「タイガーフォース」を追いつめた米軍のコロンボ
イラク人少女レイプ事件で、米兵に禁固100年の判決 - 米国
【フォートキャンベル/米国 23日 AFP】イラクで2006年3月、駐留米軍兵士がイラク人の少女をレイプし、その家族を殺害した事件で、ケンタッキー(Kentucky)州フォートキャンベル(Fort Campbell)で開かれていた軍法会議は22日、主犯格とされるポール・コルテス(Paul Cortez)軍曹(24)に、禁固100年の有罪判決を下した。
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(c)AFP
【軍法会議とは】
イラクで、14歳の少女をレイプし、少女の家族4人を皆殺しにした米軍兵士に、米軍法会議が禁固100年の刑を言い渡しました(2月22日)。殺人罪で有罪判決を受けたのは、ポール・コルテスという24歳の海兵隊軍曹です。昨年3月、バグダッド南部のマハムディヤという町で起きたイラク駐留米軍の不祥事ですが、戦争が大義を失って長引くと、こういう戦争犯罪が起きます。
一昨年11月、イラク西部のハディサで、米海兵隊員が、老人、女性、子どもを含むイラク人24人を殺害した「ハディサ虐殺」事件は、その典型です。この事件では、フランク・ウテリック軍曹(当時26歳)ら8人が、昨年12月21日、殺人、虚偽報告などの罪で軍法会議に起訴されています。
ところで、軍法会議って、何でしょうか?
昔、日本の軍隊にも軍法会議がありましたが、今の日本には、自衛隊員など軍人の犯罪を裁く特別法廷はありません。ですから、ぼくみたいな古い世代の人間は、軍法会議と聞くと、脱走兵とか、上官の命令に従わなかった兵隊とか、指揮の誤りで部隊を敗北させた司令官を断罪する武断的制度を、ついイメージしてしまいます。
しかし、米軍の軍法会議は、映画『英雄の条件 Rules of Engagement』(ウィリアム・フリードキン監督、トミー・リー・ジョーズ、サミュエル・L・ジャクソン)のテーマになったような、非戦闘員の殺害や捕虜虐待などの戦争犯罪(war crimes)を裁く軍の法廷です。ジュネーブ条約や米軍のRules of Engagement(交戦規定)などの戦争法規に違反した自らの兵士の戦争犯罪行為を裁くのですから、こちらは、旧日本帝国軍隊の軍法会議とは違って、公正な自浄システムがイメージされます。
【ミライ虐殺事件】
米軍兵士の戦争犯罪事件で「ハディサ」以上に悪名高いのは、ベトナム戦争中の「ミライ虐殺事件」でしょう。
1968年3月18日、南ベトナム・クアンガイ省ソンミ村のミライという集落で、ウィリアム・カリー中尉率いる小隊が504人の住民を殺害した事件です。この戦争犯罪では、カリー中尉はじめ14人の兵士が、殺人罪などで軍法会議に起訴されましたが、カリー中尉1人が終身刑を言い渡されただけで、あとの13人は証拠不十分で無罪とされました。しかも、カリー中尉はその後、懲役10年に減刑されています。
米国の軍法会議は、いかにも民主主義文明国家の軍隊らしい公正な制度です。しかし、この軍法制度を公正に維持するには、厳正な捜査機関が必要です。
ミライ事件は、決して厳正な捜査によって摘発されたわけではありません。軍捜査当局は、部隊内部からの告発を受けながら、むしろ事実を隠ぺいしようとしたのでした。隠された戦争犯罪を明るみに出したのは、雑誌「ニューヨーカー」のセイモア・ハーシュという記者です。
ミライ事件は、米軍の歴史の中で最大の戦争犯罪と言われているものですが、それでも軍捜査機関が摘発したのではなかったのです。
【米軍の司法制度】
軍法会議は、民間の裁判制度から独立した米軍の司法制度ですから、この下部機構には、当然、独立した警察機関、検察機関があるわけです。軍法の基盤となっているのは「統一軍事司法法典 Uniform Code of Military Justice」と呼ばれているものです。
そして、民間の警察に相当する組織を「軍犯罪捜査司令部Criminal Investigation Command」といって、ここが軍人の一般犯罪から戦争犯罪までを捜査しています。
この機関はミライ事件以前はCriminal Investigation Division (犯罪捜査師団)、略してCIDといっていましたが、1971年にDivisionからCommandに昇格しました。ですから、本当なら、CICというべきなのですが、なぜか昇格後も以前と変らずCIDだそうです。
CID(警察)は犯罪事実を立件できる証言と証拠を収集します。そして、検察に相当する法務官judge advocate general(JAG)が証拠能力を検証し、容疑者を有罪にできると判断すれば、軍法会議に起訴するかどうかを審理する査問委員会にかけます。
これが、米軍の訴訟手続きです。
ミライ事件も、捜査段階のCIDが正常に機能していたら、マスコミに暴かれる前に、米軍の良心を発動することができたはずです。
なぜ、そう思うかというと、最近、CIDに素晴しき捜査官がいたことを知ったからです。
【殺戮のプラトーン「タイガーフォース」】
「ミライ事件」といえば、だれでも戦後最大の戦争犯罪事件だと思います。
ところが、この事件の前に、もっと残虐で組織的な殺戮をほしいままにしていた部隊がいました。1967年4月から11月にかけ、南ベトナムのクアンガイ省ソンヴェ渓谷で、索敵行動に当たっていた偵察小隊「タイガーフォース」です。
タイガーフォースは、南ベトナム駐留米軍の第101空挺部隊に所属した45人編成のプラトーンですが、当時は陸軍の公式記録に名前のない幻の部隊でした。この小隊が、約7か月にわたって、非武装の村を焼き払い、数百人の住民を殺戮したというのです。
しかし、この事実が世に知られたのは、40年近く後の2003年になってからです。
米オハイオ州の地方紙「トレド・ブレード」が、幻の小隊の知られざる残虐行為を、執拗に追跡したCID捜査官の膨大な調書を見つけ出し、初めてその存在と暴虐の全貌を明るみに出したのでした。
事件から35年も経った2002年に、CIDの捜査資料を発掘し、綿密な裏付け取材で「タイガーフォース」の「隠ぺいされた秘密」を暴いた同紙の記者たちには、頭が下がります。取材結果を同紙に連載したマイケル・サラとミッチ・ウェイスの二人の記者は、2004年度のピューリッツァー賞を受賞しています。
しかし、それ以上に、ぼくが感動したのは、戦争犯罪を憎み、残虐行為を生んだ軍組織の責任を勇敢に追及した一捜査官の倫理観です。
【さながらコロンボのように】
ミライ事件は、戦闘の欲求不満を無辜の住民にぶつけた一小隊の、一日の狂気でした。
しかし、「タイガーフォース」事件は、大隊司令部の無謀な作戦の犠牲になった兵士たちが、殺すことだけを生き甲斐に、7か月もの間、組織的殺戮を繰り返していたのですから、戦争犯罪の構造的規模は、比べものにならないほど根深く、大きなものでした。
この巨大な犯罪に立ち向かったのは、グスタフ・アプシーというオーストリア系の下士官級捜査官でした。彼は、捜査方法も風貌も、そして服装も、コロンボ警部そっくりで、「CIDのコロンボ」といわれていたそうです。
彼は、この事件を兵士たちの個人的残虐行為ではなく、第101空挺部隊の非倫理的作戦が作り出したフランケンシュタインという怪物の仕業であるととらえました。つまり、ミライ事件のような「隔絶された残虐行為」(ニクソン)ではなく、組織的犯罪とみたわけです。
しかし、彼の緻密で完璧な捜査にもかかわらず、事件は査問委員会にかけられないまま、終結してしまいます。そして、CIDのコロンボは、いわれもなく韓国駐在のCIDに異動させられました。
【ベトナム後遺症のタイガーたち】
おりから、ベトナム戦争は米軍の敗北で終わり、ニクソンはウォーターゲート事件で失脚しました。ニクソンの後を継いだフォード新大統領は、ベトナムで分裂したアメリカ国民に和解を求めました。
いまさら、ベトナムでもあるまい。そんな空気が、米国全体をおおっていたのです。
しかし、アプシーの膨大な捜査資料を惜しむ上司がいました。
CID司令官のヘンリー・タフツ大佐です。彼はCIDに保存すべきファイルを、こっそり自宅の地下室に隠しました。いつか、これが日の目を見る時がくると信じたのです。
タフツとアプシーが、秘かに期待していたように、膨大な捜査資料は、30数年の歳月を経て、トレド・ブレード紙によって発掘されました。
しかし、最後まで救われなかったのは、無辜のベトナム人を殺したタイガーたちでした。彼らの多くは、死ぬまで「心的外傷後ストレス障害」に苦しむことになります。
ところで、ぼくがタイガーフォースについて、いささかの知識を持っているのには、わけがあります。たまたま、WAVE出版の依頼で、マイケル・サラとミッチ・ウェイスの両記者が共著で出版した『TIGER FORCE』を翻訳しているからです。イラクで少女をレイプし、家族を殺害したポール・コルテス軍曹に、米軍法会議が100年の刑を言い渡したというニュースを聞きながら、翻訳は終わりに近づいています。
カテゴリー[ 戦争・紛争 ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2007年 03月 01日 02:53:35
コメント
タイガーフォース読ましていただいてます。
誤訳とは言いませんが通常使われる訳とは違う点がかなり気になりました。
一般向けの作品についても師団Divisionと連隊Regimentくらいの区別は付けた方が分かりやすいのではないでしょうか?
第101空挺部隊の第327部隊なんて表現は今まで聞いたことありませんので。
また、Lieutenantを全て中尉で、Sergeantは軍曹で訳されてしまうと部隊内での上下関係が全くわかりません。これは原書で細かい記載がないせいなのでしょうか?
ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」がなぜ「ペッパー警部」になるのでしょうか?これは誤訳にもならないし、ギャグのつもりでしょうか?
厳しい事を書いてしまいましたが、素晴らしい本なのに細かい点が気になって内容に専念できない時があり少し残念でした。
一読者より @ 2007年 10月 01日 00:41:20
第1大隊第327歩兵部隊という表現も見受けられますが、普通は第327連隊第1大隊と訳されます。
一読者より @ 2007年 10月 01日 01:05:36
前述の読者さんのコメント、正しいです。翻訳がいいかげんだと読む気がうせます。。。生業としての翻訳なのでちゃんとして欲しいです。特に日本人の翻訳は、自分になじみのない世界、専門分野の用語に対しての記述がいい加減で、下調べが足りません。
これからの読者 @ 2007年 10月 10日 20:21:44
あまりの翻訳の。。。に、検索してみたら、ここにたどり着きました。他の方も同意見みたいで。私はこの「タイガーフォース」の件が新聞に掲載されてから、ずっと訳書が出ないかな~と思ってたので、本屋さんで見つけ、喜び勇み、即効で購入したのですが。。。そもそも、かなりな直訳で文章自体が読みづらいです。句読点の打ち方も変だし、「。」もやたら多いし、文体が途中で変わったり、正直想像以上に。。。です。そして、他の人も問題にしている和訳。やはり、誤訳がかなり多いです。それに、若い兵士の発言がじじくさい口語「お前は黙っとれ」だったり。私も今まで数多くの翻訳本を読んできましたが、ワーストの部類かも知れません。。。原版の本はジャーナリズムの類まれなる傑作だと思いますので、生井英考氏の書籍などを読んで基礎知識を得た上で、二刷目を改訂版で出していただきたいほどです。読了するのがかなり苦痛でした。
感想です。 @ 2007年 10月 10日 23:47:02
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- プロフィール
- 伊藤 延司
- (男)
- 長野県生まれ。京都大学卒。
毎日新聞社ジュネーブ支局長、パリ支局長、学芸部長、出版局次長、英文毎日局長などを歴任。
主な訳書: 『アメリカの鏡・日本』(角川書店)、『壁の向こう側』(毎日新聞社)、『ブッシュ・ベイビーズ』(マーガレット・プライスとの共訳、毎日新聞社)、『犬たちをめぐる小さな物語』(日本放送出版協会)、『ダーティー・ハンズ』(都市出版)など。
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