カテゴリー [アートマネージメント]
区民プロデュース企画は民間企業の指定管理者
神奈川区民文化センターかなっくホールのかなっくアートラボは昨年12月で講座編が終わり、今年から実践編。実践編というのは、講座受講者が実行委員会になり、区民プロデュース企画を企画・制作・運営をする、ということ。企画の実施は11月。私の立場も講師ではなくアドバイザーに切り替わる。
この区民プロデュース企画は指定管理者の民間企業が実施するホールの自主企事業の一環だ。ホールの自主事業としてのホールのミッションの達成と、実施を通した文化創造の担い手としての区民の育成という二重の意味を持つが、これは民間企業の指定管理者が2期目に当たって提案した事業である。
文化の担い手の育成が民間企業にできるのか、という疑問があるが、筆者は民間企業だからこそできるのではないかと考える。それは、この日実施されたキックオフミーティングで配られ、担当者(民間企業社員)から説明された資料に表れている。その一節を引用しよう。
「かなっくホールが施設として与えられたこのミッションを具現化するためのひとつの方策として、私たちは自主事業である「かなっくアートラボ」の実践編として「区民プロデュース企画」を位置付けました。これは、「かなっくホールが単に芸術文化の鑑賞の場に留まるのではなく、ホールと地域が相互に連携して、かつ区民自らが担い手となって文化活動を創造する拠点として活用されるようにとの強い思い」(提案書より)を自主事業の形で表現したものです。
略
とはいえ、「区民プロデュース企画」を企画・制作、そして運営していただくにあたっては、みなさまにはもはや講座の受講者ではなく、公共施設の一事業担当者の立場に立った判断基準と視点を持って活動に臨んでいただきたいと思っております。
みなさまの手による「区民プロデュース企画」は、かなっくホールの自主事業として市民の税金を投入して実施されるものであり、それはすなわちみなさまが横浜市の文化政策を担うことの他ならないからです。」
応募した市民にこれだけ強く自覚を促す行政担当者がいるだろうか。そして自主事業の原資が市民の税金であることをこれだけ強く意識する直営の公共ホールの職員はいるだろうか?
繰り返すが、この文章は指定管理者の民間企業の社員が書いた文章である。
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登録日:2012年 01月 23日 22:56:55
モーッアルトから初音ミクまで~アートマネジメント学会研究フォーラムのご案内

11月19日(土)10時から静岡文化芸術大学で開催される日本アートマネジメント学会で「技術、産業、芸術創造~そのスパイラルな関係」という研究フォーラムを主催します。詳しくはこちら。 http://t.co/kiPIk9Xz
このセッションはどなたでも参加できます。
10時~11時半 378中講義室
内容は以下の通り。
私たちは、音楽創造は芸術家の個人的な内面の衝動や苦悩などから生まれるものと思いがちです。昔、音楽室で見たしかめつらのベートーベンの肖像画が刷り込まれているのかもしれません。
しかし、音楽創造の動機には見落とされがちな二つの側面があります。
ひとつは、彼らは職業音楽家だった、ということです。ですから動機には経済的な動機も当然存在します。
二つ目は、技術革新が楽器と楽器産業の発達を生み出し、楽器の発達が音楽家を新たな創造に向かわせ、音楽家が高度な表現のためにさらに新しい楽器を求めた、という側面です。
このフォーラムでは、モーツアルトから初音ミクに至る、音楽創造におけるこのスパイラルな関係を解明するとともに、楽器産業が発達した浜松市が音楽創造の拠点になっていくことができるかどうかを議論します。終了後は竹内明彦氏の解説で浜松市楽器博物館を見学します。
コーディネーター
桧森隆一(嘉悦大学副学長)
パネリスト
竹内明彦
元ヤマハ株式会社管楽器設計者、楽器研究所、音楽企画プロデューサー。ウィーンフィルの管楽器復元製造の貢献。ウィーンフィルにお友達がたくさんいる、楽器と音楽の歴史の生き字引的存在ですが、本人は和楽器奏者であり、邦楽の作曲者でもあります。
著書:「新しい楽器楽体系(全5巻)1991年(共著)など
剣持秀紀
ヤマハ株式会社研究開発センター音声グループマネージャ
現在ボーカロイド(初音ミクなどの音声合成エンジン)の開発責任者を務めるかたわら、アマチュア弦楽四重奏団やオーケストラでヴァイオリンとビオラを演奏しています。
初音ミクの「お父さん」的存在です。
平野昭(慶応義塾大学文学部教授)
4月まで静岡文化芸術大学教授。音楽評論家にしてベートーベンの権威でもあります。
以上のようなめったにそろわない豪華メンバーで、今までの私たちの常識を打ち破るような議論を展開したいと思っています。
多くの皆様ご来場をお待ちしています。
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登録日:2011年 11月 15日 13:50:48
かなっくアートラボがスタート!
横浜市神奈川区民文化センターかなっくホール自主事業「かなっくアートラボ」が始まった。
http://kanack-hall.jp/info/vol124.html
かなっくホールでは08年度、09年度に筆者が講師となってアートマネジメント講座を実施し、10年度は講座受講者有志による区民プロデュース企画が実施された。
今年度から2年連続の「かなっくアートラボ」と銘打って、初年度が講座編、次年度が実践編としてあらかじめ実際に公演を企画制作することを前提として受講生を募集したところ、人数は少ないが意欲とそれなりの経験のある方々が集まった。
第一回の内容は以下の通り
第一回公演とは何か、制作の本質とは何か
1.長めの自己紹介
2.この講座の目的
3.チームビルディング
4.講座の構成(第一回~第六回)
5.基本的な考え方
6.アートとは何か
(1)アートartの訳語
(2)アートについての疑問
(3)アートとは何か?の仮説
7.ではアートをマネジメントするとは?
(1)アートマネジメントの発祥
(2)日本に輸入されたアートマネジメントへの疑問
(3)疑問を解明する手掛かり①
(4)疑問を解明する手掛かり②
(5)事例にみるアートマネジメントの本質
(6)考えられるアートマネジメントの事例
8.アートの顧客としての「主催者」
(1)アートの顧客についてもっと考える
(2)主催者とは誰か
(3)主催者のリスク
9.アーティストとはどういう人か
(1)アーティストartistの意味
(2)アーティストについて考えよう
(3)プロとアマチュアの違い
(4)アーティストとどう付き合うか
10.アートマネジメントの仕事の核心
(1)仕事の核心としての「プロデュース」
(2)プロデュースの意味
11.プロデューサーとは何か
(1)こんなプロデューサーがいた
(2)プロデューサーの定義
(3)主催者とプロデューサーの関係
(4)プロデューサーの事例
12.制作とはどういうことか
本当はこの先も用意していたのだが、ここで時間切れ。大学の授業数回分を3時間に凝縮。受講者の皆さんもさぞかしお疲れになったことだろう。
筆者はこれからの公共ホールの自主事業は市民が自分の見たいもの聞きたいもの、人にみせたいもの聞かせたいものを、自ら企画制作するのが本命だと思っている。そのためには、市民に専門家(プロデューサー)になってもらわねばならない。そのためにこのような講座がもっともっと必要になるだろう。
ということでほかのホールからもこの手の企画のオファーがこないものかと密かに思っている(この忙しいときに、オファーが来たらできるのか→自分)
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登録日:2011年 07月 30日 00:18:04
県民が企画する事業
3月31日は山口県岩国市のシンフォニア岩国で「県民プロデュースチーム」対象の勉強会の講師。
内容は以下の通り。
県民企画のための勉強会
レクチャー&ワーク「公立文化施設における制作」
1.長めの自己紹介
2.本日の内容
• 第一部 講義「はじめての制作」・・・・1時間
• 休憩
• 第二部 グループワーク・・・・・・・・・・・1時間
「簡単な企画と予算を考えて見よう」
個人ワーク→グループワーク→発表
3.公演制作の全体像
4.主催者とは誰か
5.主催者とプロデューサーの関係
6. クライアントとしての指定管理者
7.プロデューサーとは何か
8. 制作とはどういうことか
9.制作スケジュール
10.制作スケジュールの管理
11.コンサートの収支構造
12.収入の計算
13.支出の構造
14.収支
15.グループワーク の説明
16.企画にあたっての与件
□ワークシート個人用、グループワーク用
今回の内容だが、筆者が考えたポイントは、これから集まった県民のみなさんが事業を企画、実施するにあたり、その立場、スタンスを理解してもらうことにある。
事業は館の自主事業なので、県民プロデュースチームの立場は「お客さん」ではなく、あくまでも主催者である館と同じ立場でステークホルダー(県民納税者、県庁、地域社会、観客)に対して責任を負う。
このことへの理解がまず第一歩である。
その上で制作の実務やコンサートの成り立ち、収支構造についての基本的な知識を得る。それをベースに企画について議論するグループワークを行う、という内容。
受講された皆さんはとても熱心に聞いてくれた。グループワークもあらかじめ提示した与件にそってとてもいい議論ができていた。これから実際に企画を実施するまでに様々な困難があると思うが、がんばってほしい。
それにしても、様々なリスクがあるこのような県民プロデュース企画に果敢にチャレンジする民間企業の指定管理者もなかなかのものである。地域の文化を盛り上げたいという熱意を感じる。
(写真は新山口駅から市内へ行く途中で立ち寄った錦帯橋)
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登録日:2011年 04月 04日 11:20:16
アートマネジメント白熱授業!

先週のアートマネジメントの授業は、ハンス・アビングを引用しながらアーティストとは何かについてつっこんだ議論を行った(写真はアビングの本にディカプリオ年収が42億円、と書いてあったので)。学生からも活発な意見や感想が出た(白熱授業はおおげさだ)。
以下当日使用したパワーポイントのレジメを紹介する。
表紙 アートマネジメントⅢ
アーティストとはなぜ金持ちか?あるいはアーティストはなぜ貧乏か?
ハンス・アビングの著作「金と芸術」より
1. アーティストはなぜ貧乏か?
19世紀まではギルド(同業組合)の存在によってアーティストの数は制限されていた。
その時代、アーティストはそこそこ高い収入を得ることができた。
19世紀後半になると、芸術は神聖化されるようになった。それとともにアーティストの収入は低下していった。 それはなぜか?
2. なぜアーティストは高収入か
アートにおけるトップレベルの収入は同じ様な訓練を要するいかなる職業よりも高い。
それは、勝者がすべてを取るマーケット(例えばプロテニスプレーヤーのように勝者と2位以下では雲泥の差ということ。スポーツ選手がアーティストという意味ではない)「スーパースター」だから。
「芸術において、報酬は主に相対的な能力にかかっている。能力のわずかな違いが大きな収入の違いになる」
(勝者がすべてを取るのは)「消費者が受け入れるスターの数は限られている」 から
しかし、一方で人々はそれぞれの集団の卓越化の欲求を持っているために、変化と刷新が求められる。
人は本物を選好し、本物に金を払おうとする。
3. なぜアーティストは低収入か
1.勝者がすべてを得るという原理(多くの競争者が魅了される)
2.芸術以外には向いていない(と思い込んでいる)
3.金銭的報酬以外に向かう傾向
4.リスクをとる性向
5.自信過剰と自己欺瞞
6.誤った情報 (誰もが平等なチャンス、など)
(桧森の解説「いつかはオレもビッグになってやるぜい!」という若者は後をたたない)
4. 芸術の神話
• 本物の芸術をつくることは永遠に称賛され続ける(他の報酬がないとしてもアーティストにはたくさんの個人的満足がある)
• 芸術における才能は天賦のもの、あるいは神が与えたものである
• 芸術における才能はキャリアの終盤にのみ現れる
• 芸術における成功はもっぱら才能と献身にかかっている
• 芸術においては誰もが平等なチャンスを持っている
• このような神話により人々はアーティストになりたがる
(ここで聴講生の社会人アートマネジメント経験者より、「他の神話はともかく、誰もが平等なチャンスを持っているというのは絶対に嘘だ」という意見あり)
5. アーティストの構造
アーティストには「勝ち組」と「負け組」がある。
にもかかわらずアーティストに参入する者は減らない。また「負け組」も直ちに撤退するわけではない。
アーティストは常に供給過剰であり、アーティストとしての収入は低い。
なぜ、アーティストは需要に応じて供給が減少しないのだろうか?
6. 供給過剰の原因
前述の「芸術の神話」
アーティスト教育の拡大(大部分の卒業生がアートでは食べていけない現実を無視した教育)
内的助成(副業・アルバイト)および外的助成(家族の支えなど)の可能な環境
政府の助成(収入増よりも供給増を生み出す)
前述の「誤った情報」
7. アビングのディスカッション
1.芸術における貧困は非金銭的報酬によって埋め合わされるのだろうか、あるいは埋め合わされることはなく、この貧困は実在するのだろうか?
2.プロのアーティストと情熱的なアマチュアのアーティストを区別する線を、あなたはどこに引くか?
3.副業を持つアーティストの数は増加し続けると思うか?あるいはフルタイムのアーティストが置かれた現実に立ち戻ると思うか?
4.もし政府がアーティストの平均収入を上げるために支出するとすれば、あなたは政府にどのようなアドバイスを行うか?
8. アートマネジメントの意義
スーパースターの周辺にあるまだ満足していない消費者や新たな消費者の集団の発見
アートの新たな効用の開発
そのためのアーティストの選別(相対的な能力差)と需要に対する適正なアーティスト数の確保
助成ではなく仕事をつくる
(前述の社会人聴講生より「若い学生が今こういう内容の授業を受けるのはとても大切だ。それにしても、現場のことをあまり知らない教員はどのように教えているのか興味がある」との感想あり)
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登録日:2010年 12月 06日 00:47:21
東京アートフェア2010
昨日は東京アートフェア2010@東京国際フォーラム。
年に1回のアートのトレードフェアということで138(うち12が海外)の画廊、ギャラリーが出店してにぎわっている。
見たところ来場者の90%は業界関係者(アーティストやその卵、先生、同業者や美術館関係者など)で本当に買いそうな個人客は10%くらい、そのうち中国台湾香港の人が多い印象。あくまでも印象だが。
ただ見てもつまらないので、研究室の自分の座っている椅子の後ろの壁面に飾る絵を探す、という想定で見て回る(現在はロイ・リキテンシュタインのポスターが貼ってある)。
そうやって探すと意外とぴったりの作品はない。自分が好き、というだけではだめで、空間のバランス(部屋の色、大きさ、デザイン、雰囲気など)を考えなければならない。ただでさえ存在感のあるアートを買って飾るというのは意外と制約が多く、難しいものだ。
いいなと思った須田悦弘の作品は、本や書類が散らかり放題の雑然とした部屋の雰囲気には合わない。これは合いそうだ、と思った作品、よく見ると草間彌生430万円。ちょっと手が出ない。
ところで元職業柄気になるのはフェアのオペレーション。例えば終了後、ガードマンが二人立って阻止線を張り、パスを確認して入れている。一般客がどうしても入れてほしいと粘っているががんとしてはねつけている。パスを持っているスタッフと持っていないスタッフが梱包材を運んできても、パスを持っていないスタッフの入場は止める。これは合格。搬出のどさくさ時に高価な作品の安全を守るために絶対必要だ。
プロデューサーはこんなところがうまくいっているかさりげなくチェックし、問題があればガードマンに直接ではなく、その部門の責任者に伝えなければならない、というのが仕事の仕方である。
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登録日:2010年 04月 05日 09:59:25
アートマネージメント講座最終回
土曜日はかなっくホールのアートマネージメント講座「プロデューサーのお仕事Ⅱ」の最終回。
内容は実務研修ということで、このホールの裏方、表方のそれぞれの担当者からコンサート当日の仕事について説明を受ける。表方については実際にもぎりの動作をやってみるなど実践的な内容だ。
その道のプロから教えてもらうのはほんとうに気持ちがいい。プロがいかに細部までこだわって仕事をしているか、そしてその細部へのこだわりのひとつひとつが積み重なっていいコンサートができあがることを知ってほしかった。「神は細部にやどる」である。
一見誰にもできそうに見えることでもその徹底さがプロとアマの違いだ。プロデューサーはアマチュアができても出演者は企画によってはアマチュアでも、スタッフはプロフェッショナルでなければならい。
講座受講のみなさん、お疲れ様でした。
ところで市民のプロデューサーを育成することはこれからの公共ホールの新しい自主事業のやりかたなので、ご希望があれば一度ご相談ください。
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登録日:2010年 01月 26日 16:40:34
はじめての制作
土曜日は東神奈川駅前のかなっくホールでアートマネージメント講座「プロデューサーのお仕事Ⅱはじめての制作」の講師を務める。
今回は5回連続講座の第1回。講座の全体は以下の通り。
第1回 公演制作の全体像とプロセス管理
公演が成立する仕組みとスケジュール管理、予算管理の方法
第2回 公演制作の実務
企画、アーティスト、契約、発注・手配などの実務
第3回 公演のマーケティング
プライシング、チケット販売、広報宣伝、ファンドレイジング
第4回 公演の運営
舞台の準備、リハーサル、当日の運営(裏方、表方)
第5回 実務研修
かなっくホールでの実務研修
当たり前だが公演の制作という仕事にプロもアマもない。たとえお金をもらう仕事ではなくても、やる以上は同じ責任が求められる。その点を強調しながらの講座のスタートだったが、受講者の皆さんは熱心に聞いてくれた。これからが楽しみである。
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登録日:2009年 09月 22日 23:59:18
アートがお金に変わるとき

入学式と教員懇親会の後は有楽町の東京国際フォーラムで開催されている「アートフェア東京2009」へ。学生に「できれば見てくるように」と言った手前先生も一応見なくては。
このイベントは今年で4回目を迎える日本最大のアートフェアで今回は140以上のギャラリーが出店している。ジャンルは古美術・工芸、日本画・洋画から現代アートまで幅広く、海外からもバイヤーが集まって昨年は10億円の売り上げがあったという。
それこそ尾形乾山の絵皿や写楽の役者絵、棟方志巧の肉筆画(2800万円)、北大路魯山人の茶碗、古代シリアのビーナス像など「何でも鑑定団」の世界から、タイムボカンシリーズのキャラクターデザインで名高い天野喜孝の作品や現代アートの定番奈良美智まで、売れそうなものは何でもアリ、というのがおもしろい。何しろ鑑賞ではなく売るためのフェアなのだ。
しかしなんといっても出店の半数以上を占めるのは現代アートの作品であり、海外のバイヤーの関心もそこに集中しているようだ。現代アート作品の難しさは、「売る」という制約のために、美術館では巨大なインスタレーションやその場で「消えてなくなる」作品を展示する作家が、「持ち帰って自宅に飾れる」作品を出さなければならない点だ。
海外には、20畳はあるようなインスタレーションをそのまま買って自宅で再現しているようなお金持ちのコレクターがいるようだが、日本の住宅事情ではそうもいかない。いきおい作品は小ぶりになる。出品作には村上隆風のフィギュアや立体作品も多いが、精緻ではあっても魅力が半減していると思うのは私だけではないだろう。
だが、そんな諸事情を吹き飛ばすインパクトのある作家もいる。今回私が欲しい、と思ったのはやはりいま最も話題になっているロッカクアヤコの作品である。正規の美術教育を受けたことがなく、段ボールに手でアクリル絵の具をなすりつけて自由奔放に描く作風に、私はこれは日本のバスキアだと思った。
昨年に引き続き今年のフェアでもブースの壁に本人が直接絵を書くパフォーマンスをやっていた。ご本人はいたって小柄なかわいいお嬢さんであり、とても素朴な人柄のようだ。しかし、会場でパフォーマンスをやらせながらちゃんと売り用の作品も用意しているのは彼女の魅力を最大限に引き出すうまいやりかただ。小柄な体で絵の具だらけになりながら描く姿に誰しも引き込まれるだろう。
これを世界中でしかけているのがオランダはアムステルダムの画廊 Gallery Delaive である。彼女はそこの専属アーティストなのだ。今回の東京の出店もオランダからだ。
私は学生に芸術的価値を経済的価値に転換するのがマネージメントの仕事だと教えようとしている。だがその前に芸術的価値を判断することが大切だ。ロッカクアヤコは村上隆率いるカイカイキキが主催するGEISAIで見出されたらしいが、やはりその眼力は大したものだ。
とはいえ、彼女の作品は真の芸術ではなくデザインワークではないか、という見方もある。後世に人類の宝として残るかとなるとそれはわからない。残念ながら芸術的価値を経済的価値に転換するというのは現在の経済的価値であり将来の経済的価値ではない。そこまではマネージメントの力は及ばないのである。
http://www.rokkakuayako.com/
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登録日:2009年 04月 05日 00:05:40
芸術家とパトロン
私の考える芸術家の定義のひとつは、世の中に新たな美の概念を提起する人である。
新たな概念を提起するのであるから、最初のうちはなかなか人々に理解されない。
現代の市場社会では、理解されないということは食い扶持に困る。
だからコンビニでバイトしたりする。
しかし芸術は一方で表現のための技の修練を必要とする。
だからほんとうはバイトする暇はない。
そこで、芸術家が大成するためには、支えてくれるパトロンがいる。
それはバッハの時代から変わらない。
しかし芸術家とパトロンの関係は極めて個人的なものであり、お互いに愛憎半ばするものである。パトロンにとって芸術家は往々にしてアクセサリーであり、恣意的なみせびらかしの道具である。芸術家にとってパトロンは必要悪であり、「今にみていろ」と思う対象である。その極めて人間臭い葛藤の中から、優れた作品が生まれた(後世評価される作品が芸術家のパトロンに対する反発やあてつけ、揶揄だったりする場合がある)。
王侯貴族や個人の大金持ちがいなくなって、現代のパトロンは政府や企業だと言われている。しかし政府は納税者の意向に縛られ、企業は株主や従業員の意向に縛られ、好き勝手にパトロン風を吹かせることはできない。従って個人対個人の人間臭い葛藤も生まれない。政府や企業は本当のパトロンにはなれないのである。
さて、現代日本の個人パトロンと言えば、ジャズドクターと呼ばれる内田修氏である。内田氏は医師として1950年代に愛知県岡崎市で病院を開業しながら、日本のジャズの黎明期から多くのジャズミュージシャンを支援してきた。若く無名のころの渡辺貞夫、穐吉敏子、日野皓正、山下洋輔等が物心両面で世話になった。病気になればただで入院させた。
しかし一番の支援は彼らの音楽活動を広げることだった。渡米の費用を貸し、レコーディングをアレンジし、マスコミや評論家を紹介し、コンサートを主催して演奏の機会を提供した。
そして自らの眼力で若い演奏家を発掘し、世に出した。大西順子、ケイコ・リー、寺井尚子、綾戸千絵など、内田氏に見いだされ、はじめてレコーディングやジャズフェスティバル出演の機会を得てビッグになっていたミュージシャンは多い。
内田氏にジャズミュージシャンとの付き合い方を聞いたことがあるが、彼の答は「演奏をけなさないこと」 だから誰よりも見識があるにもかかわらず評論活動は一切していない。本人が名乗る肩書きは「ジャズ愛好家」である。そんな内田氏の人柄が、多くのミュージシャンに慕われている。もちろん好き嫌いは激しいのでミュージシャンによって距離感は異なる。だから毀誉褒貶もある。しかし内田氏が長年にわたり日本のジャズ音楽そのもののパトロンなのはまぎれもない事実だ。個人的な葛藤も含めて理想的なパトロンと言えるだろう。
内田氏は平成5年に病院をたたむとともに、ジャズに関する膨大なコレクションを岡崎市に寄贈した。その中には、内田氏が病院の中に設けたスタジオで録音されたオープンリールのテープ800本も含まれる。ここにしかない貴重な演奏の記録である。
コレクションは今では岡崎市図書館交流プラザの中に内田修ジャズコレクションとして公開されている。写真はその中に再現された病院内のスタジオである。ピアノは穐吉敏子の希望で購入したヤマハ特注のグランドピアノ。ドラムセットは今は亡き日野元彦が入院したとき持ち込んだもの。そのほか家具やオーディオセットも内田氏が寄贈した、当時のものである。今でもマランツの真空管アンプの音を聞くことができる。隣の録音ブースには1960年代の放送局にしかなかったミキシングコンソールが残されている。
このスタジオで数々の伝説の演奏が生まれた。オスカー・ピーターソンもビル・エバンスもここで演奏した。中でも内田氏が生涯の親交を結んだセロニアス・モンクと、たまたま居合わせた日本人ミュージシャンとのセッションはジャズの歴史に残る貴重な出会いである。
内外のジャズ研究者にとって、訪れる価値のある施設であろう。
http://www.libra.okazaki.aichi.jp/15000.htm
http://www.uchida-jazz.jp/
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登録日:2009年 01月 13日 11:33:46
- プロフィール
- Ryuichi Himori
- (男)
- 詳細プロフィールはこちら
- 団塊世代の会社員から、定年を1年半後にひかえ、大学教授に転職しました。肩書きは日本文化政策学会理事、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事、(社)指定管理者協会理事長などいろいろ。公共経営・行政経営(NPM)、文化政策、アートマネージメント、NPO論などを研究しています。
というような立場を離れて、勝手なことを書かせていただきます。
(なお、mixi Twitter facebookもやってます。)
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