ミャンマーと暴力
ミャンマー反軍政デモで死亡の長井さん、 紛争地帯の取材に情熱
【9月28日 AFP】(9月30日写真追加)大規模な反軍事政権デモが続くミャンマーで27日に銃撃され死亡した日本人ジャーナリスト、長井健司(Kenji Nagai)さん(50)は、これまでにもイラクやアフガニスタンなど、世界各地の紛争地帯で取材に情熱を傾けてきた。
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(c)AFP
早大探検部出身の高野秀行さんによる『ミャンマーの柳生一族』を読んだ。同じく探検部出身の船戸与一御大との爆笑紀行。おもしろい上にとんでもなく勉強になるところがすごい。スー・チーさんの国内での立場なども含めて、ミャンマー情報を知りたい人には最適だと思う。高野氏曰く。「私はミャンマーに二年に一回くらいの割合で行っているが、最後に合法入国したのは1994年、それ以降はすべて非合法である」。こういう人の書く本がつまらないわけがない。しかし、それを可能にしているのはミャンマーがいまなお「江戸時代」だからなのであった。だから「柳生一族」が登場するのである。江戸時代でなければ不法入国は難しい。
この本のなかでとくにおもしろかったのは「政治的には鎖国しているミャンマーの国民は社交的で、外国人とも余裕綽々と会話する能力を持っている」という箇所。しかも、彼らは無償の親切を笑顔で提供してくれるそうである。『逝きし世の面影』の「善意の代価を受けとらぬのは、当時の庶民の倫理だった」と同じである。しかも、外国人に対して臆するところがないというところもよく似ている。やはり、ミャンマーは江戸時代なのであった。さらに「読書大国」で「一人当たりの年間読書量は世界一の可能性すらある」というところも江戸時代である。
自分も米墨国境を舞台に「こういう遊び心のある文章が書きたい!」と思ってしまった。私にもっと才能と金と時間と勇気と愛と下心があれば・・・(かなりのものが欠如してるなあ)。しかし、アメリカとメキシコは江戸時代を生きてはいないから不法入国は難しい。米墨国境を南から北に強行突破して(北から南はあっけないくらい素通り)「黒人」のボーダーパトロールにすごい顔でつかまった私が言うのだから間違いない(その後、恥ずかしながら菊の御紋のパスポートをそそくさと提示)。近代国家で「不法入国」は至難の業なのである。
その江戸時代のミャンマー。棒をもった兵隊が民衆を追い立てるテレビの映像を見ながら「国家は暴力装置である(最近の知識人のクリシェ)とはこういうことか」と変に納得してしまった。官憲による痛みをもって「国家の暴力」を知るわけであるなあ。もはや身をもって国家の暴力を知る機会など日本では滅多にない。国内では、相撲部屋や私立高校が暴力装置で、メディアは横綱や首相をいじめることもできる最大の暴力装置。言うまでもなく、これらの陰湿な「暴力」(「かわいがり」や「いじめ」という名の暴力)がミャンマーの「暴力」よりもお上品であるとはけっして言えない。相撲部屋や学校はミニ国家で、そこはある意味、ミャンマーよりも無秩序な暴力が横行している。国家の暴力がいかに横暴であると言っても、親方やいじめっ子の気ままな独裁ぶりにはかなうまい。そして、メディアは「お金」にしか興味がないので、お金が動きそうなところへしか取材に行かず、お金で解決する(儲かる)ならば不祥事もあえて表沙汰にしない。さらには、農閑期のように金になる話題がない季節には、自ら話題を作りだして売り上げを伸ばす。
問題は私たち国民の関心次第であることがわかる。もっとも重要なのは、権力と国家を監視すること。だが「国家の基盤となっているのは、暴力を背景にして他者を服従させながら富を徴収するという運動」(萱野稔人『国家とは何か』)であるからには、国家とはいわゆる国民国家のことではない。「暴力装置」を駆動させる「運動」それ自体を指す。私たちは執拗に、国家暴力の出先機関も監視しなければならない。話がどんどん大きくなってしまったが、ミャンマーの剥き出しの暴力を目の当たりにして「軍事政権をどうにかしろ」レベルの感想しか持たないのでは、亡くなった長井健司さんも浮かばれないだろう。いつでも言えるのは、絶対的に優れている国家体制など存在しないのだから、私たちはつねに暴力を監視する必要がある、ということだ。
私の周りにいる若者の外国への関心が薄れていくのを日々感じるなかで、高度な教養と驚異的な行動力をバランスよく兼ね備えていた長井さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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登録日:2007年 10月 02日 00:34:11
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