《W杯ドイツ大会仮想報告》

 皆様、ただ今よりW杯ドイツ大会の報告会を始めさせていただきたいと存じます。

 私は本日のレポーターを務めさせていただきます日本サッカー協会専務理事の小嶋泰三でございます。大会期間中は強化委員長という立場にあったため、その責任上、本来このような話しが出来る立場にはございません。しかし、何故か専務理事に栄転、昇進致しましたので、今回の大役を務めさせて頂くことをご了承いただきたいと存じます。

 
 では、早速本題に入らせていただきますが、今大会の報告をする前にドイツ大会までの4年間に起こった出来事を振り返らせていただきたいと存じます。何故ならば、ドイツ大会のみに照準を合わせて試合やチームのことだけを論じるのは、木を見て森を見ぬことになると強く思うからです。そして何よりもその作業なくしては今回の惨敗の理由も、責任の所在も語れないからでございます。

 まず協会の技術委員会は自国開催の前回大会終了後、その反省を踏まえ、今回のW杯では前回を上回るベスト8、悪くとも前回同様の予選リーグ突破という目標を掲げました。

 前回大会の監督はフランス人のフィリップ・トルシエ氏ですが、彼はかの名将であるアーセン・ベンゲル氏に恋焦がれて追い求めた結果、巡り会えた指導者です。ご存知のように近代サッカーに於けるフランス人指導者の評価は高く、前述のベンゲル氏やW杯フランス大会優勝監督のエメ・ジャケ氏を筆頭に現リヨン監督のウリエ氏、’02年大会でセネガル代表を率いたメツ監督、現レンジャーズFC監督のルグエン氏、現ユベントス監督のデシャン氏、現トットナム監督のサンティニ氏等々、実力派が目白押しで、トルシエ氏もそんなフランス人指導者の陣列の中にいる一人であります。

 トルシエのはじめにシステムありきの指導法は、近代サッカーの流れを汲むものでしたし、スター選手の実力に頼るのではなく、あくまでも組織力を重視する戦略は日本人の目指すべきフットボールとベクトルがあっていたと思います。戸田や明神といったいわゆる水を運ぶ選手を好んで起用していたのもその表れではないでしょうか。

 とにかくトルシエ・ジャパンはグループリーグ1位突破という開催国の代表チームとして恥ずかしくない成績とパフォーマンスを収めてくれました。欲を言えばトルコに勝ってベスト8に駒を進めて欲しかったと思いますが、そのトルコが敵地で韓国を破って3位の成績を収めたことを考慮すればそれは高望みなのかもしれません。しかし、一方でその采配からもトルコ戦はトルシエ氏の指導者としての限界が垣間見えた試合でもありました。

 また、トルシエは個性が強く、時としてその奇癖とも取れる言動が、マスコミの格好のターゲットとなっていました。そして、好むと好まざるに関わらず、彼を巡る幾多のトラブルが発生したのは事実であることも考慮し、技術委員会は彼の更迭を決定。次の4年間をトルシエの流れを汲む、より良い指導者に託すことを決定したのです。

 技術委員会はそのために監督候補のリストを作成しましたが、そこに名を連ねたのはアーセン・ベンゲルを筆頭に、エメ・ジャケ、ブルーノ・メツ等のフランス人指導者達が中心でした。ご存知のように近代フットボールに於いてフランスは旧ユーゴ、ドイツ、スペイン、イタリア、オランダといった国々と並んでコーチング先進国であり、世界的な指導者を多く輩出しております。委員会はトルシエに続き、世界のコーチングの潮流に乗った指導者をリストアップしたつもりでした。また、その自負もございました。即ち、その段階では日本丸の操舵室の乗員達は、海図と睨めっこをし、気象状況や航海日誌を参考に、少なくとも目指す目的地とそう違わない進路へと舵を取りつつあったと確信致します。

 しかし、まさにキャプテンこと川淵三郎船長が突然操舵室にやってきて、そこへ行くのならこの航路を行けば良いのだと舵をあらぬ方向へと切ってしまったのです。

 それは言うまでもなく、川淵キャプテン主導のジーコ氏への監督就任要請事件のことを差します。(つづく)

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登録日:2006年 11月 21日 20:21:43

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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