蹴球長屋


八つぁん  「お~い、熊さん! てーへんだ、てーへんだ!!開けてくれ! 開けてくれい!!」
熊さん   「なんだよ、なんだよ、朝っぱらから騒々しいねえ。ちょっと待っておくんなよ。今、開けるから・・・」
八つぁん  「おう、熊さん。朝早くから申し訳ないけど、とにかくてーへんなんだよ。リ、リヴァプールFCが中国人の実業家に買収されちまうらしいんだ! 香港の投資企業、QSLスポーツを率いるケネス・ファンって奴がね、4月から売りに出されていたリヴァプールを買収するため、同クラブの債権を持ってる英国大手銀行のロイヤル・バンク・オブ・スコットランドと交渉を始めたんだとさ。」
熊さん   「へえ~、中東の政府系ファンドや米国の投資家が過去にプレミアリーグのクラブを買収したことはあるけど、中国人がねえ~。もっともアジアでは既にタクシンていう華僑系のタイの大富豪がマンチェスター・シティを買収したことがあったけ・・・。」
八つぁん  「悔しいじゃねえか、悔しいじゃねえか!中国系のファンドといやぁ、最近レナウン、ラオックス、本間ゴルフと立て続けに日本企業を買収して、こちとら歯がゆい思いをさせられたばかりなのに、今度はおいらのリヴァプールFCだぜ。も~、御免、勘弁、小便とくらあ!」

熊さん   「何だい、一体そりゃあ!? まあ、あたしゃぁ、マンU派だからリヴァプールFCが誰に買われようと何とも思わないが、今の米国人オーナーの、誰だっけ? そうそう、ヒックスとジレットの能無しコンビよりも期待できそうで、いいんじゃないのかい。」
八つぁん  「けっ、冗談じゃないよ!お宅のグレイザーさんよりはましってもんよ!あいつは蹴球をこれっぽっちも愛していないし、マンUを投資の対象としか考えていない輩だよ。何でも蹴球のルールすら分からないような奴だって言うじゃないか!」
熊さん   「何を言ってんだい、八つぁん。無知の知っていってなぁ、分からないなりに現場は全て名伯楽のファーガソンに任せて、しっかり結果を出しているじゃないか。売り上げだって相変わらずの世界一だよ、うちは!しっかり儲けてるしね。お宅みたいに赤字まみれじゃないんだよ!能無しはそっちじゃないのかい。」
八つぁん  「うるせい、うるせい!オーナーの悪口をしに来たんじゃないんだよ、今日は!!おいらのリヴァプールが中国系のファンドに買収されることが気に入らねえのさ!」
熊さん   「その気持ちは分からないでもないがね。」
八つぁん  「だろ~!一体何で中国系ファンドでなきゃいけないんだい。」
熊さん   「でも、ご時勢って奴で、仕方ないんじゃないのかい。それにケネスってのはスポーツに明るくて、リヴァプールが抱えるRBSに対する債務を一掃することや、ホジソン新監督に移籍市場用の資金を提供することを提案しているっていうじゃないか。それに棚上げ状態だった新スタジアムの建設計画にも着手するとか・・・。もし、買収が上手くいったら、お宅にとって良いこと尽くめじゃないのかい。」
八つぁん  「そりゃあそうだけど、違うんだよ、熊さん。おいらはねぇ、何で日本の大企業や投資家グループが動かないのかが、歯がゆくってしょうがなえんだよ!W杯に一度も行っていないタイや中国の投資家が出来て、何で日本人が出来ないのさ!」
熊さん   「なあ~るほどぉ。そういやぁあ、本場で日系企業がオーナーのクラブはフランス2部のグルノーブルくらいのもんだからなあ。それも2億円くらいで叩き売りしてたのを安いからって買ったって話しだよ。あまりときめく話しじゃなかったし、本場では殆ど注目されなかったっけ・・・。あとはイングランドのプリマス・アーガイルに日系企業が投資しているってのは聞いたことがあるけど、こちらもチームは実質4部でサッパリだしねえ。」
八つぁん  「何で日本の大企業や投資家達の目が本場の蹴球に目がいかないんだろうか。経済が低調とはいえ、日本は依然として世界第2位の経済大国だし、買われるばっかりで、買うといった景気のいい話しが聞こえてこないのは淋しいもんだ。ソフトバンク、マンUを2000億円で買収!なんて話しをド~ンとぶち上げてもらいたいもんだね、熊さんよ。」
熊さん   「そんな話しならこちとらも大歓迎だけど、やっぱり、まだ日本では蹴球が文化として定着していないんだろうなあ。」
八つぁん  「そういうこった!なんて言ったらこれで話が終わっちまうけど、クラブの買収劇が繰り広げられる度につくづく思うのは、基本的に奴さんたちはクラブを強くするノウハウなんか持っちゃあいないね。天下のマンUだって、ファーガソン引退後が安泰かと言えば決してそうじゃないし、マンCを買収したUAEのファンドなんかは大金を注ぎ込んでも未だにタイトルを獲得出来やしない。」
熊さん   「その典型はレアル・マドリーのペレス会長だというね。以前、会長だった時に政府とつるんだ不動産ビジネスでクラブの借金を帳消しにしたまでは良かったけど、結局銀河系軍団と言われたチームはタイトルと縁がなかったっけ。昨季、会長職に復帰してカカとC・ロナウドをアッと言う移籍金で獲得したけど、結局また無冠ってのもいただけないね。アブラモビッチみたいにチェルシー愛で採算を度外視して強くした例もあるけど、極めて特殊ってもんだよ、あれは。」
八つぁん  「オーナー筋にクラブ強化のノウハウがないのは日本も同じだね。稲盛さんが経営の神様か何かしらねえが、京都サンガの費用対効果ときたらお粗末なものよ。また落っこちるぜ、あそこは。」
熊さん   「それを言うなら熊さん、天下のトヨタの名古屋グランパスだろう。今季こそ好調だけど、あそこほど金を使っておきながら、優勝に縁がないチームも珍しいってもんだ。浦和の比じゃないね。それと、横浜マリノスも褒められたもんじゃないなあ。」
八つぁん  「結局のところ、古今東西、いかなる富豪や政商といわれた人物でも、蹴球チームを強くするノウハウは持っている人はいないってこった。」       
熊さん   「それは言えてるね! おう、それより珍しく話しがあったところで、どうだい?これからうちら長屋のご贔屓クラブ、FC東京の練習でも見学に行かないかい!?」
八つぁん  「合点承知之介!!」
熊さん   「いいねぇ~。長谷部選手じゃねえが、やっぱ蹴球長屋の住民はJリーグを盛り上げなくっちゃあいけねえってもんよ!」

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登録日:2010年 08月 07日 03:23:36

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プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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