった。貿易船の儲けは水夫にも行き渡ったのだ。

従って見習い水夫の希望者は多かった。なんとかコネを頼って採用されようとしたり、今のシューカツと変わらない。船長も見習いとはいえ無能な者を乗り組ませると航海の安全にも関わるので慎重に選んだ。

とはいえ見習い水夫は貿易船のヒエラルキーの最下層であり、消耗品とみなされた。その中から這い上がって一人前の水夫になる者もわずかながらいた。そのような成長は船長にとってはラッキーなことであった。
現代のシューカツもたかだか見習い水夫に採用されるための活動である。それ以外に小作農や羊飼いなど他の職業に就く途もあることは当時も変わらない。

ところで貿易船の船長にはどうしたらなれたかといえば、どこかで読み書き算数を身に着ける機会が必要だった。当時の六分儀を使った天測航法には、数学の知識は不可欠だった。もちろん積荷の売買や契約は読み書きができなければどうしようもない。

圧倒的に文盲が多かった当時、読み書きができる人間は今の大卒よりはるかに少なかった。このような人は見習い水夫から出発しても出世は早く、経験を積めば掌帆長より上の職位である航海士になることができ、更に運と才覚があれば船長になった。
今で言えば幹部候補のエリート採用というところだろうか。読み書きは船に乗ってから覚えることもあったし、家に多少の経済的ゆとりがあれば、乗り込む前に近所の寺子屋(教会の塾)で教えられることもあった。

4.大学の矛盾(蛇足ながら、現代の)

それでは当時の大学とはどういうものだったかといえば、今まで述べてきた船主から見習い水夫に至る階層とはまったく関係がなかった。

大学とは、働かなくても済むだけの財産を持った家の子弟で学問が好きな人たちが通う別天地だった。貿易船の船主ですら働いているという意味では彼ら学生より下の階層だった。ましてや船長や見習い水夫の養成など想像の外だった。
学生も教員も世俗のことにはあくせくせず、純粋に学問に没頭できる人々の集まりが当時の大学だった。

この時代の大学のアカデミズムの伝統の痕跡を今に残しているにも関わらず、見習い水夫を養成して現代の貿易船である会社に送り込まねばならない、というのが現代の矛盾した大学の姿(日本だけではないが)である。つまりシューカツは本来の大学とは無縁のものだったのだ。それでもシューカツをやらねばならないとするならば、大学は過去のアカデミズムの伝統ときっぱり決別しなければならないのだろうか?

(続く)

カテゴリー[ キャリア教育・生涯教育 ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2008年 02月 22日 00:53:07

コメント

とてもわかりやすく、勉強になりました。ありがとうございます。続きを楽しみにしております。

honey @ 2008年 02月 22日 02:34:33

honeyさん、だらだらと長い文章を最後まで読んで頂いてありがとうございます。わかりやすいと言っていただけてうれしいです。また続き書きますのでぜひお読みください。

himori @ 2008年 02月 22日 13:23:26

世界初の株式会社の話から、えらい就職論が出てきましたね。そうですかシューカツは貿易船の水夫志願が発祥とはーーーいつものHimorinの得意分野とは一味違う薀蓄の続きを期待!!

Macchan @ 2008年 02月 23日 10:49:45

macchanさん、おかえりなさい。ちょうどシーズンなのでちょっとシューカツの問題を考えてみようと思いまして。考えるときにおおもとまでさかのぼるのが癖です。

himori @ 2008年 02月 24日 01:08:40

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ryuichi.himori@gmail.com
団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、行政経営フォーラム副代表、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事などいろいろ。行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論、都市政策などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
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