地域医療の崩壊と再生
先日の行政学会で地域医療に関する分科会に出席した。
この分科会の議論を聞いて地域医療の崩壊についての筆者の疑問はある程度答えを得ることができた。
1.必ずしも新医師臨床研修制度が悪いわけではない。
地方の公立病院の深刻な医師不足は、平成16年から導入されたこの制度によって大学の医局から医師が派遣されなくなったことが一因だ。筆者は単純に間違った制度を導入したのだからもとへもどせばいいのではないか、と考えていたが、どうやらそれは間違いらしい。
制度が導入される前から医局制度は行き詰っていたというのだ。若い医師は古色蒼然とした「白い巨塔」には魅力を感じず、医学博士ではなく高度な専門医の資格を取ることを望んでいるが、それは従来の大学病院ではかなえられず、医局制度はむしろじゃまになっていたようだ。制度改正によってアメリカのテレビドラマERのような世界がやっと日本にも登場するので、これは不可逆的な動きだという。
この流れを逆手にとって、意欲的な地方の公立病院は若い医師にとって魅力的な、しかもより実践的な臨床の経験を積むことができる研修プログラムを用意して研修医を惹きつけることにより、医師不足が解消の方向に向かっている、という報告があった。
2.民度が低い地域から医者が逃げる。
地方によって医師不足に陥る地域とそうでない地域があり、必ずしも全国一律で地方医療が崩壊しているわけではない。その違いはどこから出てくるのか。例として経営破たんした夕張市立総合病院についての発表資料から一部抜粋する。
●社会的入院の多さ
・入院患者の9割近くが70歳以上の高齢者
・医療的処置よりは介護業務が多い
・医師が医療を行う場面は少なく、技術の向上は期待できない
・若い医師はこのような病院には集まりにくい
●患者の全てが被害者ではない
・市民の中には治療費を滞納してそのままという人も多かった
・滞納額は2億円を超えた
・救急車をタクシー代わりに使う人も多かった
・介護に疲れたからと言って、救急車を使って入院する人が多数いた
・無診察投薬が当たり前のように横行していた
・病院は、このような人達に対して毅然とした態度を取れなかった
(城西大学伊関準教授の資料より抜粋。なお伊関氏のブログをご覧ください。
http://iseki77.blog65.fc2.com/ )
本日20日のNHK生活ホットモーニングで紹介されたように、住民自身が立ち上がり、コンビニ診療をやめない限り地域医療は再生しないだろう。医師や行政にお任せでは何も解決しない。これは地域医療に限ったことではないが。
カテゴリー[ 行政経営 ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2008年 05月 21日 00:12:59
コメント
BDPよりおじゃましています。東京都のど真ん中で勤務医をしております。
マスターよりお伺いいたしましたので、うまくまとまりませんが、一言。
この10年、私たちは、日々目の前にいる患者がどうしたらよくなるかを考え、
患者とともに笑ったり泣いたりしてきました。
それが、いつのまにか「医療崩壊」という大きな問題がおきてしまいました。
(いつか起きるぞと思っていた人も多くいたと思います。)
休みなく、まじめに医療に取り組んできたのに、なにが悪かったの?と思い、
そもそもこの問題は医師の問題かしら、とすら思ってしまうこともあります。
極端な言い方をすれば、だれもが無責任なのかもしれません。
医療を提供する側は、「医療に従事しさえすれば、社会の一員としての責務はたされる。なぜならこんなに忙しいから。」と思い、
受ける側は「社会の一員として当然医療を受ける権利がある。なぜなら税金を払っているから。」と思いっているのかもしれません。
今回、この記事を読ませていただき、「医療を受ける側」の方々だけでなく、個人主義に走りがちな我々医師も、このような問題を、社会の一員としてとらえ、考えていくべきなのだなと改めて思いました。
natsuyoy @ 2008年 05月 22日 22:02:14
natsuyoyさん、いらっしゃいませ。
医師が自分自身にとって最適の選択(まじめに医療に取り組んだり、技術を高めたりのために)した結果が医療崩壊なので、まさに合成の誤謬とはこのことです。
natsuyoyさんのお書きになった医療従事者と医療を受ける側の両方が、官僚や政治家に任せずにこれからどうしていくかを議論することが大切だと思います。
医者も患者も社会の一員として、自分たち以外の人達にも責任を負っていると考える必要があるでしょうね。
himori @ 2008年 05月 26日 17:54:09
先生のお店での毒舌をここでも聞きたい。
PDPマスター @ 2008年 05月 27日 01:38:38
natsuyoy先生、お店で毒舌をぜひお聞きしたいものです。ここでもぜひ。
himori @ 2008年 05月 27日 23:52:15
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