良い監督の条件⑥後編

 前回は弱いチームを強く出来る監督について、個人名を挙げながら検証させていただきましたが、今回は具体的な現象に眼を向けながら考察してみたいと思います。

 まず、私は一流の監督であるからには、極端に言うと初心者からプロフェッショナルまで全てのカテゴリーにおいてその指導力を発揮できなければならないと考えます。

 勿論、得手、不得手のカテゴリーがあっても構いませんが、引き受けたからには性別を問わず、どの年代でも結果を出すのがプロフェッショナルであるはずです。

 かつて清貧弱小の水戸ホーリーホックを躍進させたバビチ・ブランコ氏は、スタンコビッチを育てた事で知られていますが、若手を指導して大きく成長させることに無常の喜びを感じるタイプの指導者です。一昨年、OFKベオグラードの指揮を取っていた時も、チェルシーが若手のディフェンダーを獲得しに来たと打ち明けてくれましたが、彼がオシム氏同様に無名の選手や若い才能を開花させ、リスクを恐れないアタッキング・フットボールの体現者へと導く名将であることは間違いありません。

 
 基本的には、まず戦術ありきですが、個々人の才能や特性を見抜く才能に優れ、フィジカルを含めた様々なパターンの練習を駆使して、それは見事に調教して行きます。この選手はX脚だからとか、この選手はやや偏平足気味だからといった具合にそれぞれの選手の身体的特徴もよく理解していて、そういった情報も本人の成長のため、チームのためにフルに活用します。

 また、ブレーメンのトーマス・シャーフ監督は、自分はU-16を皮切りにあらゆるカテゴリーの選手を指導してきたことが大きな財産となっていると語っており、当然ながらそれぞれのチームを率いて結果も残しています。

 清水エスパルスの監督であったゼムノヴィッチ氏も、パルチザン・ベオグラードのサテライトチームを躍進させたかと思えば、市川フッチボールという無名のクラブチーム(小学生)を千葉県のトップクラスへと導き、さらには同じく千葉県の白井町(現白井市)にある小さなクラブのジュニア・ユースチームをヴェルディのジュニア・ユースに負けない存在へと鍛え上げたりしました。しかも、その白井のチームには女の子がひとり入っていたといいますから驚きです。

 結論から申し上げますと、以前に紹介させていた「良い監督の条件」で述べた9つの条件を備えた監督であれば、どんなチーム(弱いチーム)でも強く出来るということになります。

 但し、極稀にですが無名のクラブや弱いチームを躍進させることが出来ても、名門と呼ばれるビッグクラブの指導には向いていない監督が存在します。

 前回紹介したオットー・レーハーゲル氏などがその典型なのですが、ご存知のように彼は弱小クラブだったブレーメンをブンデスリーガのトップチームにまで押し上げ、カイザースラウテルンを2部から1部に昇格させた年に優勝させるという離れ業もやってのけました。

 また、欧州では何の実績も残していない平凡なギリシャ代表を、ユーロ2004で優勝に導くという偉業も達成していますが、バイエルン・ミュンヘン時代だけはスター選手達とそりが合わず、辞任を余儀なくされました。「個人はチームのために」というポリシーが徹底していてスター選手を特別扱いしないからなのでしょうが、バイエルンの多くの選手から拒否されてしまったのです。

 彼は犬ゾリの人間と犬の関係ではありませんが、全ての選手に絶対服従を強いて同じベクトルを共有させる手法でチームを強化させる監督で、従順かどうか夫人に選手の人間性を見極めさせているという噂がある程です。

 レーハーゲルの場合はそういった意味で監督自身のキャラクターが強すぎるのかもしれませんが、いずれにしましても良い監督というものは、どんなチームであれ、その豊富な引き出しの中から然るべき練習メニューを組み合わせ、確実に強化することが出来る人のことを指します。

 過去の歴史を振り返ると、Jリーグには確固たる指導者選びの基準を持っているのか疑わしくなるクラブが幾つも存在しますが、ダメな監督選びは熱心なサポーターと選手への背信行為であるだけに責任は重大です。色々な意味で監督選びが本場欧州の基準に達するには時間を要するとは思いますが、リーグ発足15年目ともなればそろそろ一皮剥けても良い頃ではないでしょうか。

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登録日:2007年 02月 02日 22:54:36

コメント

小谷さん、読ませていただきました。
上げられている条件はすごく常識的なことだと思いますし、他のスポーツにも必要なことだと思います。

監督(指導者)というのは、その場(ピッチでも練習場など)に立ったときに何と言うか・・・「らしさ」というものも醸し出せているのも必要で、雰囲気プラス監督が普段から研究や選手に対しての気配りの努力が伝われば、選手のモチベーションも上がるかと。

また、指導法でも目指すものに対する的確な練習をし、具現化できなければならないと思います。
具現化するには段階的指導法が大事ではないでしょうか?
ジーコのような素晴らしい選手は出来ても出来ない選手がいるのがスポーツ。
そんな中で底上げをしていく為には必要なことではないかと思います。
(段階的にやって出来ていくと選手はついてきますよね)

野球でいえば野村監督などが指導方法や選手管理には卓越したものをもっているかと、また小谷さんの上げる条件もかなり満たしているのではないでしょうか?

素人の私見ですが、オシム監督と野村監督の選手へのメッセージやその伝え方は唸らされます。(野村監督は、「無視」→「ほめる」→「叱る」ですよね。選手の成長に合わせているのが明確です!)

最後にサッカーは資格制度がしっかりしていてうらやましいです。
わたしがやっているスポーツは資格を持っていなくてもでき、資格を持っていても何も反映されないのです。(協会に会費ばかり取られます・・・)
なので選手は指導法も学ばず指導を始めますが結果はうまくいくことばかりではないです。
優れた選手達がしっかり指導法を学んで戻ってきたら経験・カリスマに申し分ない素晴らしい指導者が誕生することが多くなるのでは思います。


小谷さんのを読んだら、ますますオシム監督がいかに監督という仕事に適性しているかが分かります。
長々とまとまらずお恥ずかしい文章で申し訳ありません、許してください。

レコバ @ 2008年 01月 12日 17:17:16

レコバさん

ご丁寧なご報告を有難うございました。

貴殿の携わっていらっしゃるスポーツが今ひとつ何なのかはピント来ない(鈍いですか?)のですが、貴殿のような方の存在によって、きっと日本においてもそのスポーツが発展していくのではと勝手に想像しております。

レコバさんにエールを送ります!

小谷泰介 @ 2008年 01月 15日 12:03:46

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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