良い監督の条件 ④

 良い監督の条件について、今暫くお付き合い願います。

 今回は7番目の「攻撃的フットボールを標榜するだけではなく、実践かつ具現していること」について。

 古今東西、監督の就任会見でどのようなフットボールを目指しますかという記者の質問に対し、多くの監督が攻撃的なとか、スペクタクルなといった形容詞をよく口にします。

 「うちのクラブは選手のレベルが低いし、選手層が薄いので、とりあえずガチガチに守って、カウンター1本で行きます!」などと口が裂けても言いません。

 監督の所信表明の席上には、攻撃的とか、魅力的なといった形容詞を口にしないといけないような雰囲気と申しましょうか、お題目のように唱えていればとりあえずは許されるような空気が流れています。

 しかし、実際にアタッキング・フットボールを自分のチームに実践させている監督は、ほんのひと握りに過ぎません。

 私が日頃常々感じていることは、監督は皆、攻撃的スタイルを頭の中でイメージは出来ますし、戦術的にも解説は出来るのですが、その多くが選手に伝える具体的で明確なトレーニング方法を知らないのです。

 考えてもみて下さい。オシム氏が日本代表の監督に就任してから、スポーツ紙や専門誌でやたらに、同監督のトレーニング方法についての解説や、分析が増えたのは何故でしょう。

 今までそんなトレーニングを日本では誰もやっていなかったからであり、トレーニングを分析することでしか、オシム氏のフットボールを語れないからです。 フィジカル面でも、ジェフの選手は当初、こんな練習やってらんねえよとか、きつすぎるとか、休みたい等々、悪評紛々だったと聞きます。

 また、ゼムノヴィッチ氏が清水エスパルスを率いていた最初のシーズンに、チーム・ドクターがオーバー・トレーニング気味ではないかとクレームをつけたとか・・・。

 しかし、「走り過ぎて死んだ人はいない。」というオシム語録があるように、伝統的にフィジカルがきついのがベオグラード体育大学を卒業した指導者の特徴なのです。

 そして、それらの指導者に率いられたチームは、いつの間にか体が勝手に動くと言いましょうか、攻撃的なスタイルが自然と身に付いてしまうのです。

 ジェフ市原は勿論のこと、2000年にバビチ監督が率いた水戸ホーリーホック、2001年、2002年とゼムノヴィッチが率いた清水エスパルスは、それぞれクラブの予算も違えば、選手の層も質も違いますが、押し並べて似たスタイルのアタッキング・フットボールを展開しました。また、バクスター監督時代のサンフレッチェ広島と、ベンゲル監督時代の名古屋グランパスにも全く同じことが言えます。

 それらのチームの特筆すべきことは、失点はさておき、得点がとにかく多いということ。3点、4点、5点を入れて勝つ試合が少なくないのです。実にわかりやすく、有無を言わせません。(注: バビチ監督が率いた水戸ホーリーホックだけは得点数が突出して多いということはないのですが、何しろ当時は総予算が1億数千万円という超清貧球団でしたのでクオリティー・プレイヤーがおらず、致し方のないところ。しかしそのプレースタイルだけは、アタッキング・フットボールを貫いていました。)

 また海外に目を向けると、今ドイツで一番良いパフォーマンスを見せているといわれるヴェルダー・ブレーメンですが、昨シーズンのリーグ総得点数はダントツの79点で、2位のバイエルン(67点)を大きく引き離しています。これは1試合平均約2.3ゴールという驚異的な数字であり、欧州のトップリーグの中でも最高値です。

 因みに昨季ブンデスリーガで優勝したバイエルンは年間約180万ユーロでクラブを運営しているのに対して、2位のブレーメンは70万ユーロですから、い かにトーマス・シャーフの指導力が優れているか、また、攻撃的なフットボールを展開しているかが、お分かりいただけると思います。

 同クラブは今年のチャンチオンズ・リーグでも、チェルシーやバルセロナという超ビッグクラブを相手に、まだ勝星こそあげられませんが、彼等のお株を奪うようなアタッキング・フットボールを披露してくれています。

 その点で言うと、Jリーグのヴァンフォーレ甲府なども、低予算でJ1では厳しい運営を強いられているクラブですが、終始攻撃的姿勢を貫こうとしており、かつての水戸ホーリーホックのように評価の対象となるべきでしょう。

 いずれにしましても、アタッキング・フットボールは「言うは易し、行うは難し」の典型的な例であり、その是非が監督の手に委ねられていることは間違いありません。

 このブログを御覧いただいている皆様の中にも、あの時代のあの人に率いられたクラブは攻撃的フットボールを体現していたという意見があれば、是非御紹介いただきたいと存じます。

 次回は、「良い監督の条件」の最終回ということで、心理学者、哲学者的素養があること、調教師的センスを持ち合わせていることについて持論を展開させていただきます。

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登録日:2006年 10月 04日 15:49:57

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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