こんなドイツ代表見たことない!


今大会は予測し難い様々な出来事が現実のものとなり、波乱含みの大会となりましたが、準決勝に残ったチームを見る限りはウルグアイを除いては開幕前から優勝候補に上っていたチームが名前を列ねています。

オランダは、チームの心臓と呼ばれるスナイデル選手が絶好調で、文字通り牽引車としてチームをここまで引っ張って来た印象があります。また、ブラジル戦を見ても分かりますが、攻守のバランスが絶妙で、非常に組織された隙のないチームと言えるかも知れません。守備に難があると指摘する専門家の声もがありましたが、ブラジル戦を見る限りはどうしてなかなか。唯一全勝をキープしているチームでもあります。ロッベン選手の復帰したオランダは一段とパワーアップし、悲願のW杯初優勝に向かってチーム内の結束も高まっていることでしょう。

ウルグアイは、堅守速攻を伝統とする国ですが、今大会も正に伝統に磨きをかけたスタイルでここまで勝ち上がってきました。A・マドリーのヨーロッパ・リーグ優勝の立役者フォルラン選手、アヤックスで今季35点を叩き出したスアレス選手、パレルモの得点源カバー二選手という非常に能力の高い点取り屋が3枚揃っていることで為し得るカウンターフットボールをここまで披露してきましたが、準決勝はその一翼を担うスアレス選手を欠くだけに苦戦は必至でしょう。しかし人口が400万にも満たない小国がここまで出来るのですから、日本がベスト4に進めないわけがありません。要は協会の覚悟と方針なのです。

一方、大会前にはブラジルと並んで優勝の呼び声高かったスペインですが、前評判通り高いポゼッションを保ちながらの美しいパス回しを披露し、決めるところはエースのダビド・ビジャ選手がきっちり決めてここまで勝ち上がってきました。F・トーレス選手の不調は気掛かりですが、1999年のWユース優勝に代表される若手育プログラムの成功がフル代表にしっかりと反映されていて、攻撃的姿勢を崩さず究極のパスワークを披露しているだけに、個人的には優勝をさせてあげたいところです。しかし、準決勝の相手は今もっとも勢いのあるドイツですから、果たしてどうなることやら。

さて最後にそのドイツ代表ですが、私の印象は1970年からW杯を観戦してきた中で、「こんなドイツ代表見たことない!」と言うのが、偽らざる心境です。一つは若手をチームの中核に据え、チームの平均年齢が25歳以下という若いチームである点で、かつてのドイツ代表ではありえない若さです。ベテランの技術と経験、そして忍耐力と規律でブラジルと共にW杯で最も成功しているチームとして君臨してきましたが、レーブ監督はこれまでのセオリーをひっくり返して今大会に臨んできました。

幸か不幸か主将のバラックが出場不可能となったので、レーブ監督も踏ん切りがついた面もあるかとは思いますが、ドイツも国を挙げての若手育成強化に取り組み、今回活躍しているFWミュラー選手、MFエジルとクルースの両選手、GKノイアー選手等は正にその申し子達であります。また、同監督は大会の半年前に、これまでチームを支えてきたフリンクス選手等に起用の意思がないことを通達するなど、着実にチームの若返りを断行して来ました。過去の栄光に惑わされ、若返りを図れずにグループリーグで散っていったイタリアとフランスの惨状をみれば、如何にドイツ代表の決断が優れていたかが分かります。2008EURO準優勝のメンバーですらバッサリと切り捨てていますから、その思い切りの良さは天晴れと言う他ありません。

次にその戦術変更も見逃すことは出来ません。ドイツはこれまで基本的にはポゼッションフットボールを基本にしており、どんな強豪を相手にしても守備をがっちり固めてからのカウンターという戦法は取ってきませんでした。相撲に例えるならば、がっぷり四つに組んで戦うスタイルで数々の栄光を手にしてきたのです。ところが、イングランド戦やアルゼンチン戦を見ても分かるように、多くのゴールを鋭いカウンターアタックによって挙げています。特にアルゼンチン戦は顕著で、1点目のFKによる得点を除けば、全て相手の攻撃を凌いだ直後のカウンターアタックによる得点です。さりとて、ウルグアイのような典型的な堅守速攻かと言えば決してそうではありません。要はポリバレントであるということかと存じますが、相手によって引くときは引き、行くとき行くという柔軟な戦術を若い選手達が良く理解してここまで勝ち進んできました。

更にこれまでのドイツ代表と違う点は、攻撃に転じてからのスピードが半端ではないことと、ボールをキープしている選手の後方にいる選手がためらわずに前に出て行くという攻撃時のサポート体制にあります。そこにワンタッチパスを織り交ぜてきますから、破壊力は倍増。チームの精神的支柱であるベテランのクローゼが絶好調ということも相俟って、今回の快進撃に繫がっているのでしょう。

ここに来てドイツ代表の評価が鰻登りですが、1990年以降W杯の優勝がなく、国際大会では良いところまでは行くけれども勝ちきれないことを憂いて若手育成に尽力し、その過程で育ってきた選手達をそのまま活かして結果を出すあたりはさすがにドイツです。フランスも、イングランドも、そして日本までもがお題目のように若手育成の重要性を唱えていますが、その成果がW杯で活かされているかといえば否であります。

ドイツ人は頑固でくそ真面目だと揶揄される面もありますが、フットボール大国の底力をまざまざと見せてくれていることは間違いありません。そういった意味でも、準決勝のドイツ対スペイン戦は若手の育成に成功している国同士の対戦であり、今大会最高の試合を見せてくれるのではという期待感があります。どちらが勝っても素晴らしいゲームを見せてくれること請け合いです。

コメント[2], トラックバック[0]
登録日:2010年 07月 05日 20:14:48

コメント

ドイツチーム最高ですね!!
堅守速攻のスタイルでも十分魅せるサッカーが出来るというのを
教えてくれました。

もし優勝できなかったとしても、
僕の中では今大会のベストチームです。

小谷さんがおっしゃる通り、今回のドイツチームのような
相手に合わせてカウンター主体のゲームプラン、
ポゼッション重視で相手を圧倒するプランを
変幻自在に使いこなすという、
究極のリアクションサッカーを
日本チームが目指して欲しいなと思います。

クライフターン @ 2010年 07月 06日 10:38:38

今日の試合で確かドイツ代表がブラジル代表と並んで、W杯の舞台でもっとも多くの試合に出場しているチームとなり、勝っても負けてもその次の試合であのブラジルを抜き去るわけです。

そんな世界に冠たるドイツ代表でも、謙虚に若手の育成を図り、移民の子達を受け入れながら試行錯誤して前進しているのですから、日本は真剣に将来の青写真と戦略を練りに練らなければなりません。

幸運にも助けられたベスト16入りで浮かれていてはならないのだつくづく思う次第です。

それにしても、今夜の一戦は楽しみですね!

小谷泰介 @ 2010年 07月 07日 15:14:53

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2010年 07月 >




1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
最近のトラックバック
カテゴリー
お気に入りリンク
検索