シャシャリ出る「民主主義」の危なさ
【東京 18日 AFP】伊藤一長・長崎市長が銃撃され死亡した事件で、広島市長や反核団体が18日、核兵器の廃絶に向けて国内外で精力的に活動していた同氏の死を悼み、激しい憤りを表明した。
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(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA
【まるで牛刀で鶏を割くような】
<それにしても民主主義を否定する暴力が、憎んでも憎んでも繰り返されるのはなぜだろう。>
伊藤一長・長崎市長が暴力団員にピストルで射たれた事件(4月17日)の翌日、朝刊で読んだ社説の一節です。
これって民主主義を否定するテロだったの?
こんなことを言ったら、お前も民主主義を否定するのか、と叱れられるかもしれませんが、まるで「鶏を割くのに牛刀を用いる」みたいな感じがしたんです。
社会面の見出しがまた、衝撃でした。
<長崎でまた悪夢>
<平和都市 強い怒り>
「悪夢」とか「平和都市」とか、昔よくあった3本立て映画の宣伝看板みたいな見出しです。
各党代表もみんな、うわずった声で「民主主義」を叫んでいました。
「政治信条、言論を暴力で封殺するというのは極めて卑劣な行為だ」(民主党の鳩山由起夫幹事長)
「こうした卑劣なテロ行為は自由と民主主義に対する凶暴な攻撃であって、絶対に許されない」(共産党の志位和夫委員長)
「武力で問題解決をしようとする傾向には断固抗議する。日本の中で政治活動が危うくなっている」(社民党の福島瑞穂党首)
「言論を暴力で変えようとするのは民主主義の破壊だ」(国民新党の綿貫民輔代表)
いずれも至極もっともな談話ですが、どこを切ってもキンタロが出てくるアメみたいな民主主義擁護論に、思わず「こんなところにシャシャリ出なさんな」と民主主義の頭を叩きたくなりました。
【軽っぽい民主主義論議】
山口組系暴力団の組員が市の道路工事現場を車で通行中、穴ボコにはまって「車をへこまされた」。城尾哲弥というこの暴力団員は、市に賠償責任を取らせようとしたが、窓口をたらい回しされた。公共事業の請け負いで、市に約束をホゴにされ、損害を出した。それやこれやで、市に対して積った怨みを市長殺害で晴らそうとした。だいたいそんな経緯から起きた事件のようです。
長崎市長が銃撃されたという報告を受けた直後、安倍首相は「捜査当局において厳正に捜査が行われ、真相が解明されることを望む」というコメントを出しました。
このコメントに対して、マスコミは「トップに立つ者にあるまじき危機意識のなさ」(某週刊誌の特集記事)と批判しましたが、この事件は、どうみても、政治テロというより、暴力団員による、いかにも暴力団的な暴力ざたです。
理由がどうあれ、市長を射殺するのは言語道断です。殺されたのが市長でなくても、憎むべき殺人です。でも、市長殺害の動機を「政治信条、言論の封殺」だの「自由と民主主義に対する凶暴な攻撃」だのと、政治テロに格上げ(?)してしまったら、事件の裏に隠れている肝心のものが見えなくなります。たとえば、長崎市と暴力団の間に、なにかドロドロした関係があったかもしれないでしょう。そういう意味で「武力で問題解決をしようとする傾向には断固抗議する」だなんて、事件にかこつけて自党の平和主義を喧伝するような野党党首の談話より、厳正な捜査を求める首相のコメントのほうが、まともだと思うのです。
【16年前の長崎市長銃撃事件】
16年前の1990年1月にも、同じ長崎で市長が銃撃される事件がありました。場所は「平和都市」で、襲われたのはいずれも市長ですから、「民主主義の危機」がドラマチックに叫ばれるのも無理のないところです。
あれは、当時の本島等市長が市議会で「昭和天皇に戦争責任がある」と答弁したことを怒った右翼団体幹部が、ピストルで市長の背中を射ったのですが、ぼくは個人的理由からこの事件をよく覚えています。
そのころ、ぼくはMainichi Daily Newsという英字新聞の編集局長をしていました。この新聞に週1回、コラムを書いているアメリカ人女性が「本島市長銃撃と日本のデモクラシー」という原稿をもってきたのですが、ぼくはこれをボツにしたんです。
原稿の趣旨は「戦後45年もたっているのに、ニッポンはまだ民主主義国になっていない」というものでした。
なぜボツにしたのか、と怒ってきた彼女に、ぼくはこう答えました。
「あなたの国でも、ケネディ大統領が暗殺されたでしょう。弟のロバート・ケネディ上院議員も射たれて死にました。レーガン大統領も暴漢に襲われたじゃないですか。そういう国の人から、お前の国はまだ民主主義国ではないなんて、いわれたくないんですよ」
【民主主義がシャシャリ出る危険】
そういいながら、われながら大人げないと思いました。でも、彼女の原稿に限らず、何かというと「自由と民主主義」を、黄門さまの印籠みたいに振りかざすステレオタイプの正義に反発したい気分だったのです。
「民主主義」には、誰も反対できない。そこに「民主主義」という言葉の空虚さを感じます。ぼくが長崎市長銃撃事件に関する各党党首の談話に感じたのは、そういう空しさです。イマジネーションの無さ、といってもいいかと思います。
こういう中身のない、お題目を繰り返すと、実体のない「民主主義」がシャシャリ出て、危険なことになります。たとえば「民主主義のための戦い」とか「テロとの戦い」みたいなものになっていきます。
暴力団員の暴力を憎むのは、いいのです。暴力団の暴力は、とんなにピストルで武装しようが、警察権力の暴力に敵いっこありませんから。
でも「こうした卑劣なテロ行為は自由と民主主義に対する凶暴な攻撃であって、絶対に許されない」となると、暴力団の暴力どころではなくなります。「テロとの戦い」を覚悟しなければなりません。テロリスト集団をどうやって抑圧するか、具体的な行動計画を真剣に考えるべきです。新聞社説は「あくまで話し合いで解決を目指すのが民主主義の基本ルールだ」といいますが、民主主義を否定するテロ集団相手に、民主主義の基本ルールをどうやって守らすんですか?
民主主義に対して「凶暴な攻撃」を仕掛けてくるのが、山口組系ナントカ会程度ならいいですよ。国連の「越境組織犯罪防止条約」が想定しているような国際的集団を相手に、話し合いもないものです。ところが、この条約に基づく「共謀罪」法案には、今度の事件で「自由と民主主義」の防衛を叫ぶ野党は反対しています。これは矛盾でしょう。だから、空虚なんですよ。
空虚じゃない。民主主義に対する凶暴な攻撃は「絶対に許されない」と真剣に考えているというなら、ブッシュ大統領と立場は同じです。「テロとの戦い」です。こうなってしまうのは、危ないでしょう。暴力団程度のニワトリを、民主主義という牛刀で割こうとすると、こういう危険なジレンマに突き当たってしまう。民主主義は、あまりシャシャリ出ないほうがいいのです。
カテゴリー[ 政治 ], コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2007年 04月 27日 03:49:19
コメント
最近は特に金太郎飴が多いです。特に野党の主張はマンネリ化していて何でも反対、しかもその内容からしてインパクトのある政策が見えてきません。民主主義がベターではあっても、ベストではないのに金科玉条のように民主主義の危機を叫び、その事件の真摯な検証を怠っているのがおかしいです。
勿論、自民党にも問題はありますが今の野党に政権を任せるのは危なくて見ていられません。
長島一磨 @ 2007年 05月 27日 20:38:50
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- プロフィール
- 伊藤 延司
- (男)
- 長野県生まれ。京都大学卒。
毎日新聞社ジュネーブ支局長、パリ支局長、学芸部長、出版局次長、英文毎日局長などを歴任。
主な訳書: 『アメリカの鏡・日本』(角川書店)、『壁の向こう側』(毎日新聞社)、『ブッシュ・ベイビーズ』(マーガレット・プライスとの共訳、毎日新聞社)、『犬たちをめぐる小さな物語』(日本放送出版協会)、『ダーティー・ハンズ』(都市出版)など。
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