アジア杯開幕!ヨルダン代表選手の気迫に想う


ザッケローニ監督就任ご初の公式大会となるアジア杯がいよいよ開幕しました。

日本の初戦となった対ヨルダン戦は、苦戦の末の引き分けに終わりましたが、相手が守備的布陣、或いは日本の攻撃を警戒した布陣で臨んで来た際には、今の代表チームではそう簡単に点が取れないのではという懸念が湧き起こった試合でした。

しかし、ザッケローニ丸はまだ船出したばかりであり、今大会はコンディションや負傷者等の不利な条件が重なっていることを考慮すれば、ヨルダン戦の結果を悲観する必要はないでしょう。また、試合後のザッケローニ氏の会見からは、的確な試合分析をしていること、そして勝つためにカタールに来ていることも分かり、私は当分の間はお手並み拝見と決め込んでいます。

但し、私が対ヨルダン戦を観戦して非常に気になることがあったことも否めません。それは日本代表選手とヨルダン代表選手の気迫、ガッツの違いでありす。言うまでもなく、ヨルダン代表選手の気迫が日本代表選手のそれを大きく上回っていたわけですが、この差はいったいどこから来るのかということです。

ご存知かとは思いますが、ヨルダンは人口650万人に満たない中東の小国ですが、サウジアラビアやカタールのように潤沢なオイルマネーを持たない国ですから、フットボールの代表チームにアフリカ人や南米人を帰化させるという強化の荒業も行なっていません。日本人には馴染みの薄い国ですし、日本代表も過去に同じアジア杯で一度戦ったきりですが、その際も引分に持ち込まれ、大苦戦の末に日本がPK戦をものにしています。

そんな中東の小国ヨルダンを相手に、何故日本が苦戦を強いられねばならないのでしょうか。もともと日本が、中東勢を苦手としているから?或いは日本にオイルマネーがないから?それともヨルダンが、2004年のアジア杯準々決勝敗退の雪辱に燃えていたから?私はいずれも正解ではないと思う次第です。

Jリーグ発足以降、日本代表が負け越している中東諸国はありませんし、日本代表にオイルマネーの恩恵はなくとも、キリンやアディダスのような大口のスポンサーがついています。日本協会は世界でも有数の潤った協会のひとつなのです。また、2004年アジア杯の雪辱を期する部分は無きにしも非ずでしょうが、6年も前のことですし、ドーハの悲劇のように何かが掛かっていた試合ではなかったわけですから、それが全てということはまずないでしょう。

では、何があのようにヨルダンの選手達を突き動かしていたのでしょう。試合前に円陣を組んでいる時からして彼等の形相が違っていましたし、90分を通してフォアチェックを貫いたあのガッツはどこから来るのでしょう。確かに試合を分析すれば、ボールポゼッションが68%対32%、シュート数は17対7(枠内シュートは7対2)と日本が圧倒しています。しかし、日本代表が相手のペースにはまってしまった試合であることは否定出来ず、ヨルダン代表選手が非常に良く訓練され、ゲームプラン通りに試合を推し進めたこともまた、否定出来ません。しかし、それ以上にヨルダン代表選手を突き動かしている何かが、先日の日本代表を苦しめたと思えて仕方がないのです。

例えば、韓国代表が日本代表と戦う時は、W杯出場8回を誇るアジアの盟主としてのプライドや、かつて宗主国であった日本に対する朝鮮民族の怨念、意地といったメンタルな部分が大きく作用し、彼らを突き動かします。また、イングランド代表とアルゼンチン代表は、W杯に於いて様々な死闘を繰り広げてきたばかりでなく、何故かハンドや退場者をめぐる疑惑の判定がついてまわる歴史がある故に、両者とも嫌が上でも盛り上がります。そしてドイツ代表とイングランド代表の選手達がW杯等で戦う時もそうであるように、先日のヨルダン代表選手には日本代表選手にない、彼らを突き動かす何かがあったと思えて仕方がないのです。実際にピッチで対戦した長谷部選手も、試合後のインタビューで気迫の違いを認めた発言をしているので、かなり信憑性のあることだと思います。

そしてあくまで仮説ではございますが、私はヨルダン国民の半数余り(7割強という説もあります)がパレスチナ難民で構成されていることに鍵があると思うに至った次第です。パレスチナ難民とは、1948年にイスラエルが建国されたことによって住んでいる土地を追われ、周辺地域に逃れた人とその子孫のことを指しますが、その流浪の民が抱える故国への想いや、虐げられた歴史を持つ民族の怨念が今尚、根強く渦巻いているとしても何ら不思議はありません。そしてヨルダン代表選手の中にパレスチナ難民やその子孫が半数以上いると考えるのは極自然であり、彼らが国際大会であるアジア杯のピッチの上で、同胞に対するメッセージや、難民とならざるを得なかった政治的背景に対する抗議のメッセージを発しても、これまた何ら不思議のないことだと思うのです。

彼らは民族の誇りを背負って戦っていると言っても良いと思いますし、そのモチベーションが日本代表を苦しめた大きな要因となっていたのではないでしょうか。奇しくも前回大会優勝のイラクも戦禍の傷跡が残り、自爆テロの絶えない非常事態化に置かれた国であります。彼らが国民を鼓舞するために戦った可能性は否定出来ず、少なくとも優勝の要因の一つであることは間違いなでしょう。

翻って、日本代表の選手達ですが、率直に申し上げてその手のモチベーションが希薄であることは否めません。それは、戦後の歴史を紐解けば解ることで、他国に自国の防衛を委ね、長らく経済立国として平穏無事な年月を享受してきたのですから、自国民族に対する想いや、国家存亡の危機感とは無縁に近い環境が出来上がって当然なのです。高度成長期以降、昭和元禄という言葉や、平和ボケという表現がマスコミを賑わした事実こそがその証拠ですし、今の日本代表選手達は、そんな環境下で生まれ育ったのですから推して知るべし。彼等に罪は全くありませんが、土俵に乗った時点で、既にモチベーション上の開きがあったと私は考える次第です。

平和であることは素晴らしいことですし、非常事態下や戦時下にいることが良いわけがありません。但し、スポーツの国際大会では、往々にして前述のようなモチベーションを持って試合に臨んでくる国があることを知り、その対策を練る必要はあるでしょう。近代に於ける日本国民の多くは、信仰心が希薄であることも、この問題には大きく関与しているのですが、例えば、若者の憧れであり、大きな関心事である日本代表選手は青少年の手本となることを常日頃強く説き、平和国家日本の騎手たれと教育することも肝要かと考える次第です。

スポーツは文化であり、ゲームなので、本来民族意識や国威の掲揚に利用すべきではないものなのかもしれませんが、現実は直視せねばなりません。実際、ヨルダン代表の選手達はパレスチナ難民の総意を胸に、日本との試合を戦っていたのかも知れないのですから。

明日は同じ中東のシリアとの対戦ですが、彼等もサウジアラビアを倒して意気軒高の曲者であります。月並みな表現かも知れませんが、気持ちの部分だけは負けないように闘って欲しいと願う次第です。

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登録日:2011年 01月 12日 12:46:15

コメント

小谷様
現代表選手が幼児だったであろう1990年アジア大会男子サッカー深夜のNHK中継で中東勢に敗北して悔し涙を隠すためドリンクを頭に流す三浦カズ選手の姿を思い出しました。そして当時のサッカーファンもがっかりしていました。そういう時代がありました。本場イタリアの名門クラブを指揮してきた人を招聘っできる時代に
なりました。いい時代に甘んじずに、強化してサッカー界がアジアの盟主になってもらいたいです。

サッカーのある生活 @ 2011年 01月 13日 19:34:57

御無沙汰してます小谷さん。
長らく書き込みを疎かにしてしまいすみませんでした。

小谷さんのブログに長らく書き込みできなかった理由といたしましては、単に僕の仕事が怒涛のように忙しくなってしまい、書き込みできる時間が中々確保できなかったことが要因です。

さて急に話を本題に移させていただき恐縮ですが、僕もこの前のヨルダン戦を見ていました。そして小谷さんの仰るとおり、日本代表よりもヨルダン代表の気迫の方が勝っていたと思います。

最後のロスタイムでヨルダンは失点しましたが、それまではGKを初めとした選手11人全員がかなりの集中力を発揮していましたし、試合を見てても点が入る気配を殆ど感じさせないほど、凄まじい物だったと思います。

それと比べ我が日本代表はと言うと、ボール支配率・シュート数は大きくヨルダンを上回っているのですが、何か見ていて全体的に「軽いなぁ~」と感じました。
去年行われたアルゼンチン戦・韓国戦の気迫と比べると、どうもその差が激しいように感じます。

僕は個人的に、政治及び歴史とスポーツは完全に切り離されて行われるべきだと考えていますが、小谷さんの言うように、いざ現実を直視した時には、そう綺麗事を言っている場合ではないのかもしれませんね。

もう数時間後にはシリア戦が始まりますが、相手はかなりモチベーションが高まっていると思うので、それに負けないよう日本代表の選手達の健闘を祈りたいと思います。

ボン @ 2011年 01月 13日 23:03:04

サッカーのある生活さん

コメントを有り難うございます。また、かくも返信が遅れましたことを深くお詫び申し上げます。

ザッケローニ丸は、まだ長い航海のスタートを切ったばかりで、このアジア杯は初の外洋航海といったところでしょう。2014年W杯で本当の意味で世界を驚かす為には、正確な航海図と確かな羅針盤を手に、名船長が船員を号令一家の下指揮して行かねばなりませんが、ザッケローニ監督はやってくれそうな気配を感じます。期待致しましょう!


ボンさん

お久し振りです!お元気そうで何よりですが、男は一生の中で何度かは無我夢中デ仕事に没頭せねばならない時期があるもので、忙しいのは何よりかと存じます。但し、健康管理には留意なさって下さいね。

また、時間があったときで結構ですので、コメントをお寄せ下さい。

小谷泰介 @ 2011年 01月 27日 23:40:16

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プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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