誰も書かなかった浦和レッズ 世界一熱いサポーターと世界一臆病なチーム

「誰も書かなかった」という表現は少々大袈裟とは思いますが、評論家の方々や新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等のメディアに限って言えばということで、ご了承下さい。
さて、まずこのブログを書き始めるにあたり、私は浦和レッズサポーターの応援は賛嘆に値しますが、肝心の今のチーム自体のパフォーマンスは軽蔑に値すると思っていることを宣言致したいと存じます。
その理由ですが、まず、サポーターに関しては今さら私が言うまでもないでしょう。真っ赤に染まったスタンドと統一感のある野太い声の応援(ちょっと画一的かなとは思いますが)、そして平均40000人もの人々がホームゲームごとに足を運ぶという事実と、度々アウェーゲームで質量ともにホームチームを圧倒する応援風景は、本場でもなかなかお目にかかることは出来ません。ある部分では浦和レッズのサポーターは世界一と申し上げても良いと常日頃感じております。そして総合的にも間違いなく世界のベスト10に入る素晴らしいサポーターだと思います。
そのようなサポーターが育ったのは、Jリーグ開幕に際して浦和をホームタウンに選んだチーム関係者に先見の明があったということに加えて、地元ありきの徹底した草の根的かつ地道な広報活動が功を奏したのだと思います。
また私の知る限り、日本を訪れて浦和レッズサポーターの応援を目の当たりにした本場のフットボール関係者は皆、異口同音に素晴らしいと褒め称えていることを付け加えておきましょう。
では、何故そんな世界一のサポーターが後押しするチームのパフォーマンスが軽蔑に値すると思うのか。
それは全て格下の相手であるにもかかわらず、臆病なフットボールに終始しているからです。横綱であるにもかかわらず、しょっちゅう待ったを掛け、桁繰りや肩透かしを連発するとでも言ったら良いのでしょうか。とにかく見ていて苛立たしいのです。
考えてみても下さい。浦和レッズの60億円という運営費はJリーグにあって、他を圧倒しており、その選手層の厚さは他クラブの羨望の的となっています。その収入は2位となった川崎フロンターレのちょうど3倍(勝ち点さは僅かに5!)、そして福岡、大分、甲府の3チーム分のそれを凌駕しているのです。また、ワシントン、ポンテ、ネネのブラジル人トリオに加え、三都主、闘莉王の日本代表帰化組を加えた布陣は実質5人の外国籍選手を抱えていることになりますし、日本人選手も鈴木、長谷部、坪井、田中達也、山田、小野、山岸と代表クラスがズラリと顔を揃えています。なにしろ、小野、永井、酒井、岡野、都築といった選手がベンチを暖めているのですから、その陣容はまさに綺羅星のタレント軍団そのものであります。そして恐らくはワシントン選手1人の年俸で、甲府のピッチに立っている選手全員の年俸が賄えてしまうのですから、大変な財力のあるクラブであることも間違いありません。
しかし、私はそのことを非難しているのではありません。恐らくは血の滲むような企業努力をした結果勝ち得た資金でしょうし、それを使ってタレントを揃えるのはフットボールというエンターテイメントを追求するビジネスに於いては常套手段であり大いに結構なことです。問題はそのタレント軍団の繰り広げるパフォーマンスと、結果(数字)なのです。
例えば、再三このブログで引き合いに出しているブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメンの年間収入は110億円に満たない規模なのですが、その2倍をゆうに超える275億円のバイエルン・ミュンヘンを相手に、ここ数年に限って言えばリーグ戦で五分の対戦成績を残しています。また、その際のパフォーマンスも、引いて守ってカウンターというパターンではなく打ち合いの末に勝利をもぎ取っており、シーズンの総得点数も上回っています。
また、今季のチャンピオンズリーグに於いてもブレーメンは、3倍近くの収入を誇るチェルシーやバルセロナを向こうに回して堂々と渡り合っており、そのコストパフォーマンスと成績、そしてエンターテイメント性という点に於いて申し分のない結果を残しているクラブということになります。
一方、ブレーメンとの引き合いに出された潤沢な資金を有するバイエルン、チェルシー、バルセロナですが、何だかんだ言われながらいずれも昨年、一昨年ときっちりリーグ連覇プラスアルファを成し遂げており、横綱の対面は保っています。
そういった観点から浦和レッズを捉えると、ここ数年間に渡ってリーグでダントツの資金力とスター軍団を擁しながら、リーグ優勝の経験はないは、リスクを犯さない守備重視の戦術を採るはで、実に臆病なチームといわざるを得ません。
攻撃は、驚異的な決定率を誇るポストプレイヤーのワシントン、攻撃的センス抜群のトップ下ポンテを軸に、危険なドリブルとキックの達人三都主や山田等がその圧倒的な個人技で相手を1対1で崩すことを前提に組み立てられ、長谷部や鈴木、そして闘莉王らがそれにアクセントを付けています。どんな場合でもどんな相手にも守備で常に数的優位を保とうとし、攻撃に人数を割こうとしません。リーグでダントツの資金力とタレントを揃えているならば、いかに失点を少なくするかではなく、いかに相手を圧倒するかを考えなくてはならないはずです。そして、日本のフットボールのあるべき姿を示して行かねばならないのではないのでしょうか。
次に成績、つまり結果についてですが、資金面で言えばレッズはJリーグのバイエルン・ミュンヘン、チェルシー、バルセロナともいうべき存在なのですが、獲得したタイトルといえばナビスコ杯と、天皇杯の2つのみ。真の実力を推し量るバロメーターであるリーグ優勝はゼロという体たらくで、臆病な上に情けないときております。否、臆病だから情けない結果しか付いて来ないのです。
では、臆病ゆえに情けない結果しか付いて来ない理由は何なのでしょうか。
ひとつは、リーグ開幕以来、終始一貫して真に優秀な指揮官に恵まれていないことが挙げられます。恵まれていないというよりは、選ぶことが出来ていないと申しあげるべきでしょうか。また、優秀な監督がいたにもかかわらず、良からぬ力が働いてその首が飛んでしまったケースがあったかもや知れません。しかし、このことは浦和レッズに限らず、殆どのJリーグクラブの強化管理部が良い監督を選ぶノウハウとルートを持ち合わせていないと言わざるを得ず、協会も含めて日本のフットボール界の病巣とも言うべき問題であります。
2000年に清貧弱小の水戸ホーリーホックを率いて、J2に旋風を巻き起こしたバビチ監督が、浦和レッズ戦をホームに迎えた試合前に、「私がレッズの監督だったら、今年優勝させて、来年直ぐに1部で優勝させてみせる。」としみじみ語っていたのですが、彼の指導力を持ってすれば不可能ではないと思った次第です。つまり、レッズは良い監督に恵まれてさえいれば、今頃Jリーグの勢力図は変わっていて、今季などはぶっちぎりの優勝を飾っていたに違いありません。
さて、次なる要因としましては、レッズのフロントが正しい尺度の物差しを持ち合わせていないという事が挙げられます。レッズのフロントは、その殆どがJFLの三菱自工、或いは三菱重工時代から在籍していた方々で構成されており、言わばサラリーマン出身、企業スポーツ出身の人達の集まりです。この手の方々は「長いものには巻かれろ」、「寄らば大樹の陰」、そして「出る杭は打たれる」という世界に浸ることの弊害がどうしても出てしまいがちだと思うのです。
例えば、他クラブよりも圧倒的な戦力を有していると分かっていても、優勝を宣言して万が一出来なかった場合には責任を取らされますから、敢えて公言しないといった具合です。さすがに今年ともなると、リーグ優勝と来季のAFCチャンピオンズリーグへの出場を目標として掲げていますが、もし私がGMであれば堂々とリーグ、ナビスコ杯、天皇杯の三冠宣言を致します。もっとも監督は決してブッフバルト氏ではありませんが。
要するに、知っていて知らん振りを決め込んでいるのかも知れませんが、彼らの戦力を測る物差しは明らかにに狂っているのです。それも他クラブの物差しとでは2倍位の開きがあると思われます。他クラブの物差しでは2メートルのものが、レッズの持っている物差しでは1メートルしかない、そんな感じでしょうか。
その他にも、大株主の三菱自工が度重なるリコール隠しを悪質と指摘され、広告等の自粛を敢行した時や、同じく関連会社の三菱ふそうが人命に及ぶ不祥事を起こした時にも、それらの企業が実質の親会社であるためかついぞMITSUBISHI MOTORSと三菱ふそうのロゴをユニフォームから外すことはありませんでした。このことは前述の浦和レッズの体質を表すひとつの事例だと私は考えています。
どこから見ても誰が見ても日本に於いて全てがずば抜けたクラブであるにもかかわらず、中枢が「いや、まだそんな実力は・・・。」とか、「うちは一歩一歩」とか、「まだまだ足場を固める時期だから・・・」という良く言えば奥ゆかしさ、遠慮、悪く言えば言い訳、逃げ口上を並べるが故に、情けないクラブに成り下がってしまっているのです。上層部が目標を低く設定すれば、部下は本来100の力が出せるのに75程度の力しか出さなくなってしまう。それが人情というものではないでしょうか。
繰り返します。浦和レッズは今のJリーグにあって、あらゆる面で他の追随を許さないメガ・ビッグクラブであります。ダントツです!勝って当たり前、しかも相手を圧倒して勝たなければならないほどの実力差を持ったクラブでなければならないのです。
明日の最終決戦ではどう転んでも優勝するでしょう。そしてAFCチャンピオンズリーグへの出場権も手にするでしょう。しかし、このままでは真の意味でアジアを代表するクラブにはなり得ませんし、運良くトヨタカップに出場出来たとしても、欧州や南米の鼻を明かすようなクラブにはなり得ません。クラブ首脳が狂った物差しを捨てて、正しい物差しをもってこれまでの強化のあり方を反省し、本来歩むべき王道を堂々と進んでくださることを願ってやみません。世界中のフットボールファンが、レッズと言えばリバプールではなく、浦和のことを連想する日の訪れんことを!!
少々長くなってしまいましたが、浦和レッドダイアモンズには本物かつ世界基準のビッグクラブになって日本のフットボールを牽引していただきたいからこそ、また、そうなれる可能性を大いに秘めたクラブだからこそ、いや、あの熱いサポーターのためにもならなければいけないと思うからこそ、自分のことは棚に上げて敢えて激辛モードで書かせていただきました。
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登録日:2006年 12月 01日 23:50:48
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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