W杯南ア大会、日本の実況中継はグループリーグ最下位
ワールドカップの熱狂と興奮が冷め遣らぬ15日、日本サッカー協会の原博実強化担当技術委員長は都内の同協会で犬飼基昭会長にワールドカップ南アフリカ大会での日本代表の戦いぶりを総括した報告書を早々と提出したようです。今後はこの報告書などを基に、次期後任監督の人選を出来るだけ早く進める意向だそうですが、本命と目されるビエルサ氏がチリ代表監督続投の意向を示しているようで、そうすんなり簡単には決まりそうにありません。
一刻も早く4年後に向けてのスタートを切りたいという意志は評価致しますが、大事なことは今日までの代表チームの歩みをしっかりと検証し、その進むべき方向性をしっかりと見据えることであります。釈迦に説法かもしれませんが、犬飼会長始め原技術委員長以下、日本丸の舵取りをなさる皆様には信頼にたる海図と狂いのない羅針盤を持った確かな船と、そして優秀な船長と従順な船員達が居て、なおかつ幸運を手繰り寄せてこそ、初めて航海は成功することを肝に銘じていただきたいと存じます。
さて、今回お話申し上げたいことはそんな日本協会の動向とは関係なく、日本の各主要テレビ局が繰り広げたW杯南ア大会の実況中継についてでございます。
はっきりと申し上げて、日本の実況中継はどれもうんざりするほどお粗末なものばかりで、世界の基準で言えば、間違いなくグループリーグ最下位に位置する内容でしょう。
先ず、テレビ局がスポーツの実況の何たるかをどの局も理解出来ていません。スポーツの実況中継は、視聴者が自然と試合の流れに入って行けることに主眼が置かれるべきですが、そのことがフットボールの実況中継で全くといってよいほど出来ていないのです。そしてその原因は、長い歴史を誇るプロ野球中継やゴルフ中継の影響を受けているからだと私は分析している次第です。
野球やゴルフといった競技は、試合の中でプレーのオンとオフの間隔が非常に長く、その場を繋ぐ意味で解説者の存在が必要となります。野球中継を例に取ると、バッテリーがサインを決め、投球モーションに入ってから投げ終えるまでの間しか、或いはバッターがその球を打ってアウトかセーフになるまでの1分間にも満たない間しか、オンプレーの時間はありません。投手が打ち込まれ、監督がベンチを飛び出して投手交代など告げてしまえば、その後約5分間にわたって試合は中断してしまいます。言ってみればそんな牧歌的なゲームスタイルだからこそ、実況担当と解説担当があれやこれやと会話を交わすことで、場を繋ぐわけです。ところが対照的にフットボールのゲームは、オフプレーの時間が極めて短く、流れが寸断される時間も殆どの場合は極めて短いものです。であるにも拘わらず、野球やゴルフ番組と同じ手法で中継をしてしまっているところに全ての元凶があります。
Jリーグが発足する以前のフットボール中継が、歴史と伝統のあるプロ野球中継の影響を受け、その手法をそのまま踏襲してしまっているわけですが、当時はフットボール専門の中継班など存在せず、野球中継班や他のスポーツ中継班が友軍として参加して中継が成されたため、致し方のない部分はあるかと存じます。しかし、だからと言ってW杯に4回連続で出場している国が、いまでも旧態然とした中継を続けていて良いはずがありません。
ご存じの方も多いかと存じますが、本場のフットボール中継は、試合中の実況はコメンテーターと称する一人の人間が実況を担当します。そのコメンテーターは出場選手の詳細なデータとプレースタイルを頭に叩き込んでおり、フットボールの知識と経験を活かしつつ、基本的にはボールの流れを追います。従ってパスが渡る選手の名前を呼んでいるだけの時間帯も少なくありません。スペイン代表のように素早く華麗なパスワークを誇る実況ともなるとその傾向に拍車が掛かり、シュートやファウルプレーといったアクセントとなる場を見計らっては、自らが解説を加えます。90分間誰の手も借りずに、試合中は全て一人きりで実況を伝えるのです。
日本では、この実況を一人で行えるコメンテーターが存在せず、試合の最中に何度も何度も「今のプレーは・・・」と隣にいる解説者に助け舟を求めて試合の流れを寸断してしまいます。解説者は解説をするのが仕事ですから、その振りに対して30秒から最長で1分程度の講釈を垂れるわけですが、キックオフから5秒あればゴールが決まると言われるフットボールのゲームに於いて、この手法が致命的な欠陥を抱えていることはお分かり頂けるかと存じます。悲しいかな、日本はこのナンセンスな実況中継のスタイルを何十年も続けているのです!
一方、本場に於いては日本でいうところの解説陣は試合前、ハーフタイム、そして試合後の3回のみスタジオに登場し、それぞれ戦前予想、ハーフタイムの分析、試合後の総括を行うに止まります。
オランダの場合は、スタジオには司会進行役と2人の元選手達が登場してその役目を果たしており、英国のBBCではドイツ対スペインの準決勝を例に取ると、あのゲリー・リネカーがスタジオの進行役を勤め、解説陣にはレギュラーのアラン・ハンセン氏に加えてリーガ・エスパニョーラでプレー経験のあるセードルフ氏と、元ドイツ代表監督のクリンスマン氏がゲスト解説として顔を揃えるという粋な陣容です。因みに全て流暢な英語でのやり取りで番組は進行します。また、ドイツなどもスタジオ受けは、司会進行役とその試合に因んだ元代表選手1~2名が招かれたりする程度です。彼等の出番にはコマーシャルが入ってきますので、戦前の予想予想、ハーフタイムでの戦評と後半の展望、そして試合後は総括を実に手際良く明解に喋っててくれます。色々な意味で無駄がありませんから、番組が締まってすっきりとしているのです。
日本の場合はどうでしょう。試合進行中に実況担当アナウンサー1名と解説者が多いときには2名もいたり、更にピッチ解説者が加わったりします。そしてハーフタイムには更にもう一人の解説者が加わり、スタジオ受けでは司会進行役が必ず二人いて、そのうちの一人は何故か必ず可愛らしい女性です。そしてそのスタジオではこれでもかと現役代表や元代表の解説者が更に3、4人加わってそれぞれ細切れにコメントを述べさせられますから、じっくりと試合を分析することなど出来るわけがありません。
また、局によっては、フットボール通と称する著名な芸能人がスタジオに複数お目見えし、したり顔で意見を述べたりしています。ひどい場合には芸能人が司会進行役まで務める有様です。
何故、フットボール先進国ではありえないこのような愚かな中継を、日本だけが行っているのでしょうか。フットボール文化がまだ日本に定着していないと言ってしまえばそれまでですが、一つには作り手の視聴率病が挙げられるでしょう。彼らは視聴率と言う亡霊に取り憑かれていて、誰か有名なタレントを突っ込んでおけば視聴率が上がるという幻想を抱いているのです。
W杯ともなれば、例えば一般の日本人にとっては代表選手一人一人がスターであり、ましてやC・ロナウド、メッシ、シャビ、ルーニーといった世界のスーパースターともなれば、多くのフットボールファンが彼等のパフォーマンス見たさにテレビの前に噛り付くのです。今を時めくタレントや贔屓のコメディアン見たさにチャンネルを合わせるわけでは決してないはずです。また、より専門的な詳しい解説をじっくり聞きたいと思うのが自然な発露であるのに、それを作り手が理解出来ていないのです。
こうしたナンセンスな実況中継の手法が改善されれば、日本のフットボール文化の発展に寄与出来るのですが、この嘆かわしい悪弊に一石を投じるテレビ局が現れることを祈るばかりでございます。
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登録日:2010年 07月 16日 18:25:25
コメント
ドイツ対イングランド戦のTBSの実況は酷かったですね、特に。ランパードの幻のゴールがあった後、試合中ずっと「世紀の誤審」だ「〜年前の因縁」がどうだとか、今やってる試合に集中出来ず、嫌な思いをしました。
しかし、本場の実況については今回の記事で初めて知ったので、今まで実況のスタイルに疑問を持っていなかったです…
現状、いかに効率的に視聴者やスポンサーから金を取るかを最優先している民放テレビ局に、そういった人材を育てる体力はないように思えます。BSなんかは韓国からのドラマの買い付けやショッピング番組ばかりで、番組を作る体力すらなくなってしまってるんじゃないかと心配です。
プロレス全盛期を支えた古館伊知郎さんのような実況が、民放の実況に一人でも出てきたら変わるでしょうか?(リアルタイムでは観てませんけど…)
我々 @ 2010年 07月 16日 22:29:04
我々さん
いつも貴重なコメントを有難うございます。なお、返信がかくも遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
仰るようにTV局と新聞社はIT革命の波に飲み込まれようとしていて、今後の存在を危惧する識者の声があるほどですが、中継の貧弱さについては本場と違ってフットボールが視聴率を取れないことが、そもそもの問題であると考えています。もっと放送に工夫を凝らして本物の人材を投入すれば良いのですが、そこは予算との兼ね合いもあり、ジレンマに陥っている部分があるのかなと思う次第です。前回の日本対パラグアイ戦は午前3時半以降の放送にも拘わらず、57%近い視聴率を叩き出しているので、先ずは代表戦の中継を中心に改革を始めて頂きたいものです。
小谷泰介 @ 2010年 07月 31日 16:14:59
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- プロフィール
- 小谷泰介
- 1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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