フットボール宣言!!(後編)
前回は、「フットボール」や「蹴鞠」「蹴球」「ア式蹴球」などと呼ばれていた英国発祥の球技が明治の初期に日本に伝わり、第2次世界大戦後に進駐軍の影響を受けて「サッカー」という呼び方に変化、定着していった経緯を述べさせていただきました。
別に「サッカー」だろうが「フットボール」だろうが、どちらでもいいじゃないかと思われる方も少なくないかも知れませんが、私にとっては極めて大事なことであります。そして我々が愛して止まないスポーツを「サッカー」ではなく、「フットボール」と呼ぶべきだと心から思うのです。
その理由は下記の通りでございます。
1.FIFAに加盟する200カ国以上の国々の殆どが「フットボール」、或いはそれに準じた呼び方、表記をしているから。
2.フットボールを生んだ英国の人々が“FOOTBALL”と呼んでいることを尊重すべきだから。
3.“JAPAN FOOTBALL ASSOCIATION ”という公式表記をしておきながら、「日本サッカー協会」と平気で言ってしまう無神経さに代表される矛盾がそこかしこに存在し、どちらかに統一されるべきだから。
以上ですが、早速、順を追って補足を加えさせて頂きたいと存じます。
1.に関しましては敢えて補足をする必要はないかも知れません。
皆さんの愛する球技は世界中、特に本場の欧州や南米で「フットボール」と呼ばれており、国際連盟はもとより各大陸の連盟の名称の中に「フットボール」と明記されているのですから、敢えてサッカーと呼ぶ必然性や利便性を私は感じないのです。
ブラジルではフッチボル、ドイツではフースバル、タイではフッボンとそれぞれの国によって多少の違いはあれ、語源は全て英語の“FOOTBALL”に由来します。日本も「フットボール」、或いは八塚浩アナウンサーのように「フッボー」でも良いですから、呼称を世界基準にすべきではないでしょうか。
2.に関しましては、「そんな理由で変える必要はない。」と反論する方がいらっしゃるかも知れません。しかし、日本で生まれた柔道は、世界中どこに行っても「ジュウドウ」ですし、「空手」も又然りです。相撲も「スモー」で統一されていますし、韓国生まれのテコンドーは日本でも「テコンドー」なのです。また、インド生まれのカバディーを誰が「印度式はないちもんめ」などと呼ぶでしょうか。
それは、一つの文化がその国で生まれたことに対する敬意の表れに他ならず、日本も是非その素晴らしい慣習に倣うべきだと強く思う次第です。
「じゃあ、何故PINGPONGのことを卓球、BASEBALLを野球、そしてHORSE RIDINNGを乗馬と呼ぶのか!?」とおっしゃる方に対しては、もし日本で「サッカー」ではなく、「蹴球」という呼び方が定着していたならば、このような提案は致しませんと申し上げたいと思います。
3.についてですが、これは「サッカー」という呼称にかかわらず、日本人の悪癖とも言うべき外来語に対する無頓着さ、無神経さにまつわる話しなので、少々持論を展開させていただくことに致します。
まず始めに、この日本人の悪癖について幾つかの事例をご紹介致しましょう。
その際たるものは、固有名詞です。かつて我が国に於いて南北朝鮮の方々の名前は漢字の訓読みで表現されていました。つい20年ぐらい昔のことです。
例えば、当時の大統領であった朴氏はパクではなく、ボク大統領と呼ばれていました。金大中はキム・デジュンではなくキン・ダイチュウでした。
そう、マンチェスター・ユナイテッドのパク・チソン(朴智星)ならボク・チセイといった具合に発音していたのです。
それが外圧により、クレームを付けられた事で日本の訓読みではなく、当該者の母国語読みが定着したという歴史があるのです。
ところが、同じ漢字を使用する中国人名の読み方はといいますと未だに訓読みです。胡錦涛をコ・キントウ、毛沢東はモウ・タクトウといった具合ですね。しかしながら、同じ人の名前なのですから韓国、北朝鮮の方々のそれのように母国語読みを用いて、それぞれホー・キンタオ、マオ・ツートンと読まなければならないはずです。
天下の大新聞や政治家の皆さんでさえ、この矛盾には気付いておられないようですが、私はとても無神経だと思います。どちらかに統一されていればまだ許されます。しかし、文句を言われたら変えるけれども、言われなければ変えないというのでは、その人間性を疑われても仕方ありません。
自分のことに置き換えてみればよく分かります。私の名前である「小谷」は広東語で「スウィコック」と読みますが、香港の友人は皆「コタニ」と呼んでくれます。韓国の芸能人蹴球団「イレブン」の皆も「コタニ」と呼んでくれます。
私の名前を、漢字を使う他の国や地域の人々が日本語読みで呼んでくれると嬉しいし、外国人の名前はその人の母国語の発音で呼んであげるのが国際人として最低のマナーだと思うのです。
かつてプロゴルファーの青木功が米国ツアーに参戦したての頃、ABCやCBSのコメンテーターは彼のことを「エオウキィ」と発音していましたが、気が付くといつの間にか「アオーキィ」に修正されていました。
また現在、スコットランドのプレミアリーグを実況する地元のコメンテーターも「シュンスケェ ナカムラァ」と澱みなく正しく発音しています。
それに比べると日本人は外来の固有名詞、地名、呼称などに対してあまりに無頓着であるような気が致します。
基本的には正確に聞き、かつ正確に発音しようという努力が足りないのですが、それは島国であるということと、江戸幕府が長期に亘って鎖国政策を国民に強いたという二重のハンディキャップが少なからず要因となっているのでしょう。
なお、我々の身近にも沢山の矛盾が存在するのですが、例えばミシン。蛇の目だのブラザーなどのメーカーが有名なあのミシンは、英語の“MACHINE”が語源です。しかし、“TIME NACHINE”を何と読みますかという問いに「タイムミシン」と答える日本人はまずいません。
また、その語源は“AMERICAN”ですから、「メリケン波止場」ではなく「アメリカン波止場」と呼ぶべきですし、「ボレーシュート」と言うのなら「バレーボール」ではなく「ボレーボール」と言うべきなのです。そして、スペインの首都マドリッドの強豪が何故「レアル・マドリー」なのかも極めて不可解ですし、“BECKHAM”を「ベッカム」とよむのなら、“FULHAM”は「フラム」と読むべきではないでしょうか。
もっとも今まで述べたのは外来語の発音の違いに関することなので、「サッカー」と「フットボール」の違いとは一線を画しますが、海外から伝わったものでその呼び方が統一されていないと言う点では一致を見ます。
サッカーマガジンの最新号の連載コラムのタイトルですが、ジャック・ティベール氏が「フットボールを謳う」、芝山幹郎氏が「Footloose / Football」としており、サッカーダイジェストにも「日本蹴球紀行 フットボールの色彩」、「加部究のフットボール見聞録」、八塚浩のおしゃべりフッボー」というタイトルの連載記事が存在します。
さらに、サッカーマガジンでお馴染みの大住良之氏の肩書きは「サッカージャーナリスト」なのに、サッカーダイジェストで活躍なさっている森本高史氏の肩書きは「フットボールジャーナリスト」です。そしてかく言う私もニッポン放送では「サッカーコメンテイター」と紹介されていました。
また、マスコミはFC東京、横浜FC、愛媛FCはサッカークラブであり、JFAは日本サッカー協会の略称などと、平気で活字にしたりコメントしたりしています。
要するに「サッカー」なのか「フットボール」なのか統一されておらず、混同して使っていても一向に構わないでいるのです。
こんな現状を憂いているジャーナリストは恐らく日本で私だけのようですが、私は気になって仕方ありません。「フットボール」に統一すべきだと強く思います!
そこで、我一人立つ精神に則り「脱サッカー宣言」ならぬ「フットボール宣言」を致したいと存じます。
私、小谷泰介は今後、いついかなる時も世界中の人々に最も愛されている球技の名称を「サッカー」ではなく、「フットボール」と呼び、書くように努力、啓蒙することをここに宣言致します。そして、日本国中の一切衆生が「フットボール」と口を揃える日の到来することを熱望致致します。
また、私の意見に賛同くださる方がいらっしゃれば、その運動に加わってくださるよう希望する次第です。
以上、今回は長時間に亘り、私の持論にお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。厚く御礼申し上げます。
コメント[6], トラックバック[0]
登録日:2007年 02月 15日 13:07:22
コメント
フットボール宣言に関しては同意しますが、発音の違いに関しては消化不足/勇み足かと思います。いばらき/いばらぎ、やまさき/やまざき、「なをみ」と書いて「なをみ」/「なをみ」と書いて「なおみ」など日本語の例もありますし。
あと、「オーストリー」の話題を枕にしてもよかったかと。
余談ですが、一月ほど前にベッカムがMLSへの移籍を語るインタビュー映像がニュースで流れましたが、そこでは「soccer」と言ってましたね。米国での収録かどうかはわかりませんが、さすがマーケティングに長けていると思った。
Michael @ 2007年 02月 15日 19:23:59
Micaelさん
フットボール宣言に対するご賛同、そして貴重なご意見誠にありがとうございます。
ベッカムのインタビューに関する記述は、おっしゃる通りですね。恐らく彼のマネージメント会社がアドバイスしたのではないかと思っています。
でも、私生活では今でも間違いなくFOOTBALLって言ってるでしょうね。当たり前の話ですが・・・。
小谷泰介 @ 2007年 02月 15日 19:59:49
こんにちは
人名の読みについては、少し違ったはず。
その国で、該当国の読み方をしている場合、日本でも、その国の読みをニュース等では
使うと言う紳士協定なのか、だったと思います。
(うろ覚えで申し訳ない)
# 中国は、まぁ、相手にするのもどうかと思う場合があるからね。
人名に関しては、何系何人で同じ綴りでもかなり違う発音をするらしいです。
ex.セルティックのズラウスキは、ジュラフスキなのかズラウスキなのか…解らんです。
サッカーは、隠語の意味でもイカンと言う話もありますが、
日本でのフットボールはアメリカンフットボールのことで、アメリカに倣ったんじゃなかったかな?
# でも、「ミシン」や「めりけん」は、コタニ式ツッコミは違うと思うよ。
それに、英語圏でも、日本人名を発音できない人が普通にいます。
ジャーナリストだって。
# コタニ、って言い易いですから。
フランスのように外来語を吟味する事を国レベルで行っていないのは事実です。
では、ジャーナリスト間でそういう協議(会議?)を起こさないのは、何でですか?
放送局では、最低限の部分は協議されていたかと思います。
# NHKの「ことばオジサン」が時々、話していますね。
サッカーの話に限れば、フットボールと呼ぶのに大賛成ですね。
ルッぐん @ 2007年 02月 21日 14:55:20
ルッぐんさん
コメントありがとうございます。
ミシンやメリケン等に関するツッコミは、勢い任せだったと自嘲せざるを得ません。ご指摘ありがとうございます。
一方で、話の核心について大賛成していただき、大変に嬉しく思います。
小谷泰介 @ 2007年 02月 21日 19:41:45
今更ながらコメントさせていただきます。フットボールと呼ぶことに関して私は賛成です。
小谷さんの考えている理由も自分は考えました。しかしサッカーと呼ぶことが定着している日本のマーケットにおいてフットボールと呼ぶことでどのような利益がもたらされるのでしょうか?この事を明確にしない限り日本での呼称変更は難しいように思います。フットボールと呼ぶべきだ、そう呼びたい、という私的なこだわりに終わってしまような気がします。
ビジネスの観点から言うと小谷さんはどういった考えをお持ちでしょうか?ご意見をお聞かせ願いたいと思います。
そしていくつか本文で気になった点があります。小谷さんの概念からすると、言語を尊重するならばマドリッドはマドリーと呼ぶべきです。実況の際に言語にとk別こだわりをみせる倉敷保雄さんもそう呼んでますし。そして、アメリカではラテン語圏の発音を英語読みしているのが事実です。ヨハネ・パウロのこともジョン・ポールと呼んでいました。
uzic @ 2008年 01月 16日 18:25:14
uzicさん
簡潔ながら、明確で鋭いコメントを有難うございました。
経済的に潤うとか利益がもたらされないと、故障の変更は難しいという主張でしたが、キャプテンあたりが号令を発すれば何年かごには定着するのではないでしょうか?
サポーターという呼称は、一昔前はファンでしたが、キャプテン(当時チェアマン)の呼びかけで見事に定着しましたよね。
私が呼びかけても何の説得力もありませんが、組織のトップが決意すればきっと可能だと考えております。
小谷泰介 @ 2008年 01月 16日 20:12:15
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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