世界最悪レベルの人道危機
【ナイロビ/ケニア AFP】スーダンのアリ・オスマン・タハ副大統領(Ali Osman Taha)と同国最大の反政府組織の指導者、ジョン・ガラン(John Garan)は、ナイロビ(Nairobi)で1月8日、長く待たれた和平協定に調印した。両者は協定を尊重し、ダルフール(Darfur)地域の危険について一層認識を高めることが求められている。写真は調印後に握手を交わすタハ副大統領(写真左)とガラン氏。(c)AFP/SIMON MAINA
<手賀沼湖畔で聞いたこと>
「ダルフールでは140万人の子どもが死に瀕しています」。1月23日の朝。ポケット・ラジオのイヤホーンを耳にあて、いつものように手賀沼湖畔の道を歩いていたら、チラっとそんなニュースが耳をかすめて去りました。ホリエモンのこととか、中国に無人ヘリを不正輸出していたヤマハ発動機のこととかに気を取られていたので、うっかり聞き逃すところでした。自分の町のことをハナにかけるみたいで気が退けますが、手賀沼湖畔はイギリス人陶芸家のバーナード・リーチや、志賀直哉、武者小路実篤、といった白樺派の文人たちが好んで住んだところです。湖畔の遊歩道は風雅な桜並木で、暗いニュースなどを聞きながら歩く道ではないんです。ぼくはほんの20秒ほどのニュースに、たまらなくユーウツになってしまいました。「孤独な散歩者の憂鬱」というヤツです。
<カラシニコフで武装した悪魔の騎兵>
ぼくが「ダルフール」のことを知ったのは、ちょうど2年前の04年1月。20年に及ぶスーダン内戦に「終止符秒読み」という新聞記事がきっかけです。紅海に面した北アフリカの国が内戦続きであることは知っていましたが、約200万人が戦乱と飢餓の犠牲になった、なんて知りませんでした。それから、スーダンのニュースに気をつけていましたが、その年の4月、スーダン南部のダルフール地方を視察した米国際発展局(USAID)のロージャー・ウィンター副長官の報告を読んで驚きました。「アラブ系民兵組織『ジャンジャウィード』の虐殺によって、共同体が再建不可能の状態に陥っている。国際支援が十分でなければ、年内(2004年)の死者は30万にのぼるだろう」というのです。「ジャンジャウィード」は「カラシニコフで武装した悪魔の騎兵」という意味だそうです。
<土地と水をめぐる争い>
ダルフールは豊かな水に恵まれた肥沃の地で、古くから黒人が農耕にいそしんできたところだそうです。13世紀にアラブ系の遊牧民が移住してきてから、土地と水をめぐる争いが始まります。遊牧民の中には、槍と剣で武装して黒人の村を襲う残虐な集団もいました。これが「ジャンジャウィード」の起りですスーダンの実権はアラブ系のバシル大統領が握っています。バシル政権のアラブ人優遇政策に不満を抱く黒人勢力が「スーダン解放運動/軍(SLM/A)を組織して、政府に反抗してきました。「内戦終止符秒読み」というのはスーダン人民解放軍のガラン司令官とタハ副大統領が停戦に合意し、握手を交したことを伝えたものですが、あれから2年、いぜんジャンジャウィードの暴虐は続いていたのです。1月13日、スーダン駐在のジャン・プロンク国連特別代表は「毎月、少なくとも500人から1000人のアラブ人民兵が馬とラクダに乗って村を襲い、何十人もの村民を殺戮している」と報告しています。
<ジャンジャウィードの正体>
ジャンジャウィードは「民兵」といいながら、その実体は警察官と政府軍兵士混成の覆面集団だといわれます。政府がひそかに支援しているフシもあります。04年7月、コリン・パウエル米国務長官(当時)は、ダルフールを視察したあと、スーダン政府にジャンジャウィードへの支援を止めるよう要請し、7月30日には、国連安保理がジャンジャウィードの取り締まり強化を求める決議を採択しています。「30日以内に事態が改善されなければ、制裁措置をとる」という強い決議で、アナン事務総長は「軍事制裁」の可能性さえ示唆しました。それでも、スーダン政府に動く気配がなく、8月14日、国連現地調査団は「殺戮は人道に対する罪に当る」と厳しくスーダン政府を非難しました。
<何もできない国連安保理>
「03年以来、何千人もの村民がジャンジャウィードという民兵組織に殺害され、略奪に遭い、レイプされ、約160万人の住民が国内難民となっている現在のダルフールの状況を、国連は世界最悪レベルの人道危機とし、警告を発しています」(ユニセフ報告)。問題は「国内難民に警察や武装兵士が圧力をかけ強制移動させている」(同報告)ことだそうです。アナン事務総長は、この強制移動を「国際法に抵触する行為」として、スーダン政府に停止を呼びかけました。安保理は04年9月18日、制裁警告決議を採択しましたが、中国、ロシアなど4か国が棄権しました。中国は「これより強い決議には反対である」と拒否権行使をほのめかしています。スーダンが産出する日量25万バレルの原油の3分の1を輸入している中国は、経済制裁で石油輸出が止るのは困るのです。安保理常任理事国の中に、人権より石油を大事にする国がいるかぎり,ダルフールの虐殺は続くでしょう。ぼくはゴマメの歯ぎしりをしています。
コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2006年 02月 01日 19:51:13
コメント
大変興味深い内容が多く、ファンになりました!
これからもなるほど~と思わせる記事、お願いします!
ファンになりました。 @ 2006年 02月 07日 22:17:22
旧約聖書の記述では、イスラエル人>アラブ人>黒人 といたヒエラルキーがあります。アラブ系のバシル大統領は、この不等式に忠実に従っているのでしょうね。忠実すぎて、気分が悪いです。
森下礼 @ 2006年 11月 19日 19:18:38
旧約聖書の記述では、イスラエル人>アラブ人>黒人 といたヒエラルキーがあります。アラブ系のバシル大統領は、この不等式に忠実に従っているのでしょうね。忠実すぎて、気分が悪いです。
森下礼 @ 2006年 11月 19日 19:19:20
「03年以来、何千人もの村民がジャンジャウィードという民兵組織に殺害され、略奪に遭い、レイプされ、約160万人の住民が国内難民となっている現在のダルフール
SATC DVD box @ 2012年 05月 03日 11:16:13
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- プロフィール
- 伊藤 延司
- (男)
- 長野県生まれ。京都大学卒。
毎日新聞社ジュネーブ支局長、パリ支局長、学芸部長、出版局次長、英文毎日局長などを歴任。
主な訳書: 『アメリカの鏡・日本』(角川書店)、『壁の向こう側』(毎日新聞社)、『ブッシュ・ベイビーズ』(マーガレット・プライスとの共訳、毎日新聞社)、『犬たちをめぐる小さな物語』(日本放送出版協会)、『ダーティー・ハンズ』(都市出版)など。
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