良い監督の条件 ②
前回は私の考える良い監督の条件の中から、「フットボールを心から愛していること」と「人間性に優れ、信頼に足る人物であること」について補足させていただきましたが、今回はその続きです。
まず、3番目の条件である「強運の持ち主であること」について。
これも大変に重要な条件と私は考えています。例えば、フットボールに限らず、古今東西、あらゆる競技のスポーツ監督の優勝歴を調べてみると、勝つ監督は 何度も勝っていて、殆どの監督がタイトルに縁の無いままそのキャリアを終えていることが判明します。勝ち運とでも言ったら良いのでしょうか、監督は強運の星の下に生まれなければ、名将の仲間入りは出来ないということになります。
現在のJ1の監督でJのタイトルを獲得しているのは、ガンバ大阪の西野氏とブッフバルト氏だけです。今期が終了するとこれに鹿島のアウトゥオリかアマ ル・オシムのどちらかが加わるのですが、この両氏はいずれも母国では既にタイトルを獲得しており、複数回優勝経験者ということになります。西野氏もブッフバルト氏もJ1では2つずつタイトルを獲得しているので、今のJ1を例に取っても勝つ監督は何度も勝つという方程式が当てはまるのです。
また次のような事例もあります。
私の友人のトーマス・シャーフは、1999年にヴェルダー・ブレーメンの1軍監督にシーズン途中で就任したのですが、チーム自体は2部降格の危機にさらされていたにもかかわらず、その時点で既にドイツカップの決勝戦でバイエルン・ミュンヘンと戦うことが決まっていました。
確か就任後僅か数試合目のことだったと思うのですが、何とその決勝戦でブレーメンはPK戦の末、バイエルンを破ってしまったのです。
この試合で勝つことイコール、シャーフは勝ち運があるということになりますから、私はこの朗報に小踊りして喜んだものです。
案の定、シャーフはその後チームを着実に強化し、2003~04のシーズンにはリーグとカップのダブルを見事に獲得。名将の仲間入りを果たしています。
一方、それと対照的なのが、今季ジュビロを辞任した山本監督です。
彼も2004年10月にシーズン途中で監督に就任したのですが、その年の天皇杯決勝まで駒を進めました。私自身、山本氏がタイトルを獲得出来るか否かに 大いに注目していましたが、その結果はと言うと敗北に終わり、その後チームは低迷を続けたまま、辞任を余儀なくされます。
山本監督につくづく運がないなと思うのは、決勝の相手がリーグ下位に沈むヴェルディ東京であったにもかかわらず、勝てなかったこと。そしてそのヴェル ディには、山本氏がアテネ五輪監督時代に起用しなかった平本選手がいて、その平本選手が山本監督憎しのモチベーションで大活躍し、結局彼一人にやられた格好になった点であります。
時期尚早だとお叱りを受けるかもしれませんが、私は天皇杯を獲得出来なかった時点で、山本昌邦氏は一流の監督となる条件の強運の運持ち主ではないと判断せざるを得ませんでした。
お断りをしておかなければならないのは、私は山本氏は好きな方ですし、人間的にも尊敬申し上げる方で、彼の人格や才能を否定しているのでは全くありません。
余談ではございますが、同氏は監督の補佐的な立場としてその実力を発揮するタイプの人間であると判断しています。
4つ目の条件となる「ある程度の経験を積み、実績を残していること。」についてですが、これは読んで字の如くであります。
良い監督はどんな状況下でもある程度の結果を残しますし、結果を残せる人物が良い監督であるということです。因みに、新人の場合は5年を目安に結果を出せるか否かを判断すべきだと思います。
5つ目の「向上心に溢れ、勉強熱心であること」についてですが、サッカーは生きものであり、フットボールの先進世界は日々刻々と変化しているので、常にアンテナを張り巡らせ、情報収集に精を出さなければ取り残されてしまいます。
オシム監督が寝る時間を惜しんで、四六時中世界の主要リーグや大会のテレビ中継をチェックしているのもその為ですし、彼の持っている旧ユーゴスラビアのコネクションや情報量は膨大で、大きな武器となっているのです。
また、元清水エスパルスのゼムノヴィッチ氏は、かつてロブソン監督時代にイングランド代表がベオグラードを訪れた際、非公開のトレーニングを見学する為に、地元テレビクルーのケーブルマンに成りすまして現場に潜り込んだといいます。
いずれにしましても、日々進化、発展、膨張を続けるフットボール界に於いて、これが正解という指導法がないだけに、いかに情熱を持って情報収集に勤しみ、ネットワークを広げていけるかが大切なことは間違いありません。
6番目の「本場の主流たるライセンスを取得していること」以降に関しましては、次回補足させていただきますので、悪しからずご了承下さい。
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登録日:2006年 09月 26日 19:14:35
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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