どんどん出てゆ行け!


本場欧州の移籍市場が閉まる直前になって、浦和レッズの阿部選手にイングランドのレスター・シティから、またアルビレックス新潟の矢野選手にはドイツのフライブルグから相次いで正式なオッファーが届きました。

阿部選手の場合は、世界で最も基準が厳しいと言われる英国のフットボール選手向けの就労ビザさえ特例で発行されればめでたく移籍完了となり、矢野選手の場合は身体検査を含めた条件面での交渉がまとまれば、これまた移籍の運びとなるようです。

阿部選手の移籍予定先であるレスター・シティは、実質2部リーグに当たるチャンピオンシップに所属しますが、イングランドでは1884年創立の名門として知られ、古くはイングランド代表のゴードン・バンクス選手やピーター・シルトン選手、又あのギャリー・リネカー選手を輩出したクラブとして夙に有名です。1部と2部をしょっちゅう行き来しているクラブではありますが、リーグカップ優勝3回、FAカップ準優勝4回を誇り、シーソーチームらしい2部リーグ優勝7回という記録も保持しています。実はこのクラブは最近タイ王国のキングパワーという財閥に買収されていて、今季のプレミアシップ昇格は大命題となっており、さしずめ阿部選手は昇格請負人として期待されていると断言して良いでしょう。

一方の矢野選手の獲得を目指すフライブルグは、浦和レッズのフィンケ監督が長年指揮を執ったクラブとして知られていますが、このクラブの今季の大命題は何と言ってもブンデスリーガ1部の残留です。1部昇格を果たした昨季は何とか14位で残留しましたが、今季も降格候補の筆頭に名を連ね、先日行われた開幕戦も昇格組のザンクト・パウリにホームで1対3と敗れ去っています。下位チームに付き物の得点力不足は深刻で、矢野選手は当然のことながら、点取り屋としての期待が掛かっています。

昇格と残留という目標こそ違え、両クラブは切り札として彼等を迎え入れようとしており、阿部、矢野両選手にとっては非常にやり甲斐のある舞台が待っていると言えるでしょう。

もし、彼等の移籍が無事完了すると、W杯後に川島、長友、香川、内田、巻、阿部、矢野という7人の日本人選手が新たに欧州でプレーすることになり、既存の松井、長谷部、本田、森本、小林、相馬、吉田各選手を加えると大量14人の選手がフットボールの本場で活躍の場を求めるという望ましい状況になります。

私は、プロのフットボール選手となったからには本場欧州を目指すべきであり、その結果が日本のフットボールの発展と代表の強化に繫がるという見解の持ち主なので、日本人選手の欧州移籍が「望ましい」と表現致しましたが、その大きな根拠の一つは、W杯の本大会に出場してくる殆どの国がそういった状況下にあるからです。イングランド、スペイン、イタリア、ドイツには世界に冠たるトップリーグがあるため、あまり海外に出て行く選手はいませんが、王国ブラジルを筆頭にアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリといった南米の全ての強豪国、また欧州ではフランス、オランダ、ポルトガル、デンマーク、セルビア、チェコといった列強、またオーストラリアとアメリカといった他圏の強国も主力選手は皆本場欧州でプレーをしています。

また、ナイジェリア、ガーナ、コートジボアール、カメルーンといったアフリカの雄達も、代表選手の殆どが欧州出稼ぎ組で構成されていることは常識です。

弊害が全くないとは言いませんが、やはりフットボール文化が発祥し、大きく発展した本場に身を置くことで得られるものは多岐にわたり、多額な報酬に止まらず、本場のピッチには選手として成長することに必要な要素全てが転がっていると言っても過言ではありません。望まれての移籍ならば「どんどん出て行け!」と申し上げたいと存じます。

Jリーグが空洞化するという意見もありますが、スター選手がどんどん引き抜かれていっても次から次へと有望な若手が沸いて出てくる状況を作ってこそフットボール大国の仲間入りが果たせるわけで、泣き言を言っている場合ではないはずです。W杯優勝5回を誇る世界一のフットボール大国であるブラジルは、これまで世界中のトップクラブの草刈場であり続けましたが、王国の名前が揺らぐことはありませんでした。アルゼンチンも然りですし、日本代表は今後暫くガチンコの試合に関しては、欧州移籍組6割と国内組4割位の割合で構成されたチームで戦って行くことが肝要ではないかと考える次第です。

しかし、それにしてもW杯でベスト16に名を連ねたことの効果は絶大で、こんなにも多くの日本人選手に本場から正真正銘の助っ人としてのオッファーが届くとは想像していませんでした。とにかく、移籍が叶った選手達には文字通り日本の代表として期待に応えるべく全力を尽くして頂きたいと存じます。

また、本場欧州クラブのスカウト陣が実に広範囲にわたって選手を見ていることが直近の移籍劇を見ていると分かりますが、その情報収集力と眼力には下を巻くばかりです。香川、内田、巻、矢野の4選手は先のW杯以前の働きが認められた結果であり、米国のメジャーリーグも然りですが、プロの歴史の長いところには優秀なスカウト網ありといったところでしょうか。J リーグ各クラブも自国の優秀な選手の発掘と共に、良質な外国籍選手の獲得の為にはスカウト網の充実は急務であり、それがJリーグの発展に繫がることも間違いありません。

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登録日:2010年 08月 27日 18:35:24

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プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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