また鬼が来る! 兵士たちの終わらない戦争

イラク・アフガニスタン帰還兵の4分の1に精神的障害 - 米国

【シカゴ/米国 13日 AFP】アフガニスタンやイラクから帰還した退役軍人のうち、4分の1が精神的障害と診断されたことが、最近の研究報告で明らかになった。
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(c)AFP/THE WHITE HOUSE/ERIC DRAPER

AFPBB News


【兵士たちの心の病】
イラクとアフガニスタンから帰還した米軍兵士の4人に1人が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの心の病を患っているそうです。カリフォルニア大学医学部のカレン・シール博士たちが、2001年9月から05年9月の間に退役軍人省の医療機関を訪れた帰還兵10万3788人のデータを分析したところ、2万5658人が精神になんらかの障害をもっていることが確認され、このうち1万3205人がPTSDだったというのです。
またニューヨーク・タイムズ紙が情報公開請求で入手した米軍の内部文書によると、イラクとアフガニスタンに駐留する米軍兵士の殺人、強姦、強盗などの犯罪は、3分の1以上が飲酒と薬物使用が原因だそうです。戦場の兵士たちは酒と薬物に逃避しなければならないほど、強いストレスに苛まれているといいます。

太平洋戦争末期、日本兵の残虐行為の責任を一身に背負って、死刑台に上った山下奉文将軍が、遺書の中で「兵はまさしく凶器であり、大きな罪悪でありました」と言っているように、兵の仕事は殺人です。彼らは優れた凶器になるべく鍛えられているのですが、半面、いつも死の恐怖におびえています。そして、その恐怖が、兵を殺戮にかり立てていきます。
ベトナム戦争中、南ベトナムの農村で暴虐の限りを尽くした「タイガーフォース」(米陸軍偵察小隊)は、そういう兵の典型でした。

【過去から逃れられない】
「タイガーフォース」のことは、前にもこのブログで書きました。非戦闘員や農民を何百人(正確な数は不明)も殺した部隊です。彼らは戦争犯罪で裁かれるべきでしたが、時の政権(ジョンソン大統領とシュレシンジャー国防長官)によって、事件は闇に葬られてしまいました。
しかし、国家の手で葬り去られたタイガーフォースの残虐行為は、PTSDとなって個々の兵士に取り憑いたのでした。
「自分のやったことを思い返して口ずさむ。なんで、あんなことをやったんだろう。あの時は正しいと思った。しかし、今は間違ったことをしたと思っている。殺戮がやってくる。悪夢がやってくる。逃げることができない。過去から逃げられない」(Michael Sallah & Mitch Weiss: Tiger Force)
ベトナム人捕虜の虐殺に加わったアーネスト・モーランドという元軍曹の告白です。
タイガーフォースが殺したのは、ほとんどが非武装の農民、女子供でした。
「彼らの心は戦場での行動を、その都度、スナップ写真に納めていた。射殺した者や頭の皮を剥いだ者の映像は、コンピュータ・プログラムのように脳内に蓄積され、忘れたころに戻ってくる。そして、兵士たちは、たとえば一家団欒のさなか、血塗れのスナップ写真を、目の前に突きつけられるのだ」(同)

【殺戮正当化と罪悪感のはざま】
45人編成のタイガーフォースには、隊長の命令に背いても、非戦闘員の射殺を止めさせようとした兵士もいました。しかし、そういう兵士も、PTSDの災厄は免れなかった。
「眞夜中になると、鬼が現れ、忘れようとしていることを、思い出させるのです」(ウィリアム・カーペンター軍曹)
タイガーフォースの元隊員たちは、殺戮に狂奔した者も、殺戮を止めようとした者も、等しくPTSDに苦しんだようです。陸軍捜査官の調べに対して、ほとんどみんなが、悪夢に悩まされていると供述しています。
モーランド元軍曹は、捜査から20年以上も経った1999年にピストルを口にくわえて自殺を図っています。
悲惨なのは、サム・イバラーという兵卒の場合です。彼はベトナム人の死体から耳を切り取って首飾りにしたり、頭の皮を剥いでライフルの銃身に巻いたり、死者の顎から金歯を蹴り出して蓄えるなど、タイガーフォースの中でも最も凶悪な戦争犯罪人でした。友人がベトナム人狙撃兵に頭を射たれて殺されたことをきっかけに、復讐心から殺戮に狂奔します。最後には、赤ん坊の首を斬り落とすところまで狂ってしまいました。
ベトナムから帰った後は、悪夢から逃れるために、酒に溺れ、マリファナを失神するまで吸い、36歳の若さで肝硬変で死にました。それまでの彼は、絶えず殺戮の正当化と罪悪感の間を行き来していたそうです。

【終わらない戦争】
アフガニスタンとイラクの帰還兵が患っているPTSDが、どのようなものか、ぼくには分かりません。しかし、タイガーフォースの元隊員たちが苦しみ続けたPTSDは、2004年にピュリッツァー賞を受賞したマイケル・サラ、ミッチ・ウェイス両記者の共著「タイガーフォース」のおかげで、よく分かりました。
「戦争熱心な司令官たちに追い立てられて」多くのタイガーが凶暴になっていきました。彼らは正義に背を向け、非戦闘員、農民、老人、女子供にまで発砲しました。
「タイガーフォースの兵士の多くは、心的外傷後ストレス障害と診断されている。過去幻想と悪夢の症候群である。残虐行為をやった者、もしくは、それを止められなかった者に、症状が重い。後遺症に加えて、しばしば、より深い恐怖心と孤独感の伴う強い罪悪感に襲われる」(Michael Sallah & Mitch Weiss: Tiger Force)
「さらに深いところにある層を、診る必要がある。しかし、それが難しい。民間人を殺戮した事実と、どうやって和解できますか? 心に倫理観の硬い核を持っている人は、とくに難しい」(シンシナティPTSD研究センター、デューリーン・ベーカー博士)
イバラーの母、サーリーン・ラモスさんが「あの子の戦争は終わっていなかったのです」と言うように、彼らの戦争は続いていました。
「四十年近い年月が流れたというのに、彼らはいまだに、心と精神を病んでいる」(同)
この事件の捜査が行われていた1970年代前半のころは、まだPTSDが学問的に特定されていませんでした。それでもタイガーフォースのほぼ全員がPTSDでした。
終わらない戦争。それが彼らのPTSDなのでしょう。

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登録日:2007年 04月 06日 05:04:36

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プロフィール
伊藤 延司
(男)
長野県生まれ。京都大学卒。
毎日新聞社ジュネーブ支局長、パリ支局長、学芸部長、出版局次長、英文毎日局長などを歴任。
主な訳書: 『アメリカの鏡・日本』(角川書店)、『壁の向こう側』(毎日新聞社)、『ブッシュ・ベイビーズ』(マーガレット・プライスとの共訳、毎日新聞社)、『犬たちをめぐる小さな物語』(日本放送出版協会)、『ダーティー・ハンズ』(都市出版)など。
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