美と情熱の勝利


事実上の決勝戦と謳われたドイツ対スペインの準決勝での対戦は、スペインに軍配が上がりました。下馬評ではドイツ有利の声が高かったのですが、何が起こってもおかしくない今大会ですから、この結果は全く驚くに値しません。否、むしろスペインが勝つべきして勝ったと私は考えます。スペインは美と情熱の国といわれますが、正に美しいパスワークと勝利への執念で決勝への切符を掴み取ったのはないでしょうか。

あの流れるような素早いパスワークと意表を衝くアイデアに富んだコンビネーションプレーは、恐らくはこれが人間の限界であろうと思わせるほど洗練され、かつ美しいものでした。その中核をなしていたシャビ選手、イ二エスタ選手、そしてペドロ選手はいずれも170センチそこそこの小柄な選手達ですが、あのスピードを創出するにはそのくらいのサイズでなければならないだろうと思わせるほど、素早いものでした。脳の指令を末端神経に早く行き届かせるには小柄な方が有利という単純明快な理論を証明するかのように。

思えば人類史上最高の選手と謳われるペレ氏も175センチ、マラドーナ氏も170センチそこそこの選手であります。そしてこの試合こそノーゴールでしたが、得点王レースのトップを走っているダビド・ビジャ選手も175センチとストライカーとしては小柄です。

そう。日本人選手よりも遥かに小柄な選手達が大男や筋骨たくましい選手達をそのスピードとテクニックで翻弄し、世界の頂点に立とうとしているのです。勿論、身長だけではなく骨格や筋質の違いもあるので、スペイン人と日本人の体格を同一視は出来ませんが、スペインのドイツを破っての決勝進出という事実は、日本人選手がフィジカル云々でどうのこうのと言い訳の出来ない状況を作り出してくれているばかりでなく、日本の目指すフットボールの方向性に対して何かしらの啓示を与えてくれているような気がしてなりません。

日本にはレアルもバルサも存在しませんが、伝統とは情熱溢れる真摯なフットボールピープルが築くものであり、年数が経てばやってくるものでは決してありません。今大会の日本代表の軌跡を徹底検証し、どのスタイルのフットボールが日本人にもっとも適しているかを見極める作業の一環として、スペインにあってメキシコにないもの、スペインにあってパラグアイにないもの、また、ドイツには真似の出来ないスペインらしさ等を研究することも大事なのではないでしょうか。

奇しくも、日本協会はスペイン協会と育成世代の強化を中心とした提携を結び、指導者の交流を図ると言います。協会の技術委員長に抜擢された原博実氏もスペイン通の理論派でいらっしゃることを考慮すると、時期監督候補は少なくともスペイン語圏の人物が抜擢される可能性が高いのではと感じておりますが、それはそれで悪いことではないのかと存じます。但し、スペインと同じことをしていても、決してスペインを上回れないことだけは確信できますが。

一方、EURO2008に続いて惜しくも0対1でスペインに破り去ったドイツ代表ですが、今大会はかなりセンセーショナルなフットボールを披露してくれました。トータルフットボールの旗手としてヨハン・クライフと共に出現した1974年大会のオランダ代表ほどの衝撃ではありませんが、それに近い驚きと感動を与えてくれたことは間違いありません。

キーポイントはやはりスピードに乗った一気呵成な攻撃と、相手によって変化する柔軟な戦術ですが、欧州を制したU-21世代数人を、一年後にそのままフル代表の中心選手として使ってきた点も見逃すことは出来ません。世界に冠たるドイツでさえ歩みを止めることは許されず、若手育成に改革のメスを入れつつ絶えず進化を図ろうとしているのです。また、ゲルマン民族だけで世界制覇は困難との認識の下、トルコ、ガーナ、チュニジア、ブラジルの血を取り入れて融合を図ろうとしている点も見逃せません。なお、これは予断ですが、先程柔軟な戦術と申し上げましたが、ドイツの終盤のパワープレーだけはお粗末でしたね。バラックという中心選手を欠くことで戦術変更を余儀なくされ、きっとレーブ監督もパワープレー時の対応まで手が回らなかったのでしょう。

さて、これで今大会の決勝戦はオランダ対スペインの組み合わせとなったわけですが、いずれが勝ってもフランスについで8番目のW杯優勝国が誕生致します。そういった観点からも楽しみの尽きない決勝戦ですが、フットボールの神様はどちらに微笑むのでしょうか。

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登録日:2010年 07月 08日 15:53:06

コメント

全くわからないものですねー

ここに来てスペインが素晴らしいゲームを見せてくれました。

好調時のスペインチームを倒してこそ、ドイツの新スタイルの完成形だと思っていただけに、惜しいなあという気分です。

これまで以上に強固なブロックを築いたドイツ、
ポゼッションで圧倒したスペイン、
欲を言えば、流麗なパスワークからスペインが2~3点
カミソリのようなカウンターでドイツが2~3点という
ようなエンターテイメントが見れれば最高でしたが、
スペインも内容では圧倒しながら、決定機はそれほど多く作れませんでしたね。
これはドイツのディフェンスが素晴らしかったことが要因かと。

ただ、ドイツはこれまでのような芸術的なカウンターチャンスをほとんど
作れなかったというのが残念でした。
ミュラー選手の不在と、期待のエジル選手も少し動きが重たそうに見えたことも影響があったのかなと。

いずれにしろ、現時点ではドイツの新スタイルは
ポゼッションサッカーの王様の前に完敗したということでしょう。

こうなると、決勝もスペインの内容が悪く、
オランダが素晴らしい戦いをするなんてことも十分ありえますね。

本当にどのチームも、こうも試合毎に出来が違うか?という印象です。

クライフターン @ 2010年 07月 08日 16:31:27

クライフターンさん

いつもコメントを有難うございます。
毎度仰ることが言いえて妙で感心しておりますが、「本当にどのチームも、こうも試合毎に出来が違うか?という印象です。」と言うのは全く持って同感ですね。

しかし、今大会は日本も含め、ブロックを強固にした堅守のチームの活躍が顕著でしたが、決勝に残った2チームは攻撃的フットボールを標榜しており、本当に良かった安堵しております。

W杯では、守ってカウンターで勝つスタイルで優勝したチームはイタリア以外に存在せず、そのイタリアとて、ウルグアイやパラグアイほど典型的な堅守速攻ではありません。ましてや日本の堅守貧攻とは雲泥の差があります。

フットボールは文化、芸術、そして娯楽でありますから、より魅力的であることを追求せねばならない定めがあり、そういった点では、今大会も「フットボールは死なず」と言えるのではないでしょうか。

小谷泰介 @ 2010年 07月 08日 17:27:16

小谷さん、こんばんわ。

>決勝に残った2チームは攻撃的フットボールを標榜しており、本当に良かった安堵しております。

この言葉は一般的に攻撃的と言われる2チームが残ったから、サッカー界にとっては良かったという意味合いで仰られているのであれば、まったくもって素直に頷けます。
ただし、攻撃的という肩書を持つスペインとオランダが今大会もその攻撃性を高めるフットボールを最優先に勝ち上がってきたという見解であるならば、ちょっと待った!という事で珍しく反論させていただきます。^^

僕の見解はココで述べさせていただいております。
http://roofguardian.blog9.fc2.com/blog-entry-208.html

小谷さんであれば理解していただけると想いますが、これは大好きなサッカーをお題にした楽しいディスカッションでありますので、決して悪意のあるモノではありませんよ。
強いて言うならば、僕のスキルアップのために師匠に挑みます。^^

できれば小谷さんのお勧めの次期日本代表監督についても記事にしてくれればうれしいです。

プーアール @ 2010年 07月 10日 03:11:35

プーアールさん

いつも素晴らしいコメントを有難うございます。

私の戦術的な知識は全く持って大したものではありません。従って、貴殿の方がその点では造詣が深いであろうと感じています。

ただ、フットボールは生ものであって、その動向が時々刻々と変化しているように、試合も相手や自身のコンディション、また天候、地理的条件によって臨機応変な対応が必要となってきます。

スペインとオランダは、例えばニュージーランド、北朝鮮、日本といったベタ引きのチームとは明らかに違うわけで、基本はパスワークを大切にし、ポゼッションを高めつつ、攻撃の機会を伺うチームであるということ、即ちリアクション・フットボールではなく、確固たる攻撃スタイルを持ち、それを前面に押し出して試合に臨むチームであるということを述べたかった次第です。

今後も薀蓄のあるコメントをお寄せ頂けると幸いです。

小谷泰介 @ 2010年 07月 13日 16:00:06

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プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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