England vs. Germany


12勝12敗3引き分け。PK戦による決着を引き分けと計算すると、12勝10敗5引き分け・・・。これぞ宿命のライバルにふさわしい対戦成績と言えるでしょう。今でこそ日本は韓国をライバル視出来ますが、歴史的見地からすれば勝利数は圧倒的に韓国が多く、日韓戦は厳密には永遠、或いは宿命の対決などと呼べる代物ではありません。

そう、この数字こそは、イングランドとドイツが、1世紀に亘って繰り広げてきた激戦の足跡なのです。もっとも、終戦直後からベルリンの壁が崩壊するまでの16試合は、イングランド対西ドイツ戦と呼ばれ、イングランド対東ドイツ戦の対戦成績はこの数字に含まれていません(因みにイングランドと東ドイツは4回対戦し、イングランドの3勝1分け)。

また、W杯だけでもこの両強豪は過去4回対戦しており、19666年イングランド大会の決勝戦、1970年メキシコ大会の準々決勝戦、そして1990年イタリア大会の準決勝戦ではいずれも後世に語り継がれる名勝負を繰り広げています。W杯では、過去に様々な名勝負が行われてきましたが、この2カ国ほどライバルとして互いを認め合い、火花を散らしてきたチームは見当たらず、両国のサポーターだけではなく、世界中のフットボールファンが固唾を呑んでその対戦を見つめてきました。

そして、昨日行われた南アW杯でのベスト8を賭けた戦いを終えた段階で、この両国の対戦成績はドイツの13勝12敗3引き分けへと塗り替えられたのです。

スコア自体は4対1とドイツの圧勝であり、今大会でレーブ監督が徹底させているボールをキープしている味方を1人、2人と後方から躊躇なく追い越してパスを貰うというダイナミックな連動性のあるドイツ代表の動きが、イングランド代表を粉砕しました。しかし、そんなドイツが3点目を決める後半途中までは、伝統の一戦にふさわしい正に手に汗握る熱戦が繰り広げられたのです。

GKノイアー選手からFWクローゼ選手への縦1本のキックからの得点あり、アップソン選手の脅威的滞空時間を誇るヘディングによる得点あり、また、ランパード選手のゴールに対する世紀の大誤審あり、そしてそれにめげずにジョンブル魂を発揮するイングランドに対し、新生ドイツの象徴とも呼ぶべきエジル選手、ミュラー選手、ポドルスキー選手らのスピィーディーかつ無駄のないカウンターアタックと、それは見所満載の好ゲームでした。

勝負を分けたのは先程も述べましたが、ここぞという時に躊躇なく前へ前へとリスクを犯してでも飛び出してボールを貰う動きを、したかしなかったかの差であったかと存じます。そして、どんなにスター選手が集まっても、ただ軽快にパスを回すだけではなかなか戦況を打開出来ないことを、今日のゲームははっきりと示してくれたのではないでしょうか。イタリアやフランスのグループリーグ敗退も然り、これまで是とされて来た華麗なパス戦法が今岐路に立たされていると言えます。最弱と目されたニュージーランドが3引き分けを達成できたという事実を見ても、華麗なだけのパス戦法は、少なくともW杯では死滅の危機に瀕していると言って良いでしょう。そういった意味でも、イングランド対ドイツの対戦は非常に見所のある試合でした。

奇しくも、同日ドイツと共にベスト8に駒を進めたアルゼンチンも、しっかり組織されtたパスワークを誇るメキシコを、メッシ選手、テベス選手といったセオリーにない予測不能な動きをするドリブラーを軸に、それでいてイグアイン選手や少数のアタッカーとは絶妙な連携を紡ぎながら粉砕しました。

そういった意味で、ドイツのキーマンは明らかにエジル選手です。彼のトップスピードに乗ってボールを保持しつつも味方の飛び出しをしっかり把握し、そこに正確なパスを送る能力は大きな武器と言えるでしょう。そんなエジル選手は、全方位を見渡しながら、高速で大空を疾走して虫を捕らえるオニヤンマを連想させます。そう、それらのキーマンに共通する武器は、抜群のテクニックと広い視野、そして何よりもフィジカル(走力)とメンタル(判断力)両面に於けるスピードです。

エジル、メッシ、テベスといった異次元の選手達を擁するドイツやアルゼンチンがかつてない戦法で躍進する姿を見ると、華麗かつ組織立ったパスワークを誇るスペイン、オランダ、ポルトガルそしてブラジルが今後どのような戦い方をするのかが注目されますし、堅守速攻を標榜するウルグアイ、パラグアイ、日本、スロバキアといったチームをその他の強豪がどう攻略するのかなど興味は尽きません。

話は戻りますが、イングランドとドイツのような伝統の一戦を堪能し、その中にも新しいフットボールの戦術、戦法の息吹を感じることが出来るのはW杯の醍醐味であり、そんな歴史の舞台で日本代表がその過程はどうあれ、世界の人々の注目を集めるのは喜ばしい限りです。そして、ドイツとイングランドのように世界中の人々の記憶にいつまでも残るような試合を積み重ね、世界レベルの真のライバルを見出せる日が来ることを祈って止みません。

そして最後に、ベスト8を決める大事な試合において、1日に2度も誤審によって完全なオフサイドが得点になったり、完全な得点がノーゴールになったりすることが起こらないよう祈るばかりです。FIFAは、スピーディーな近代フットボールの戦術や戦法に審判団が対応しきれていないという事実をもう少し真摯に受け止めるべきでしょう。理由は明白であり、それは下手をすると誤審が試合そのものをぶち壊しかねないからです。そしてこれは、日本代表にとっても対岸の火事では済まされることではないのです。

コメント[2], トラックバック[0]
登録日:2010年 06月 28日 06:28:03

コメント

小谷さん、こんにちは。

ドイツ-アルゼンチン 楽しみですね。

ドイツにはかつての「負けないけど退屈」というイメージが全くない!

あのスピードのあるカウンターはしびれます。

エジル選手、全く知りませんでしたが、スター誕生ですね。

個人的にアルゼンチンが好きなんですが、
ドイツのあのサッカーには
分が悪いような気がします。

どちらにしろベスト8でどちらかが敗退するには惜しすぎる両チームです。

クライフターン @ 2010年 06月 28日 10:33:24

こんにちは^^

エジル選手のトップスピードからの三点目は見事でしたね。
審判団には一日に2度誤審があったので、今後は気を引き締めて
誤審の無いように徹底して欲しいです。

どんなに良い勝負でも、誤審があると後味が悪くなりますからね(;´▽`A``

舗装人!! @ 2010年 06月 28日 12:02:08

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2010年 06月 >


1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30


プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
最近のトラックバック
カテゴリー
お気に入りリンク
検索