イケアの盛況に見る日本社会の成熟2
さて、イケアはなぜ20年前の進出に失敗したのかを考えるまえに、戦後の日本の家具の歴史を考えてみたい。
江戸時代から昭和30年代まで、日本の庶民はほとんど家具らしい家具は持っていなかった。庶民の家具はせいぜいちゃぶ台とみずやくらいだ。そもそもタンスがおけるような家に住んでいなかったし、タンスに入れる衣類もなかった。だから、婚礼タンスなどは極めて新しい習慣である。
そもそも和室というのはフレキシブルでちゃぶ台を片づけて布団を引けば食堂が寝室になる。置き家具で部屋の用途が規定される生活ではなかったのだ。
昭和30年代以降に家具を置ける家に住み、家具を買えるようになった日本人の間に誤解が生まれた。それは「家具は高価な物であり、一生ものであり、それゆえに造りが良くなければならない」という観念だ。確かに貧富の差が激しかった時代、金持ち、上流階級の持っている家具は凝った造りの工芸品だった。それを見ていたので自分たちが家具を買えるようになったとき、家具はそういうものだと思い込んだのだ。本来、自分たちが買うのは工芸品でなく実用品なのだが、誰も実用品の家具がどんなものか知らなかったのだ。
筆者が店頭で家具を販売していた30年前、桐でできたタンスの引き出しの片方を閉めると空気の圧力でもう片方の引き出しが飛び出す、というデモンストレーションをやって造りのよさをアピールしていた。こんな仕掛けは構造上簡単にできるのだが、客はそういうものを造りのよいものと思い込んでいた。また、デザインも高そうなものが喜ばれた。
さらに無垢の木に対する信仰も強かった。そもそも戦前から無垢の一枚板を使った家具などほとんどなかった。それに、反りやねじれが出るのを防ぐために無垢ではなく合板や寄せ木を芯材に使うことは技術の進歩だったのだが、客はそれを知らなかったしメーカー側もあえて客の誤解を解く努力はしなかった。
メーカーは「いかに無垢らしく見せるか」の技術開発を競った。客から「この木はなんですか?」と聞かれて「チークです」と答えるがそれは芯材の上に高級品なら厚さ0.5mm、中級品なら0.1mmの紙のようなチークの薄板(つき板という)が貼ってあるだけだ。安物ならチークの模様を印刷した紙を貼ってその上から塗装してある。ところで客からのクレームはつき板より印刷の方が少なかった。天然のつき板は木目がそろわなかったり色むらが出るが印刷にはそれがない。われわれが買える値段で天然のもので木目をそろえるなどできるはずがない。
さらに家具は一生ものであり、一生に何度も買うものではない大きな買い物だという観念があるので、家具店は配送や設置も最大限サービスした。筆者はある地方都市で婚礼で買ったお客に配送の時トラックから長持ち歌をスピーカーで流すようにリクエストされたことがある。
とにかく今から30年前、日本人が、家具とは造り(精度)がよく、無垢材をたっぷり使い、色むらもなく木目がそろっていて、買うときはいたれりつくせりのサービスを受けられるものだと思い込んでいるところへ、イケアが進出してきたのだ。
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登録日:2008年 09月 22日 13:45:16
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