今に始まったわけではない「米国流」の押し付け
イラク議会建物内で爆発、議員2人死亡、10人以上負傷 - イラク
【バグダッド/イラク 12日 AFP】イラク議会の建物内の食堂で12日、爆発が発生し、議員のうち2人が死亡、少なくとも10人が負傷した。
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(c)AFP/WATHIQ KHUZAIE
【民主主義の象徴に自爆テロ】
イラク連邦議会が自爆テロに襲われました(4月12日)。ブッシュ米大統領は「民主主義の象徴を爆破しようとする敵がいる」といいましたが、イラクの民主主義って、どんな民主主義なんでしょうか?
ぼくも民主主義否定のテロを憎む気持ちは人後に落ちませんが、このテロはアメリカン・ウエーを押し付けられたイスラム社会の反発である、という冷ややかな見方をする人もいます。
とくに中東やイスラムの専門家は、中東にはイスラム社会の慣習と価値観がある、そこに「アメリカン・ウエー」を押し付けるのは間違いだと、いいます。
もともとイラク戦争は、中東を民主化しようとするアメリカの思い上がりから始まったという批判です。
【米国の強さと危うさ】
最近、ある大新聞の署名入り記事に、こんなことが書いてありました。
<(アメリカの)外交が最終的にめざすのは「中東の民主化」だという。敵対国との関係づくりは、米国流の自由・平等を広めるためというのだ。高尚な目的にも聞こえるが、強引な野心を公言するところに、米国の強さと危うさを感じた。>
米国の「危うさ」とは、アメリカにとってなのか、押し付けられるほうの中東にとってなのか、どっちなんでしょうか?
だいたい、こういう米国批判が、日本人から出てくるなんて、意外です。
日本が太平洋戦争に敗れた時、ぼくたちはなんの疑いもなく「アメリカン・ウエー」を受け入れました。
この記事は、米国政府が中東のエリートを招いて英語教育をしようとしていることも批判していますが、かつて日本の若い学生たちは、フルブライト留学に憧れたでしょうが。そして、ぼくたちの先祖が何千年にわたって築き上げて来た価値観を否定したじゃないですか。
それなのに、中東に「アメリカン・ウエー」を押し付けるのは危ういと考えるのが、分からないのです。
【日本民主化は危うくなかったか?】
教育勅語を頭から否定し、アメリカ(占領軍)からいただいた日本国憲法と教育基本法を後生大事にしてきた日本人が、「アメリカン・ウエー」による中東民主化を危ういというのは、なぜですか?
イスラム文化は尊重しなければならないが、日本古来の慣習法や価値観は間違っていた。だから、米国流の自由・平等に置き換えられて当然だった、ということですか?
終戦直後、GHQで敗戦国日本の労働基本法制定作業に加わったヘレン・ミアーズというアメリカ人東洋史家(女性)が、こんなことをいっています。
<たまたま私たちの風俗習慣が好きになった人々が、進んでそれを取入れることと、征服した国民に「民主主義」の名のもとに私たちのしきたり、行き方、偏見を押しつけることは別である。>(『アメリカの鏡:日本』より)
ミアーズは50年以上も前に、GHQの内部から、米国流民主主義の押し付けを批判しているのです。
【日本文明を有罪と断定した占領政策】
ミアーズはさらに、こういっています。
<「アメリカン・ウエー」は広く普及した思想である。単なる「宣伝文句」ではなく理想である。そう信じてきた私にとって、占領国日本の現実はショックだった。日本社会を変えることが任務の現場(GHQのこと)の人間たちは、ほとんど精神分裂症状を呈していた。日本人向けに指令や命令を出すときは、一様に確信に満ちた表情で「民主主義」について語る彼らが、いったん仕事を離れ、寛いで仕事の話をするときは、びっくりするほど口ぶりが違うのだった。そんなときの話題は、昇進という具体的な目標であったり、植民地制度の善し悪しであったりした。>(同)
そして、なによりも彼女が批判したのは、日本の戦争犯罪を裁いた連合国が、日本の文明を「いきなり有罪と断定」したことでした。
【USAは「民主主義の兵器庫」か】
ミアーズは日本人を「有史以来の好戦的民族」として裁き、その上に立って日本の民主化を進めるアメリカの占領政策を疑問視していました。
彼女にいわせると、日本人は「有史以来平和な民族」なのですが、日本人自身は、大方がそうは思っていないようです。だから、中東・イスラム社会の民主化を批判しても、日本の民主化は批判しないのです。
だいたいアメリカの戦争は、いつも正義でした。第一次世界大戦は「民主主義対軍国主義」の戦争だったし、第二次世界大戦も「民主主義対ファシズム」の戦いでした。
ベトナム戦争は「民主主義対共産主義」の戦い、アフガニスタン戦争とイラク戦争は「テロとの戦い」です。
この間、アメリカはいつも「民主主義の兵器庫」を自負してきました。でも、太平洋戦争(というか大東亜戦争)は、ほんとうに「民主主義対ファシズム」の戦争だったのでしょうか? 少なくとも、ヘレン・ミアーズはそう思っていないようです。
【歴史の鑑に照らして】
せんだって、国際ニュースの翻訳の仕事を一緒にしている若い女性から、the Japanese Constitution imposed by the USAをどう訳すべきかと聞かれ、一瞬、立ち往生してしまいました。
彼女は「アメリカに押し付けられた日本国憲法」と訳してはいけないか、というのです。彼女のいうように「押し付けられた」と訳したら、「護憲と平和」の人たちから糺弾されると思ったので、「米国が草案を作った」と訳すことを勧めたのですが、内心ジクジたるものがありました。
つい最近まで、憲法改正を口にしたら、まるで極右の軍国主義者みたいにいわれた。改憲を口にした閣僚の首が飛んだこともあります。
ぼくはそういう風潮に批判的だったはずなのに、「押し付け」といえない自分の臆病さが意外でした。「平和憲法」と「戦後民主主義」を批判してはならないという「禁忌の思想」が、ぼくの内面にもへばり付いていたのです。
そういうお国柄の日本で、アメリカの中東民主化を「危うい」というのは、いかにもチグハグです。今、もし、「米国流」の中東民主化に異を唱えるなら、60年前の日本占領政策を問い直し、それがいかに日本古来の価値観を危うくしたか、にも思いを馳せるべきでしょう。
「歴史の鑑に照らす」とは、そういうことではないですか。
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登録日:2007年 04月 16日 01:05:25
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- プロフィール
- 伊藤 延司
- (男)
- 長野県生まれ。京都大学卒。
毎日新聞社ジュネーブ支局長、パリ支局長、学芸部長、出版局次長、英文毎日局長などを歴任。
主な訳書: 『アメリカの鏡・日本』(角川書店)、『壁の向こう側』(毎日新聞社)、『ブッシュ・ベイビーズ』(マーガレット・プライスとの共訳、毎日新聞社)、『犬たちをめぐる小さな物語』(日本放送出版協会)、『ダーティー・ハンズ』(都市出版)など。
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