育成の勝利!スペインがW杯初優勝!!


いや~、本当に良いものを見させて頂きました。

W杯の決勝戦は、1974年大から10大会連続で現地のスタジアム或いはテレビにてライブ観戦しておりますが、個人的には昨夜のスペイン対オランダ戦がその中では最高の決勝戦かなと感じている次第です。

技術、戦術面に於ける鬩ぎ合い、双方初優勝を賭けての執念のぶつかり合い、それぞれが違った持ち味を出し切っての手に汗握る大接戦と、どれをとっても申し分のない内容で、死闘と呼ぶに相応しい内容ではありますが、久々に極上のご馳走を心行くまで堪能させて頂きました。

どちらのチームも基本的には高いポゼッションを維持しつつ、方や局地戦の中から針の穴を通すようなパスを紡ぐ流麗派、一方はピッチの両翼を一杯に使い、大きな展開から時に強引なドリブル突破を織り交ぜて攻撃を仕掛ける豪快派と、両者ともそれぞれ違った持ち味ながらその攻撃的姿勢を終始失わなかったチームであったことは特筆に値します。かなりファウルが多く、イエローカードがオランダを中心に相当数出されましたが、それは汚いプレーという印象よりは気迫の表れと受け取れるもので、むしろ互いの厳しいマークによって頻発するファウルを巡っての駆け引きを楽しむことが出来ました。なりふり構わず、パスの基点キーマンを中心に激しいチャージを仕掛けるオランダに対し、それを務めて冷静にいなそうとするスペインという構図のように見受けられましたが、最後にオランダが退場者を出してしまった事実を見ても分かるように、結局はスペインが試合の流れとなるを引き寄せるべくして引き寄せたと言えるでしょう。

そのスペインですが、大会全試合を通して常にボールを支配し、中盤のシャビ選手、イニエスタ選手、そしてシャビ・アロンソ選手を軸に華麗なパスワークを展開。前半は前線のダビド・ビジャ選手にボールを当てて活路を見出そうとしますが、シャビ選手等が厳しいフォアチェックを受けてペースを握り切れないと判断するや、後半早々には右サイドに個人技で状況を打開できるヘスス・ナバス選手を投入。更に延長戦を見据えた後半42分には、シャビ・アロンソ選手に変えて、より攻撃的なセスク・ファブレガス選手を投入し、シャビ選手のマークを軽減させる布陣にシフトして攻撃的フットボールに拍車をかけます。そして仕上げは、これまでストライカーとして絶対的な存在を示しながら怪我から完全復帰出来ていないフェルナンド・トーレス選手を投入と、心憎いばかりのベンチワークも披露してくれました。残念ながら、最後の一枚は機能せずに終わりましたが、逆に言えば絶対的なエースを欠きながらもコンスタントに勝ち上がって、難しい決勝戦でもその攻撃的姿勢を貫き通して優勝したスペインの底力は見事という他ありません。また、その底力の支柱となってるバルサやレアルといったビッグクラブの存在を抜きに、スペイン代表の勝利を語ることは出来ないでしょう。

誰が出てきてもパスを素早く流麗に繋ぐ戦術は微塵も揺らぐことはなく、前回も申し上げましたが、スペインが育成に心血を注いだ結果育ってきた1999年Wユース優勝世代であるシャビ、シャビ・アロンソ、カシージャス等30歳にならんとする選手達を筆頭に、イニエスタ、セルヒオ・ラモス、へスス・ナバス、フェルナンド・トーレスに代表される25歳前後の選手が続き、その後にもセスク・ファブレガス、ペドロ、ブスケツ、ピケ、ダビド・シルバといった22,23歳の若い選手達が満遍なくしっかりと育ってきている。これはスペイン協会の哲学と信念に裏打ちされた育成の大勝利と言えるでしょう。どこぞの協会とは違って、攻撃的かつ流麗なパスワークから勝利をもぎ取るという戦術が、ジュニア・ユースからフル代表の世代にまで浸透しているのです。これは出来そうでなかなか出来ることではありませんが、今大会でベスト3となったスペイン、オランダ、ドイツはいずれも育成に心血を注いで成功したチームであることを見逃してはなりません。それも一本筋の通ったぶれない指導法で成功していることを、肝に銘じるべきでしょう。

さて、惜しくも準優勝となったオランダですが、決勝戦の戦いぶりは鬼気迫るものがあり、俺達が歴史を造るんだという気迫がTVの画面を通してもしっかりと伝わってきました。決勝戦を見ていると、彼らがグループリーグではいかに余力を残して戦っていたかがわかるというものですが、ピッチを一杯に使ったパスワークにロッベン選手、スナイデル選手等の個人技を随所に活かした攻撃は圧巻で、決勝戦に残るチームに相応しい戦いぶりを披露してくれました。

残念ながら三度目の正直とはなりませんでしたが、決勝戦だけを見れば、1974年大会と1978年大会で決勝に駒を進めた過去の2チームよりも、強烈な印象を与えてくれたと思います。選手、スタッフのみならず全てのオランダ国民は打ちひしがれているしょうが、チームの皆様には堂々と胸を張って帰国して頂きたいし、国民の皆様にはその自国の代表チームを心から誇りに思って頂きたいと存じます。

3位決定戦を戦ったドイツとウルグアイも、それぞれに威信を賭けた見事な戦いを披露してくれましたが、彼等ベスト4に残ったチームの試合を見ていると日本のフットボールに何が欠けているのかが如実にわかるというもので、その違いは選手達が披露するテクニックや戦術もさることながら、協会の姿勢や伝統、ロイヤルボックスの顔ぶれ、TV放送並びにメディアの扱いといったピッチ以外のいたるところで見受けることが出来ました。

苦し紛れの戦術が功を奏し、選手の頑張りと幸運にも助けられて自国以外のW杯で初のグループリーグ突破を果たした日本代表ですが、厚いベスト16の壁を破るには何が必要なのか徹底検証しつつ綿密な青写真を描き、日本協会は今すぐにでも2014年に向け、威信を賭けたぶれない戦いを開始しなければならないと強く感じた次第です。

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登録日:2010年 07月 12日 16:28:30

コメント

クライフ対クライフと呼ばれた今回の決勝戦、

私は小谷さんとは印象が違い、
①スペインの、ポゼッションは高いものの決定機の数を作りきれない部分
②オランダの悪質なファウルの数々、
③審判のジャッジへの不満
などから、あまり楽しめなかったというのが正直な感想です。

ロッベンが2度の決定機をどちらか決めていれば、
かなり後味の悪さが残る結果となっていたでしょうし、
かといって、決勝ゴール直前の誤審
(オランダのコーナーキックがゴールキックに判定されたもの)
もイにエスタのゴールに多大な影響を与えてしまったであろうというのも
いまいちスッキリしない要因ですね。

まあ、そもそも両チームとも疲労困憊の決勝戦で美しい試合を
期待するのが酷というものかもしれません。

今回、ポゼッションサッカーの雄スペインが優勝したとは言え、
ディフェンシブなチームが目立ったという印象です。
オシム前監督も
「モウリーニョの影響が濃い大会だ」とのコメントを発していました。

スペイン、バルサのパスサッカーが、
やはり「王道」として今後4年間の主流となるのか
CL優勝のインテルのようなモウリーニョ流スタイルが
悪役から正義になる事ができるのか、
この辺も興味深いです。

日本チームの未来は、
小谷さんがおっしゃる通り、長期プランによる育成が
非常に大切だと思います。

今週にでも、原レポートが提出されると聞きます。

日本はどの方向を目指すのか?
そこをはっきりさせた上で、今後10年、20年の育成プランづくりを
綿密におこなって欲しいですね。

新監督の就任は極端に言えば、プランを慎重に議論し、
そのうえで、プランに合った理想の監督が
見つかるまで(あるいはタイミングが合うまで)は1年くらい監督代行という形式でもよいのではないかと思います。

今後10年の為に1年くらい捨てるという英断も必要かと。

個人的な案として、2ヶ月くらいかけて、
「日本代表育成委員会」にて日本の長期プランを設定して欲しいと思っています。
構成メンバーは以下の通りです。

①小谷さんをはじめとするジャーナリスト
②ドイツ、南アフリカを経験した現役選手
③日本サッカーに造旨の深い外国人監督
④サポーター代表(論文形式での選考審査に合格した方)
⑤サッカーに造旨の深い有能な企業経営者、
 あるいは戦略系が得意なの経営コンサルタント
⑥協会の強化委員会

各2~3名程度ですからかなりの大人数になるため、
1つの方向を決めるのにも相当な時間がかかる事は予想されますが、
是非実現したらいいなと思っています。


実際は来月頭にも新監督が発表されるんでしょうね・・・

クライフターン @ 2010年 07月 13日 11:28:10

クライフターンさん

いつもフットボールへの愛情に溢れ、かつ造詣の深いコメントを有難うございます。

同じ決勝戦でも貴殿と私ではかなり印象が違ったわけですが、それもフットボールの持つ奥深さかと存じます。例えば、貴殿のご指摘に対して、私は次のように考えるわけです。どちらが正しいという類のものではなく、こういった相違点をワイワイガヤガヤと議論できるのがフットボールの醍醐味の一つであります。

①得点が少なかったのは、大エースのF・トーレスの不調による影響が大きかったことと、スイス戦に代表されるようなベタ引きのチームと当たるとそう簡単には得点できないということ。また、公式球と高地の影響で、FKが決まらなかったことも多少影響しているかと存じます。しかし、そんな悪条件下で、パスワークとポゼッション・フットボールを標榜したスペインが優勝したことに感動を覚える次第です。日本代表が結果を重視して堅守に切り替えたといいますが、優勝する為には堅守ではだめだと言うことを彼らが証明してくれたからです。

②オランダの悪質なファウルの数々に関しては、決して悪質なファウルをしてやろうと思って試合に臨んだわけではないと思います。本文でも述べましたが、三度目の正直を願うオランダ代表がスペインを攻略する為に、ファウルすれすれのフォアチェックで臨むのは止むを得ない選択だったと考えます。

③審判のジャッジは確かに幾つかのミスはありましたが、総合的に見てあの荒れる要素の高い試合を良くコントロールしたというのが私の感想です。FIFAが示す現行のジャッジング・システムの中では、あれが精一杯なのではないでしょうか。

なお、私は常にチームマネージメントに主眼を置いて両チームの対戦を分析する傾向があり、そういった観点から見たスペインは今回得点こそ少なかったものの、あのパスワークの完成度の高さは驚異的と感じる次第です。育成世代からしっかりとしたプログラミングを行わないと成就されないものであり、そういった意味でチームマネージメントの勝利と確信できます。

また、貴殿が提唱してくださった後半の話題については、今後このブログにて追い追い私見を述べさせて頂きたいと存じます。

本当に素晴らしいご意見をお寄せいただき、有難うございました。

小谷泰介 @ 2010年 07月 13日 15:44:30

決勝戦については、フットボールをすることで勝利しようとしたスペインと、フットボールをしないことで結果をわからなくしようとしたオランダ、だという印象を持ちました。オランダは監督がスペインをリスペクトしすぎた、ということではないかな、と思います。その姿勢に選手が引きずられてしまったかなと。
育成の点、スペインは国の施策というより、クラブの素晴らしい育成哲学を、環境(行政含む)が後押ししてきた結果かと思っています。欧州において国が主導する育成としてはむしろフランスとドイツが先進的だったと考えています。日本がフランスの仕組みを参考にしたのは周知ですが、今後ここ10年のドイツの育成もよく学んだ方が良いかと思います。これからの日本において難しいのは教育という視点とスポーツという視点の関係をどう考えるか。学校教育の中でのスポーツと、文化や職業としてのスポーツ。これまでの日本のユース以下において、スポーツというのはあくまで学校教育の中にくくられるものでした。それはそれで独自の方法であり、長所もあるのですが、今後さらに進化させる必要があると思っています。わずかな国土の中にこれだけの人口を抱える国ですから、学校教育の中でスポーツの育成もやっていくというのはある意味、理にかなっていたわけです。しかも先進国として子供たちの競技選択肢が非常に多くある中、競技間での奪い合いではなく、質を高めていくということが求められます。長くなってしまうのでこの辺にしておこうと思いますが、サッカーに限らず、学校教育の中でスポーツの質を向上させることと、クラブチームの育成組織を国や地域がどれだけサポートできるかということが、鍵になるんだろうと思っています。広島はそういう意味で一歩踏み出している印象ですが。

Shar @ 2010年 07月 14日 19:09:20

sharさん

的を射たコメントを有難うございす。なお、返信がかくも遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

日本のスポーツが学校教育と深く結びついて発展してきたことは厳然たる事実であり、現在進行形でもあるわけで、仰るように日本のフットボールの発展の為には、学校と各クラブが共存共栄する道を探るのが理にかなっているかと存じます。
過去の歴史を紐解いても、これほど代表チームに大学卒が選ばれている国は
日本と韓国を於いて他には見当たらず、個人的には日本の大学フットボールが米国のアメリカンフットボールやバスケットのように整備されて、プロ予備軍的な存在としてもっと栄えて行くことが一つの大きな強化策になると考えます。

クラブの有り方としては、広島が早くから育成年代に力を入れて成功を収めているのは事実であり、だからこそあの少ない予算でコストパフォーマンスの高そを維持出来ているのでしょう。貴殿のご意見に賛成です。

ドイツ、フランス、スペイン、アルゼンチン、そしてメキシコ等が育成年代に於いて結果を出している国々かと存じますが、日本はかつては世界の列強に学びつつ発展してきた経緯があり、他国のものを取り入れてそれを更に進化させるのはお家芸であるはずなので、フットボールの育成システムでもその強みを発揮するべきだと強く思う次第です。

今後も、是非色々なご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。

小谷泰介 @ 2010年 07月 31日 16:00:10

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プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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