アルパカのセーターは反米のシンボルか?

モラレス新大統領、伝統衣装を着て就任に臨む - ボリビア

【ティワナク/ボリビア 21日 AFP】ボリビア(Bolivia)の大統領に選出されたエボ・モラレス(Evo Morales)氏は、初の先住民出身。大統領として正式就任する前日の21日、ティワナク(Tiwanaku)の古代遺跡にあるカラササーヤ(Kalasasaya)寺院で行われる儀式では、伝統衣装を身にまとう予定である。ティワナクは、ラ・パス(La Paz)から70キロメートル離れたところ。写真は20日、カラササーヤ寺院の前に集まる先住民。(c)AFP/MARTIN BERNETTI

AFPBB News


<ボリビアに初めての先住民大統領>
1月22日、インカ文明のティワナク遺跡で、ボリビア新大統領の就任を祝う先住民族の儀式が行われました。新大統領のエボ・モラレスさん(46)は、アンデス山脈のティティカカ湖周辺でコカを栽培するアイマラ族の出身で、昨年12月18日の大統領選挙で勝利した時には、「ボリビア初の先住民大統領」と、大きな話題になりました。とりわけメディアの目を引いたのは、新大統領が先住民族のアイデンティティを誇示するかのように、いつも着ているアルパカ・セーターです。1月9日、北京で胡錦濤・中国国家主席と会談した時も、スーツの下はこのセーターでした。これが先住民の民族意識を高揚させたのか、いまボリビアでは「エボ・ファッション」が大はやりだそうです。

<「ブッシュはテロリスト」>
ティティカカ湖やアルパカは知っていても、アイマラ族は知らない、という人が多いと思います。ぼくも、正直いって、南米の内陸国にあまり関心がなかった。ボリビアの新しい大統領に初めて先住民が選ばれた、その人はいつもアルパカのセーターを着ている、ぐらいの認識でしたが、もっと奥の深い話だったんです。モラレスさんは社会主義者です。反・新自由主義、反グローバリズムを掲げて、54パーセントの票を獲得した「社会主義運動」の指導者です。選挙後、アラビア語テレビ「アルジャジーラ」のインタビューで「ブッシュはテロリストだ」と激しく米国を非難しています。とはいえ、反米左翼政権がボリビアだけの話なら、モードの次元で済ませられたでしょう。ところが、モラレス政権は「米国の悪夢だ」というのです。ベネズエラのチャベス大統領はイランやキューバと肩を組み、反米を叫んでいる。ブラジル、ウルグアイ、チリ、アルゼンチンも米国の新自由主義とグローバリズムに背を向けている。アルパカ・セーターは南米全域を浸す反米潮流の表出なんだ、と気づきました。

<「チャベスを暗殺せよ」>
昨年8月22日、米国のプロテスタント保守派の指導者、パット・ロバートソン師が、宗教テレビ番組で「私たちはチャベスを取り除く能力をもっている。いまこそ、その能力を使う時である」と言って、問題になりました。ラムズフェルド国防長官は「ロバートソン発言は米国政府と無関係である」と大慌てで否定しました。ロバートソン師自身も、後からこの発言を取り消し、謝罪しましたが、もしかしたら、これは米国民の多くがひそかに抱いている反チャベス感情かもしれません。裏を返せば、ベネズエラのチャベス大統領が、いかにキョーレツな反米主義者であるかが、よくわかります。「ラテン・アメリカは米国の裏庭だ」とは、よくいわれた言葉ですが、いまや南米は反米の大陸に変りつつある、かのように見えるのです。

<ウルグアイよ、お前もか>
むかし、「戒厳令」という映画(仏伊合作、1973年)を見たことがあります。1970年にウルグアイで実際に起きた米国人誘拐射殺事件を、コスタ=ガヴラス監督が映画にしたものです。映画は、南米某国の開発援助事業に派遣された米民間人が、都市ゲリラに誘拐されるところから始まります。イブ・モンタン扮するこのアメリカ人は、実は共産主義勢力の弾圧作戦を指導するために送り込まれたCIA工作員であることが暴かれ、「処刑」されます。この映画で初めて、米国の南米工作の暗部を見る思いがしました。コスタ=ガヴラス監督を信じるなら、ウルグアイは米国の南米工作拠点だったのかもしれません。かつてこの国は、米国がもっとも信頼する同盟国で、1852年の独立以来、コロラド党と国民党の親米政党が交代で政権を担当してきました。ところが、2004年10月の大統領選挙で初めて、第3党「拡大戦線」のタバレ・バスケス党首が当選し、米国の新自由主義に反対する左翼政権ができたのです。「拡大戦線」は、共産主義者、社会主義者、労働者、そして都市ゲリラ「ツパマロス」 の結合体といいますから、「戒厳令」で見た覆面テロリストの仲間もいるかもしれません。アメリカも穏やかではないだろうな、と思うわけです。

<そして、チリにも左翼政権>
南米の左傾化は、これに留まりません。1月15日行われたチリ大統領選で、やっぱり「初めて」付きの女性大統領が誕生しました。中道左派連合のミッチェル・バチェレさん(44)です。この人の父は空軍の将軍で、ピノチェト将軍のクーデター(1973年)で殺されたアジェンデ大統領の顧問でしたが、ピノチェト軍事政権になってから投獄され、拷問の末に獄死しました。バチェレさんも母ともども捕われて、「身の毛もよだつ拷問を受けた」そうです。ピノチェト・クーデターの背後で、米CIAが動いていたという人もいます。バチェレさんは米国の「人権」外交の実体を肌身で知っている人ですから、米国政府に対してどのような姿勢で臨むか、予想できそうな気がします。恐らく南米は、新自由主義とグローバリズムに対抗する新社会主義圏になっていくでしょう。それをとやかく言うつもりはありません。ただ、反米の流れに棹さそうと、身を乗り出している中国の後ろ姿が、気になるのです。

コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2006年 01月 24日 16:04:42

コメント

中国が反米の流れに掉さしてなぜ悪いのでしょうか。もっともっと流れに掉さし、多極的な世界をつくるべきではないですか。米国という帝国の時代は終わりつつあります。朝鮮で、ベトナムで、アフガンで、イラクで、ニカラグアで、パナマで…米国によって多くの人が死にました。こういう時代が一刻も早く終わるよう、わたしは願っています。

鳥居雄一 @ 2006年 12月 12日 12:21:30

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プロフィール
伊藤 延司
(男)
長野県生まれ。京都大学卒。
毎日新聞社ジュネーブ支局長、パリ支局長、学芸部長、出版局次長、英文毎日局長などを歴任。
主な訳書: 『アメリカの鏡・日本』(角川書店)、『壁の向こう側』(毎日新聞社)、『ブッシュ・ベイビーズ』(マーガレット・プライスとの共訳、毎日新聞社)、『犬たちをめぐる小さな物語』(日本放送出版協会)、『ダーティー・ハンズ』(都市出版)など。
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