高校選手権大会決勝戦に想う

 今年の高校選手権大会はいわゆる強豪校が序盤で次々と姿を消し、準決勝に残った4チームの顔ぶれは実に新鮮でした。決勝戦に至ってはどちらが勝っても初優勝という珍しい顔合わせとなり、何と東北は岩手県代表の盛岡商業高校が逆転の末に初の栄冠を手にしました。

 その盛岡商の華麗と呼ぶには程遠い純朴かつ直向なプレーは、黄金期のスコットランド代表チームを連想させ、林、大山、成田、千葉といった殊勲選手達のパフォーマンスはビリー・ブレムナー、ウィリー・ジョンストン、アーチー・ゲミル、エイサ・ハートフォード、ゴードン・ストラッカンといった小柄ながらも闘志と技術、そしてスタミナを兼ね備えた往年の名手を思い起こさせてくれました。

 
 1970年代から1980年代のスコットランド代表は、前線と最終ラインに長身選手を配したうえで中盤の小柄な選手が縦横無尽に走り回り、ドリブルによる切り崩しと細かいパスからゴールチャンスを創出。小国ながら1974年大会からワールドカップに4大会連続で出場し、何故かいずれも後一歩のところで決勝トーナメントには進めなかったものの、賞賛に値するプレーを披露してくれました。そのプレースタイルを彷彿とさせる盛岡商業のイレブンは、賞賛ばかりでなく見事にタイトルをも勝ち取ったのです。

 斎藤監督が当時のスコットランド代表を意識したチーム作りを行ったとは決して思いませんが、北国気質、朴訥とした県民性など両チームに共通点があることを否定できないことも確かです。もっと言うと、私には斎藤監督とリヴァプールFCを一流クラブに育て上げた名将ビル・シャンクリー(スコットランド人)がだぶって見えて仕方ありませんでした。

 ところで今回の日本テレビ(ch.4)の選手権中継は、試合後のロッカールームにカメラを持ち込んで、敗退したチームの選手の様子や監督の労いの言葉を茶の間に伝えてくれたのですが、非常に興味深く視聴することが出来ました。日頃、日本のマスコミに苦言を呈している私ですが、この中継に関しては「たいへんよくできました」のスタンプを差し上げたいと思います。

 PK戦が多かったこともあり、惜敗を余儀なくされたことによる悔し涙に暮れながらも互いを称え合い、感謝の意を伝える選手達、「ここまでやれたことに胸を晴れ!」と激励する監督、或いは勇退するために感謝と惜別の涙を流す名将の姿と、どれをとっても胸打たれるものばかりでした。

 新年早々、子が親を、そして親が子を殺し、さらには兄が妹を殺してその体を切り刻むなど、暗い世相を反映するかのような悲しいニュースが目立った中で、選手権のロッカールームからの映像は一服の清涼剤、否それ以上の効果を与えてくれる良薬のようでありました。

 また、昨年の暮れには全国の小学生による30人31脚選手権大会の中継があり、ここでも試合後に敗れたクラスメートと担任の先生による涙、また涙のドラマが繰り広げられました。いじめ問題が深刻化している日本の教育現場ですが、クラスのみんなと先生がひとつの目的に向かって、励まし合いながらひたむきに練習を重ね、競技に打ち込む姿も非常に感動的でした。また、特別参加したバヌアツのロカタイ小学校の生徒達の映像を通し、スポーツには国境がないということを再認識させてくれた番組でもありました。この大会に参加した子供達はかけがえのない体験をしていることは勿論、少なくとも深刻ないじめとは縁遠い学校生活を送っていることは間違いないでしょう。

 人類は産業革命によって周囲の環境を破壊し、IT革命によって心身を破壊しつつあるというのが私の持論ですが、混迷を極める昨今の教育現場にあっては、全員が何らかの形でスポーツという文化に親しむことによって大きな改革を成し得るのだと確信する次第です。

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登録日:2007年 01月 12日 21:32:59

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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