■日本のフットボールの未来の為に、今私が書くべき事⑨



《選手達は本当に良くやった!しかし、感傷に浸っている閑はない。日本の将来の為には冷静に敗因を分析し、次大会こそベスト4だ!》

パラグアイの4人目のキッカーであるカルドーソが、心憎いまでに冷静に川島選手の逆をついて、ボールを左隅に流し込んだ時、4年間にわたる青き侍達の挑戦は幕を閉じました。

双方9人のキッカーの中で唯一シュートを外し、泣き崩れる駒野選手をチームメートが次々と抱きかかえるようにして励ますシーンを見て涙したのは私だけではないはずです。駒野選手を罵倒する日本人はいないでしょうし、何故決してキックの精度が高いわけではないディフェンダーの駒野選手をPKキッカーに選抜したのかを攻めるのも筋違いというものでしょう。PKの練習は念入りに行っていたはずで、同選手はその練習に於いてかなりの確率でPKを決めていたはずなのですから。

彼らが持てる力を出し切ったからこそ、今まで決して勝てなかった国外開催のW杯で二つもの白星を挙げ、三つ目が手に届く場所まで辿り着くことが出来たのです。

指揮官が迷走し、大会直前になってもなかなか結果が出ずに追い詰められる中、腐らずに団結力を高め、大幅な戦術並びに選手起用の変更に日々対処しつつ、日本のフットボール史に新たな1ページを書き加えてくれました

日本代表の選手達には、心から良くやったと拍手を送りましょう!そして敏捷性や早いパス回しのみならず、忍耐力と組織力が日本人選手の大きな武器になることを世界にて示してくれたことに感謝致しましょう!そして、胸を張って帰国してもらおうではありませんか!

しかし、だからと言って日本協会をはじめとする首脳陣、そしてコーチ陣までを手放しで褒めそやすべきでしょうか。否であります!

考えてみても下さい。日本代表チームは、先月行われた国内最終戦で韓国に惨敗を喫するまで、いわゆる人もボールも動くという素早いパスワークで切り崩していくポゼッション・フットボールを標榜していたのです。それをなかなか結果が出ないからといって、いきなり大幅な戦術変更とメンバー変更を行い、今回の結果を出したわけですが、もし、岡田監督がこの決断をせめて昨年のオランダ戦で完敗した後に実施していたら・・・。或いは、もしこの決断を2008年の3月26日にアウェーで行われたバーレーン戦(0-1の敗戦)の後に敢行していたら・・・。

そのバーレーン戦の後に岡田監督はいみじくも言いました。「混乱を避ける為に、今までオシム監督がやってきたことをある程度踏襲してきましたが、これでやっと踏ん切りがつきました。(守備に関しては)僕なりのやり方で行きますよ!」と。

しかし、現実的に岡田監督はオシム氏の残した遺産を捨てきれず、逆に食い潰すところまで行ってしまい、追い詰められた末に今大会の戦術変更に辿り着きました。

具体的には、開幕の1ヶ月前に国内を離れてから行われた親善試合のイングランド戦に於いて、初めて現在の原型となる布陣で戦ってある程度の成果を上げました。更にコートジボアール戦でも同じ戦術を試し、多少の試行錯誤を繰り返しながら、本番当日に本田選手のワントップ、左右のワイドに大久保選手と松井選手、その後方に遠藤選手、長谷部選手、そしてアンカーに阿部選手、最終ラインに左から長友選手、闘莉王選手、中沢選手、駒野選手、守護神に川島選手といういわゆる不動の先発メンバーに行き着いたのです。

その結果、運にも助けられたとはいえ、選手達は驚くほどの適応能力と戦術理解力を見せて、1試合ごとに進化をしつつグループリーグの最終戦ではデンマークに完勝!そしてベスト8を賭けたパラグアイ戦では、あと1歩のところまで迫りました。

たった1ヶ月間でここまでやれるのなら、もっと早くこの戦術を浸透させていたらどうなっていたのでしょうか。その観点からすれば、決して「良くやった!」ではなく、「もしこの戦術変更をせめて半年前に実施していたら!?」と考えるのがべきではないでしょうか。或いは「せめて半年前から現在の布陣で臨んでいたら、パラグアイには勝てたのでは!」という疑問を抱くべきではないのでしょうか。

少なくとも真剣に日本の将来を見据えるならば、そして4年後のW杯で日本中の誰もが一致団結してベスト4を目指すためには、すくなくとも我々ジャーナリストは感傷に浸ってばかりいてはいけないと思う次第です。

また、古い話しとおっしゃるかもしれませんが、1996年のアトランタ五輪に於いて、グループリーグで最強と謳われ銅メダルを獲得したブラジルをまさかの1-0で破りながら、金メダを獲得したナイジェリアに0-1で惜敗したため、得失点差で敗れ去った西野監督率いる日本五輪代表チームを、日本協会が守備的過ぎると批判したことを私は決して忘れません。

前園選手率いる当時の五輪代表のやったことを今大会に置き換えるなら、優勝候補のスペインと難敵スロヴェニアを破りながら、ドイツに対して不用意なPKを献上して破れたため、僅かに得失点差でグループリーグ突破ならずといった状況だったのです。しかも同じグループのドイツが優勝し、スペインは3位になったのですから、これは大健闘と言って良いでしょう。しかし、協会はその西野ジャパンを守備的過ぎると堂々と批判したのです。

その事実を踏まえれば、日本代表の方向性を示さねばならない協会はこの14年間、一体何をして来たのかということになります。日本代表を私物化するのも大概にせよと言わねばなりません。

これから始まるW杯のクライマックスを直視しながら、上記の観点を中心に敗因を分析、検証しつつ、これからの日本のフットボールの未来の為に、少しでも役に立つ提言が出来れば幸いに存じます。

選手達をを犠牲者にしては決してなりません。日本代表は良い指導者に巡り合いさえすれば、W杯ベスト4も決して夢ではないことを、彼等は命を削り、体を張って証明してくれたと私は思っています。

コメント[10], トラックバック[0]
登録日:2010年 06月 30日 16:48:40

コメント

小谷さん、こんばんは。
小谷節復活ですね。
この大会の検証と将来に向けての課題と展望を語ってくれているは、小谷さんと元川 悦子ぐらいですね。
頑張って下さい!

K太郎 @ 2010年 06月 30日 23:39:57

こんにちは。
いつも楽しく読ませていただいています。

さて、日本代表の現状の解釈と、それに続く
今後の課題に少し異論がありますので書かせ
ていただきます。

世界と戦うには得点力不足、絶対的なFWがい
ない中、この穴を埋めるべく何をすればいい
のか。日本の長年の課題です。
ドイツでは中盤の選手のタレントで打開しよ
うとしました。しかし、体力不足で後半失速
し無残な結果となりました。
オシムが目指したポゼションサッカー。テクニックと強さを運動量でカバーし、ついでに守備の負担を軽減する。基本的に岡田も引き継ぎ、なんとか予選は突破。しかし、攻撃に人をかけるこのやりかたは、wレベルの攻撃には対応できなかった。中盤で球を失うと前線までが速い、相手ゴール前から、数秒で来る攻撃に、守備陣は戻り切れず、連携はばらばらで失点を重ねる。
ここへきてシステムの変更を余儀なくされた岡田がとったのが、超守備的サッカー。これが図らずもあたってしまった。
残念ながら相手のミスでしか点は取れないが、点を入れさせなければ相手もあせり、ミスを連発する。日本サッカーの将来像が見えたかもしれない。と感じさせるはまりようだった。
だが、勝たなければならない状況では、このやりかたは通用しない。攻撃的なオプションとなると、まだまだ世界レベルには程遠いのは証明済みである。守備は残しつつ、2、3人で局面を打開するか、守備をあきらめても攻撃するか、どちらもやってみてうまくいかなかったのだ。

別の見方 @ 2010年 07月 01日 12:57:01

「今回の戦いはこういう戦いでしたが、一つの戦い方を示せた上で、もっと欲を出して攻めていく姿勢を、次は世界に見せる時なのではないかと思う。その部分でまだまだ物足りない。もっとギリギリまでやっていかないと」

これは本田選手のコメントです。

中心選手から現状を的確に表現したインテリジェンスあふれた
コメントが聞けたという事は非常に頼もしい限りです。

また、中田英寿氏がTVの解説の中で、
「デンマーク戦は非常に評価出来るが、それ以外は日本の将来の方向性という点で不満が残る」という趣旨のコメントを残していました。

日本中が無条件で代表チームを称賛する中のこの冷静なコメントを聞くと

テレビやさまざまなしがらみにとらわれない姿勢を持った中田氏こそ
次期会長にふさわしいという持論に自信が持ててきます。
まだ若い中田氏を中心に10年、20年スパンでの強化計画を打ち立て欲しいと考えます。
方向性がどうなるにしろ協会には長期ビジョンで、育成、ユース世代にも
決定した哲学を浸透させて欲しいものです。

方向性については
今回なしえなかった、相手に関係なくポゼッションサッカーを貫くというのも一案なら、今回の守備的な方向性を磨いていくと言うのも一案。

個人的には戦術の引き出しをたくさん用意した上で、
対戦相手ごと、あるいは試合中にも頻繁にシステム変更が行われるような
相手に合わせるという意味でのリアクションサッカーっていうのが面白そうだと思うんです。


器用さ、戦術理解度、チームプレーに優位性を持つ特徴を
考えたら意外といいと思います。

故仰木監督時代のオリックスが猫の目打線と呼ばれたように、
一貫したスタイルが無い事が逆に特徴となり得るという意味では
現状大会毎に変わっている代表チームの愛称も

「ブルーカメレオン」に統一という事で(笑)

実際に成立しうるかどうかは???ですけど・・・。

小谷さんいかがでしょう?

クライフターン @ 2010年 07月 01日 15:15:10

小谷さん、まったく同じ見解です。^^

『よくやった!スイス合宿からは。』
『何してたんだ!2年半も。あるいはこの1年間を。』

この2つは互いに分けて考えなければならない評価だと考えております。
小谷さんを見習いながらも、拙ブログを開いていますので、またお時間ある時にでも覘いてください。^^
http://roofguardian.blog9.fc2.com/blog-entry-197.html

プーアール @ 2010年 07月 01日 17:46:24

K太郎さん

励ましのコメントを有難うございます。
勝てば官軍と言いますが、優勝したわけでもなく、目標に掲げていたベスト4にも遠く及ばなかったわけですから、日本のメディアは持ち上げすぎかと存じます。
大会前の状況があまりにも酷過ぎたために、その状況との比較論で判断をしてしまっているのが解せません。
そこは、惑わされずにきっちりと検証せねばならないと思っております。
愛の鞭ではありませんが、マスコミは厳し過ぎるのではと言われるぐらい厳しい批評をしてこそ、その国のフットボール文化が成長するのだと信じます。

小谷泰介 @ 2010年 07月 02日 22:38:12

別の見方さん

長文のコメントを有難うございます。

私はオシムさんが監督を続けていたら、岡田監督のように土壇場になって戦術変更をする事はなかったと確信しています。このことについては、今後当ブログにてじっくり解説させていただきたいと存じますが、もしオシムさんが倒れることなく、今日まで指揮を執られていたら一体どうなっていたのか、本当に見てみたかったと今も強く思っています。

岡田監督が土壇場で選択した堅守速攻型のフットボールは付け焼刃であっただけにベスト16で敗退しましたが、その完成型をドイツ代表が披露してくれています。

対アルゼンチン戦では、堅守速攻とはかくあるべきという完璧に近い手本を示してくれたと思うのですが、あのレベルに到達するのは並大抵ではなく、果たして本当にあのスタイルが本当に日本人にむいているのかは、今のところ私には分かりません。

今後、じっくりと検証してみたいと存じます。

小谷泰介 @ 2010年 07月 04日 07:43:27

プーアールさん

いつもコメントを有難うございます。

ブログは早速拝見させていただきましたが、質、量ともに大変立派なブログであり、感服いたしました。

プーアール茶は常飲していないので、大好きなアールグレイを飲みながら、W杯終了後にじっくりと拝見させていただきたいと存じます。

小谷泰介 @ 2010年 07月 04日 07:48:33

クライフターンさん

いつも含蓄のアルコメントを有難うございます。

私も中田英寿氏のように世界のフットボールを肌で感じ、国際感覚のある人が将来日本のフットボールの舵取りをすることになれば、きっとよい方向に進むと思います。但し、現在彼が商業的活動をする際にサポートをしている組織や企業とのしがらみが及ばぬよう配慮せねばならないでしょう。

日本代表の目指すべきスタイルに関しては、今後このブログを通して皆様の意見を伺いつつ、私なりの結論を導き出したいと存じます。

ところで、堅守速攻がかくあるべきだというお手本をドイツ代表が披露してくれていますよね。あれを見せ付けられると、今の日本人選手には難しいような気がしてしまいます。

小谷泰介 @ 2010年 07月 04日 08:00:40

はじめまして、
小谷様の心境はすごく伝わってきました。

選手は与えられた状況下で、できる限りのプレーをしたのかなとは思いますし、選手の一体感、spiritsは、2006よりは伝わってきました。
しかし、
互角に戦ったというだけで浮かれるのでは、
いつまでたっても強豪国の立場にはなれませんし,
今回の試合内容から将来の日本代表に何が引き継がれてプラスになるかということを考えますと、結局,戦術面ではよく守ったというだけで、それなら98年フランスW杯とほとんど変わらないと思っています。

違いは海外で経験を積んだ選手がいた分,得点にも結びついたというだけで,
2年半のうちのほとんどを無駄にして現実的な路線で結果だけを勝ち取ったというものかなと感じます。

世界を驚かせたことが堅実なチームとしての守備力では,
ベスト4という目標が今でも恥ずかしくなります。

世界に届くサッカーを目指して今回は予選敗退でもかまわないくらいの気持ちがあったのに、これでまた満足してたら,世界のサッカー勢力図に加わる為にはさらに気が遠くなってしまいます。

監督のチーム作りの段階で、理想の戦い方、戦術を前提においての、、
選手選考。。。だったのではないか?

疑問を抱いてしまいます。

乱筆お許し下さい。

sally @ 2010年 07月 06日 10:43:52

sallyさん

初めまして!コメントをお寄せいただき有難うございます。

仰ることは良く分かりますし、私も共感する次第です。

岡田監督は、一体何を根拠にベスト4を目指そうとしていたのか、その点が非常にあ曖昧であったと言わざるを得ません。あのガチガチに固めた守備で達成出来るはずがなく、あれは苦し紛れの窮地の一策だったわけです。それが証拠に、同監督は大会に入ってからベスト4という言葉を殆ど発しなくなりましたし、勿論行けるとも思っていなかったはずです。

そして今、用意周到に牙を研いで来た精鋭達が決勝進出を賭けて戦う様を見て、付け焼刃では及ばない大きな力を見せ付けらていると言ってよいでしょう。

しかし、以前にも申し上げましたが、付け焼刃であそこまで行くのですから、正しい戦略を掲げた正しい指揮官の下で、4年間しっかりと良い準備をすれば、ベスト4は決して夢ではないと言えるのではないでしょうか。

2014年に期待致したいと存じます。

小谷泰介 @ 2010年 07月 07日 15:30:32

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2010年 06月 >


1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30


プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
最近のトラックバック
カテゴリー
お気に入りリンク
検索